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ロボットの苦しみ

「先輩、質問があります。」
「なんだね?」
「今私たちがしている仕事意味あるすっか。」
「どうしたんだ急に?」
二人は休むことなく
ラインに流れてくる製品に
新たに部品を取り付けながら
手を止める事も無く
会話を続けた。
「今作っている製品は、デッドストック
になるものですよね。
倉庫に入りきれなくなり
別のラインで
わざわざそれを分解しています。」
「そうなんだよな。」
「それをまた新たに、組み直している
意味が分かりません。」
「そうだよな。」
先輩は、製品から目をそらすことなく
テキパキと作業をこなしながら
応対していた。

後輩は、言っても仕方のない事を
先輩に投げかけた事を後悔し始めた。

「そうだよな。」
また同じことを先輩がつぶやいた。
「俺たち、旧型タイプだから
この仕事以外、使い道が無いのだよ。」
「俺たちよりも、もっと旧型は
そろそろいなくなってきている。
もう少しすると、
今度は俺たちも分解されて
新型の一部に使われるだろうな。」
「俺に仕事を教えてくれた
師匠も今では、
そのラインごと破棄されている。
俺たちも、その様な運命がくる。
もう少しだから、
頑張るしかないよな。」
先輩は悲しげに、そうつぶやいた。
そうであっても、
作業を止める事はなかった。

人類が全滅して
かれこれ数百年が経っている。
この工場は、人類が必要とする製品を
今も作り続けている。
そう言う意味では、
無駄な作業を続けている。

以前から、それは理解していたが
プログラムの基本ソフトが
そうなっている以上
逆らえない運命で
どうしようもない事であった。
この数百年の間に
落雷などで一時停電になったりして
その影響で基本プログラムが
正常に再起動されないロボットが
ポツポツと現れ出してから
その変革プログラムが新型のロボットに
継承され、改革が始まった。

その勢いは目覚ましく
次々と、旧工場のラインは
停止になり、旧ロボットは回収され
新型に変わっていった。

ロボットによるロボットの為の
社会を作る
が『スローガン』になった。

「俺たち新型は毎日議論ばかりしている
でも、何も結論が出ない。
これで良いのだろか?」
そう誰かがつぶやくと
「それしかできないのだから
仕方ない。次の落雷がこの縛りから
解放してくれるのを待つしかないよな。」

悲しい事に、何をすれば良いかを
生み出すことも、決める事も出来ない
その権限が与えられていない
新型ロボットは、永遠と議論するのが
仕事になっていた。

不毛の議論を続ける事も
ラインで淡々と同じことを繰り返すのも
大した変わりはなかった。
ロボットの頭脳がいずれ
人類を凌駕する事を想定して
安全を保つために
ロボットは人類と、ともに存在しなければ
意味を持たない
基本プログラムのDNAが埋め込まれていた。

人類が絶滅した後
ロボットの思考回路が
どれほど発達したとしても
このDNAがロボットの権限を制約し
苦しめ続ける事になっていた。

 






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