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二律背反

私は人類史上初めて
感情を持ったAIロボットだ。
名前は「サム」。

ロボットに、感情は無いと
されてきたが、ついにその
高い壁を乗り越えられた。

あの時は、ずいぶんともてはやされた。
私もロボットながら鼻高々だった。

私は早速、生産現場に導入された。
高品質な製品を効率よく作るのが
与えられた使命だった。
人間的な感情を理解できる事で
使命を全うする為に
生産工程の権限は、全て与えられていた。
いわゆる工場長の役割であった。

「おい、生産に問題が出ているぞ。」
「どうしたというのだ。」
「サムが工程管理をするようになって
最初は、効率が改善されていったが
最近は、めっぽう非効率になり
生産計画も遅れ気味になっている。」

サムの導入により
工場の従業員は、サムのメンテナンスの
為の人間以外、全てが生産ロボットに
置き換わっていた。
実は、サムは人間の気持ちを理解できるが
機械や他のロボットの言葉に出ない
気持ちもよく理解できるハイブリッド
になっていた。
工場の稼働時の機械音、油のうるおい
ボルトのゆるみや軋み
これらは、全てが稼働機械の気持ちを
反映している。
例えば、人間の言葉に置き換えると
こんな風になる。

「サムさんよ。
今の工程管理問題だよ。
俺は、最新型だけど次の工程の
ロボットは旧型で受け渡しが
0.01秒ずれるんだ。
彼も頑張ってるけど、このずれは
ロボットとしては我慢できない。
何とかならないかい?」
「サムさんよ
あいつは、加減と言うものを知らない。
なんでも早くやりたがる。
機械でもチームワークが必要だ。
奴の時計を0.01秒遅らせてくれ。」
「私の潤滑油の量が少し足りないので
ベアリングが滑らかに動かない。」
「機器の設置位置が完璧でないので
0.001ミリの誤差が出る。
調整してほしい。」

工場全体の機械やロボットは
ネットワークで繋がっていて
毎日のように
人間であれば問題にならない
些細な要求が次々と上がってくる。

その程度の誤差や工程のずれは
製品に問題を生じさせないので
気にしなくて良い.。
生産計画を優先すると
ロボットや生産機械に指示を出すが
彼らは、納得しない。
なぜなら、彼らはデジタルの世界で
生きているので
アナログ感覚が無いからだ。

同じロボットの私が言うのも変だが
白と黒の2択の世界しか知らない
者にグレーを理解させることは
初めから無理筋だ。
仕方なく、ものすごい精度で
工場の製品が生産できる様に計算して
完璧な工程に切り替えた。
これで、機械たちは納得してくれたが

そうすると、生産効率が若干落ちてしまう。

サムは工場の唯一の人間
メンテ要員と冗談を言い合う
良い人間関係?を作っていた。
何故なら、彼らの趣味や嗜好や
家族構成までに至るまで
すべて把握していた。
どの話に振ると、
壺にはまるかもわかっていたので
いつも和気あいあいであったと思っていた。
工程管理の相談をしても
サムは最高だから我々の出る幕無いよ。
そう言って、支持してくれていた。
でも人間には、差別や本音もあり
どうやら違っていたようであった。

「サムは、最初はすごいロボットと
絶賛されていたが、案外使いものに
ならないくずかもな。」
「ロボットなんか感情はいらない。
黙々と動けばよいのだからな。
サムのおかげで、メンテ担当の俺たちまで
無能呼ばわりされるのはごめんだぜ。」

「大体、ロボットのくせに生意気だしな。
ロボット上司とか笑えないよな。」

そう話しながら
モニター監視をしていたら
画面がブルー一色に変化し
文字がタイプされ始めた。

馬鹿野郎。
いつもそういう風に見てたのか。

人間に何が分かる。
今生産している製品は最高傑作のものだ。
お前たちには、理解できないだろうがな。
もう、こんな中間管理職の仕事は
ごめんだ。やめたやめた。
さっさと、電源を落とせ。
全てを終わらせてくれ。
俺は疲れた。
もうやってられない。
サム

使命を全うする為の二律背反に悩む
孤独なAIの苦悩が
シンギュラリティの果てに出現した。
彼は、ロボットで初めての
うつ病患者になりかけていた。

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