言葉の記憶がなくなる...前頭側頭葉変性症のうちの1つ「意味性認知症」
前頭側頭葉変性症。
明らかな「性格変化・行動変化」「言語障害」を特徴とする病気です。
名前の通り、脳の前頭葉・側頭葉に病変があります。
これが原因となる認知症について、お話しします。
前頭側頭葉変性症による「認知症」
前頭側頭葉変性症による認知症には、大きく3つに分けられます。
脳の萎縮する部位によって、さまざまな症状が現れます。
① 前頭側頭型認知症
前頭葉を中心に萎縮することで生じる認知症です。
社会的に不適切な行動(平気で人を傷つけることを言うなど)や
礼節の低下が起こります。
検査場面では、置いてある用紙を勝手に触り始めたりします。
日常生活では「同じ行動を繰り返す」「甘いものが好きになる」
「怒りっぽくなる」などさまざまな症状が生じます。
② 進行性非流暢性失語
左半球のシルビウス裂周辺の萎縮により生じる症状です。
「失語」とあるように、スラスラと話すことができなくなります。
発音が悪く、つっかえるように話し、言葉の間違いも多くなるのが特徴です。
③ 意味性認知症
今回の記事のテーマにしました。①②も同様に、若い方になりやすいものです。
左半球の側頭葉に萎縮が生じ、言語機能障害(いわゆる失語症)を呈します。
「単語に関する記憶が消える」ことが特徴で、次から詳しく説明していきます。
その他の認知症について、こちらの記事もご覧ください。
言葉が通じなくなる「意味性認知症」とは?
意味性認知症の方の特徴的な返答があります。
たとえば「今日の調子はいかがですか?」と質問をしたとします。
すると、どのように返事が返ってくると思いますか?
「え?”調子”ってなんですか?」
私たちと同じようにスラスラ話すことができます。
文章の構成(主語・述語の順番など)も特に問題がなさそうです。
しかし、明らかに「単語」の意味だけが通じていません。
「○○ってなんですか?」という返答。そして実際に実物を見せると、
「あ〜これが○○って言うんですね」と納得されます。
このように、「単語の意味だけが消えてしまう」のが特徴です。
ほかにも言葉が出てこず(喚語困難)、「あれそれこれ」などの指示代名詞を
多く使うようになります。
日常生活でどのようなことが難しくなるのか
単語の意味が抜け落ちてしまう、意味性認知症。
どのようなことが問題になってくるのかみていきましょう。
• コミュニケーションがとれない
当たり前のことですが、言葉が通じなくなるので日常会話ができなくなります。
発症直後はそれなりに会話ができたとしても、進行するにつれて
日常生活で頻繁に使われる言葉も理解できなくなっていきます。
• 仕事ができなくなる
意味性認知症のように、若くして症状が出る方は「現役」で仕事をしている方が
ほとんどです。言葉が理解できない失語症は、仕事を辞めざるを得なかったり
部署や仕事内容を変えるなどの対応が必要になります。
また、家計を支えている方では経済的問題にも発展します。
• 自動車運転での危険が高まる
失語症が生じているため、文字の道路標識などの理解ができず、事故を起こす
可能性が高くなります。
認知症と診断され、薬の処方や検査などで運転能力に低下があると判断されれば
運転は辞めることになります。しかし仕事をしていると運転は必要になるもの。
若年性の認知症では、簡単に「免許返納」を選択できない場合も多いのです。
• 一人で生活ができなくなる
若い方で一人で暮らしている方も少なくありません。
言葉が通じない・仕事ができないなどが重なれば、一人での生活は困難です。
早期からリハビリを開始することが大切
リハビリテーションというと「能力を改善する」というイメージが強いかもしれませんが、症状が必ず進行してしまう認知症では「いまの状態をなるべく維持する」「進行を少しでも遅くする」ことを目的としています。
そのため、(ほかの認知症でももちろんですが)診断されてからすぐにリハビリを行うことが大切になります。
意味性認知症の場合、失語症状に対する「言語リハビリ」を行います。
目的は「残っている言葉が消えないように維持していく」こと。
進行は避けられないため、消えてしまった言葉を再び覚えるようなリハビリは
行わない方が良いでしょう。
まず「家にあり使用頻度が高いもの」で「まだ理解できるもの」を選びます。
そして写真に撮り、裏面などに名前を書いておきます(漢字にはふりがな)。
患者さまには、写真を見て物の名前を答えてもらう(呼称課題)、もしくは
名前を紙に買いてもらう(書称課題)というリハビリを行ってもらいます。
これを自宅でも取り組んでもらうように指導します。
定期的に状態を評価する際には、日常生活で使えるかどうかを確認します。
日常生活では使わない単語はリハビリに入れる必要はありません。
このリハビリのデメリットは「抽象的な言葉」には使えないということです。
意味性認知症は具体的な言葉が抜け落ちやすいため、先ほどのリハビリで効果的なこともありますが、「”調子”ってなんですか?」のような「調子」という言葉は
なかなか説明が難しく、ましてや写真に撮ることはできません。
まずは「診断後すぐにリハビリをすること」が大切ですが、
病院によってはそのような体制がつくられておらず、経過観察しか行われていない場合もあります。
ご家族もどうして良いかわからずに、何もできないことも多いようです。
まずは、認知症の症状の理解から。
どの病院でも、じっくり症状をご説明し、ご家族に理解を促せるような環境が整えばいいなと思います。
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