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多摩川にさらす手づくりさらさらに何ぞこの児のここだ愛しき 詠み人知らず

多摩川に、布をさらす手。
その布をつくった、同じ手。
どうしてだろう。
こいつを、こんなところで、
たまらなく愛しく思うのは。

万葉集

帰省したときに多摩川の写真を撮ろうと思っていたのに、忘れた。
したがって、上の写真はスマホのカメラロールを遡って見つけた過去のものだ。
過去の多摩川といえば、思い出はいくつもあるはずだが、いま思い出すのは中学3年の夏、親しい友と過ごした時間のことだ。
高校見学に行った帰り道、
祭りの喧騒から逃れるように歩いた日、
そんな時間のそばにはいつも多摩川が流れていた。
ただ水面を眺めながら話をしたり、
あの辺まで行ってみようぜ、
そう言って、川の中へ入っていったり。
たいしたことではない。
今おもえば、何がそんなに楽しかったのだろう。
でも楽しかったのだ。
あいつがいたから。
あいつだから、楽しかったのだ。
多摩川に身をさらすという歌との共通点から、いつしか僕は、そんな懐かしい気持ちを思い出していた。

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