There is no Frigate like a Book — 書物はどんな船よりも遠く
There is no Frigate like a Book —
To take us lands away
Nor any Coursers like a Page
Of prancing Poetry —
This Traverse may the poorest take
Without oppress of Toll —
How frugal is the Chariot
That bears the Human soul.
書物はどんな船よりも遠く
私たちを運んでくれる
ページを踊る詩句には
どんな駿馬も追いつけない
もっとも貧しい人たちも旅に出られる
かねの音の重さに 心をつぶされることもない
なんて質素な馬車でしょう
人の魂の揺りかごは
書物への愛がこぼれるように、豊かな比喩が展開するイメージの世界。それは時間にしたらほんの一瞬で、しかし一冊の書物を閉じたときのような、充実した読後感を残していきました。
この詩、好きです…(語彙力…)。
翻訳では、心を砕いた箇所がふたつあります。
まずは、2行目。
take以下を文法的に正しく読もうとすると、二通りの解釈ができると思います。
take us away (from) Lands
(書物は)私たちを陸地から遠くへ連れ出してくれる
take us (to) Lands away
(書物は)私たちを遠くの国へ連れていってくれる
さて、僕はどちらで訳したかというと、なんと……どちらとも取れるように訳しておきました!(ずるい!?)
しかし、実際の書物の効果から考えてみても、
現実を忘れされてくれる(from Lands)
空想の国へ行ける(to Lands)
どっちか、と言われたらやはり迷います。やっぱり、どっちも、かな。
とすると、この二つはけっきょく同じことなのかもしれません。旅の「出発」に重きを置くか、「到着」に重きを置くかで、表現に差が生まれるようなもので。
というわけで、takeが、連れ出すのか、連れて行くなのか、あえて中間的に「運ぶ」と訳したのはかえってよかった気がしてきました。どうぞみなさん、自分のイメージで読んでください。
さて、もうひとつ訳すときに気をつかったポイントは、6行目。
tollには、交通料金と、そして、鐘の音というふたつの意味があります!またかよ!
しかし、これはすごいですよ……
出発の合図(鐘の音)の圧迫がない、というのは、自分の気分で、好きなときに始められる、読書という行為のことを言っていると分かるし、
交通料金の圧迫がない、というのは、実際の旅には必要な、しかし書物の旅にはたいしてかからないお金のことだと分かります。
そしてどちらにせよ、つまり、時間にしてもお金にしても、それがなかなか自由にならない人たち、前の行で出てきた 「the poorest 貧しき者たち」 に関わってくる。すごくないですか?……
僕も和歌の掛詞を駆使して、「かね」と訳し、「鐘」と「金」の二つの意味を込めました。いやー、言葉の違いって面白いですねえ。
さて、
このまま語り続けるとキリがなさそうですし、もはや中途半端に言及しても蛇足になりそうなので、この辺でおしまいにします。ぜひ味わって読んでいただきたいです。
スバラシイ詩…
P.S.
冒頭に使わせてもらった絵画は、ジョセフ・クロホールの『二輪馬車』。
実物を見たことがあるのですが、馬のシルエットのあまりの美しさに心を奪われました。
『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICHINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR