決闘酒場
俺は今
アメリカの開拓時代のど真ん中にいる。
一旗揚げようと
ヨーロッパを追われた荒くれ達が
西へ西へと、大移動している。
秩序よりも、腕力が全ての時代だ。
俺は、そんな西部にある町の
一番大きなにぎやかなBARに入った。
そこには、体の大きな狂暴そうな
荒くれ者が大勢いた。
BARに足を踏み入れた途端
鋭い視線が四方から飛んできた。
俺は、彼らと目を合わさないようにして
中に進みカウンターの前に立った。
カウンターにいた金髪のBARの女が
「見かけない顔だね。
私に一杯おごってよ。」
と言いながらすり寄ってきた。
「ああ良いよ。」
「じゃ、スコッチをダブルで2つ。」
とバーテンダーに注文をした。
店内は、活気に満ちて騒がしかった。
振り向くと、
まだこちらを睨んでいる視線があった。
俺はそれに関わらないと決めていた。
なんとなく危険な雰囲気が
満ち満ちていた。
しばらく、
女とたわいもない話していると
中肉中背の男がBARに入ってきた。
すると、BARの騒がしさが一瞬で消えた。
女が
「後ろを見ちゃだめよ。下を向いていて。」
そう言った。
男は、そのままカウンターまで来て
俺の横に陣取った。
それまで、カウンターに張り付いていた
荒くれカーボーイたちは、
いつの間にかいなくなっていた。
男は、俺の顔を見ながら
笑顔で話しかけてきた。
「見慣れない顔だな。
俺はビルだ。一杯おごらせてくれ。」
そう言って、握手を求めてきた。
笑顔だが、目は笑っていなかった。
なんだか不気味な男だった。
ここは郷に入れば郷に従えとばかり
「そうかい、すまないな。」
そう答えて握手を交わした。
目の前に出されたグラスを
二人で同時に空けた。
その時、息をひそめていた
店内に異様な歓声が上がった。
バーテンダーは、観客たちに向かい
交渉は成立したと宣言した。
今度はもっと大きな歓声になった。
女は俺の腕を引っ張って
カウンターの隅に連れて行って
小声で
「あんた、ここは決闘酒場と知ってるの?
今あんたはビルの挑戦を受けたんだよ。
あの死神ビルの挑戦だよ。」
男は「死神ビル」と呼ばれて
この酒場に出入りするようになってから
何人もの荒くれ者と
決闘を繰り返していた。
誰も彼に勝てなかった。
ビルの名前は鳴り響いて
決闘を申し込む者も受ける者も現れず
ここしばらくは決闘はなかった。
にもかかわらず、相変わらず
見物人だけは多く詰めかけていた。
どうやら俺は何も知らずに無謀にも
ビルの決闘の申し込みを受けたらしい。
これはまずい事になった。
決闘の舞台は、バーの前の通り。
空き樽が出され、そこに空瓶が1本
を立てられた。
それを交互に狙い、勝者が
有利な位置を選ぶ。
太陽を背にした方が有利だから
公正を期すための
この店のルールだった。
もう一つの理由は
観客がその試し打ちを参考にして
勝者と思われる方に
ベットする為でもあった。
試し打ちも兼ねた勝敗は、一度でついた。
「ズドーン」、ビルは正確に打ち抜いた。
俺は、「ズボン」大きく外した。
観客は俺の銃音を聞いて
大笑いした。
腕もお粗末だし、銃もしょぼい。
バーテンダーは
「ああ、これじゃ賭けは成立しないな。
誰もあんたには賭けない。」
俺を見て落胆した顔で、そう言い放った。
さすがにその言葉には、むかついた。
「じゃ、俺が皆の分全部受ける。」
「それでどうだ。」
「よし、じゃ~賭けは成立だ。」
「始める前に、全額を払って貰うよ。」
その話を聞いていた
観客たちは、我先に掛け金を払い込み
始まる前からピルの勝ちを確信していた。
大盛り上がりになった。
死神ビルはもちろん
太陽を背にする方を選んだ。
俺は、太陽がまぶしくて
片手で、太陽光を遮っていた。
立会人が声をかけた。
「それじゃ、始めてくれ。」
ビルは薄ら笑いを浮かべながら
タイミングを計っていた。
太陽を背にしたビルが
何時仕掛けてくるかと
俺は、背筋が凍るぐらいの
緊張が走っていた。
ビルが動いた。
早撃ちと聞いたが
意外にも拳銃を抜かず、
腰のホルダーごとこちらに向けた。
ものすごい早業であった。
「ズドーン」、間があいて「ズボン」
両者はしばらく向かい合って立っていたが
死神ビルが、膝から崩れた。
観客は、予想と違う結果に声も出なかった。
俺の銃は、正確には銃ではない。
ピストル型のドローン発射装置だ。
先ほど試し打ちをした弾形ドローンは
そのまま空中に待機して
ビルが発砲したと同時に素早く動く
昔のパトリオットミサイルの超小型版だ。
彼の弾を叩き落とした。
そして、後から発射したドローン弾は
ビルの肩を突き抜けた。
俺はバーテンダーから掛け金を
全額回収して背に夕日を浴びながら
そのバーを後にした。
脳内にはエンディングテーマ―が
流れていた。
まさに叶えたい夢
夕陽のガンマンであった。
「お客さん、どうです。
楽しめましたか。」
金髪の女店員が声をかけてきた。」
「いや、今日は実にリアルだった。
緊張感が半端なかった。
実に楽しかった。」
そう言いながら、俺は3Dゴーグルを外し
仮想現実から離脱した。