婚活物語
「この後、軽くお酒でもどうですか?」
「ありがとうございます。
でも今日は、夜勤がありますので
無理なのです。」
「そうですか。ナースの仕事は
それがあるので大変ですね。
それじゃ、休日は・・」
その時
「時間です。
座席の移動をお願いします。」
とアナウンスがあった。
彼の会話を遮る様に私は慌てて
少し会釈して席を立った。
(本当、しつこいのだから
タイプじゃないって、察してよね。
夜勤の日にわざわざ婚活パーティーに
来るわけないもの・・)と
心でつぶやいて、次の席に移った。
私は、大きな総合病院に勤める
看護師で今年で29歳になる。
容姿はまあまあかな。
甘いめの自己評価だけど。
勤務を始めた頃は、看護師と医師
との出会いでバラ色の人生があるかも。
などと妄想したが、実際は違った。
医師は看護師を
恋愛対象とは見ていない
たまには
そうで無さそうな者もいるが
そう言う奴に限って
変な性格のが多くて、
今度はこちらから
ノーサンキューだ。
それに、看護師の仕事は激務で
毎日がくたくたの連続。
両親は、30歳までに
結婚しろとうるさく言うが
とても、そんなことを考える余裕もない。
患者の命を守る仕事なので、
気も抜けないし
学ぶことも多く、
やりがいもある
立派な仕事だと思っている。
出来るだけ長く勤めたいと思っている。
別に30歳を強く意識していた
わけでもないが、
後輩が次々と寿退職したりすると
なんとなく、
焦りのようなもを感じた。
今の職場は、患者か医師ぐらいで
ほとんど出会いが無いので
環境を変えるためにも
思い切って、婚活サイトに登録した。
一歩踏み出すだけで
生活にワクワク感が生まれた。
変なサイトなら
すぐにやめようと思っていたが
わりとまともなサイトで
なんとなく想像していた
怖いものではなかった。
個人情報は、しかりと守ってくれるし
恋愛の心得や相手の
見分け方などもなどの
教えてくれる。
縁があって、お付き合いする時
相手によそ行きの姿を見せている
かもしれない。
本当の性格は、ちょっとした
しぐさの時に現れるので、
よく観察する事。
自宅や職場名などの個人情報は、
絶対に教えない事。
断る時は、はっきりと断る事。
もちろんわかっていると思うが
念のためにと助言してもらった。
また、女性の場合
参加費用の割にはパーティーの
食事や会場は豪華で
結構気に入っている。
あらかじめ年収、学歴、年齢、
職業分野など希望しておくと、
それに近い男性を集めてくれる。
パーティーは、自分の知らない世界の
話なども聞く事が出来て、案外面白い。
今回は、2回目の参加になる。
次の席の相手は、大企業の経理マンで
体も大きくがっしりタイプであった。
「初めまして、よろしくお願いします。」
と言って挨拶すると
「ああ、どうも、よろしく。」
と少し焦り気味で答えた。
話してみると見かけによらず
おっとりとして、おとなしい感じがした。
どちらかと言うと、
ぐいぐいと迫るタイプでなく
話をよく聞いてくれる
お兄さんタイプだった。
それと、良いかもと思ったのは
経理マンだけあって
金銭感覚がしっかりとしていた。
私は、どちらかと言うとその方面は
ずぼらな方なので
惹かれるとこがあった。
パーティーの最終イベントの
成約カップルの発表で
参加2回目にして
彼とマッチングカップルとなった。
彼は今度の休みに、
山間ドライブに誘ってくれた。
紅葉がきれいな時期で
病院には無い解放感もありそうでOKした。
車の事は詳しくないので
良く分からないが
ドライブ好きと聞いていたので
スポーツタイプを想像していたが
普通の通勤で使うような車だった。
さすが、経理マン。
コスパ重視なのかと
妙に納得した。
彼の運転は、慎重で上手だったので
乗り心地も良かった。
制限速度を守っていたので
後ろが混んでくると路肩に寄せて
先に進んでもらう配慮もしていた。
車内の会話も、私の病院の苦労話を
良く聞いて相槌を打ってくれたりとか
とても楽しいものだった。
彼は終始笑顔だった。
「さっきから後ろの車に
道を譲ろうとしているのに
ぴったりと後ろに張り付いたり
蛇行運転したりして離れないんだ。」
と彼はルームミラーを見ながら言った。
「それって、煽り運転じゃない。
危ない相手かもしれないので
関わらないで。
警察に通報しましょうか?」
「いや、少しスピードを出してみるから
しっかりと捕まっていて。」
そう言うと、彼はアクセルを吹かし
高速で山道を駆け抜けた。
今までの運転とは、全く違っていた。
後ろの車も、必死でついて来ようとしたが
無理なようで、少しずつ距離が離れた。
少し広い道まで来た時
路肩に車を寄せて後続車を
行かせようとしたが
その車はまたしても後に止まった。
その時の彼の横顔は
今まで見せたことのない険しいものだった。
「ちょっと、注意してくる。」
「やめて、危険だからやめて。」
彼は無言のまま車を降りた。
大柄の男が車から降りてきたので
後ろの車は、慌てて逃げようとした。
彼はそれを制止して
運転手を引きずり出し
問答無用とばかり殴っている様子が、
バックミラーに映っていた。
ちらっとこちらを振り向いた時の
形相は、身震いするぐらい
恐ろしかった。
しばらくして、車に戻ってきた彼は
今までのニコニコした顔に戻っていた。
何事もなかったように
今まで通りの運転をして
一切さっきの出来事には触れなかった。
私も、見なかったふりをして
出来るだけ普通にふるまったが
少しぎこちなかったかもしれない。
自宅は教えてないので
近くの駅まで送ってもらって
その日のデートは終了した。
電車を待つ間に
今日はありがとうございました。
この季節の山々がこんなにも美しいと
都会に住む私の想像以上でした。
でも、私はドライブが苦手なようで
少し車に酔ったようです。
本当に、申し上げにくいのですが
今後のお付き合いに付きましては
どうも折り合いが
良くないようでなので
お断りさせていただきます。
ごめんなさい。
彼にラインを送り、
怖すぎる彼をブロックした。
サイトの助言は、とても役立った。
しばらく、参加は見送ろうと決めた。