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万葉旅団

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#大伴家持

新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事

新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事

新年の歌といえば、まっさきに思い浮かぶのがこの家持の歌だ。ただ今が正月だからというだけでなく、今の僕の心境とも重なる、とてもいい歌だと思う。

上の句で三重にも重ねられる「の」。その音の弾むようなリズムが心地よく、この先もどこまでも続いていきそうで、また、続いてほしいと、そう思わせてくれる。

去年見た、junaidaの「の」を思い出す。
「の」が生み出すリズムに乗って、想像の情景や物語がつぎつぎ

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わが宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも 大伴家持

わが宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕べかも 大伴家持

この男の身に、いったい何があったというのだろう。あるいは存外、何もなかったのかもしれない。ただ一つ確かに言えるのは、男には心細さがあったということだ。そういう心持ちであったと解してこそ、家の庭の少しの竹の間を通り過ぎる風の音が、かすかに、聞こえてくるのである。

心を吹き抜けていく風の来し方に思いを巡らせていると、この心細さは人間本来の孤独に由来するのではないかという気がしてくる。
人はみな孤独だ

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多古の浦の底さへにほう藤波を挿頭して行かむ見ぬ人のため 内蔵縄麿

多古の浦の底さへにほう藤波を挿頭して行かむ見ぬ人のため 内蔵縄麿

750年4月12日。
越中守として赴任中の大伴家持は、部下や役人たちを引き連れて布勢の湖(現在の富山県氷見市にある湖)に遊覧し、多古の浦に船をとめて藤の花見をした。縄麿はそのうちのメンバーの一人で、今回の歌は、そのときに作られた。

ちなみにこれが、このとき家持が詠んだ歌。

なるほど、こちらの方が、実際の光景を思い浮かべやすいかもしれない。
そういう意味では、縄麿の歌の方は表現が明らかにオーバー

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