そうだ、本の話をしよう-後宮史華伝シリーズ
中華と後宮、私の大好物である。
おまえ、恋愛苦手ちゃうんか、と言われそうだがそれはそれ、これはこれ。
小説における恋愛描写は感情の動きが面白くて、興味深くて結構読む。(ただし好き嫌いはある)
「後宮史華伝」
著者:はるおかりの
レーベル:集英社オレンジ文庫
ISBN: 978-4-086-80537-7
刊行:2024年1月
最新刊はこちらだが一冊目はこちらになる。
集英社コバルト文庫→オレンジ文庫と移動してきたシリーズになる。
舞台は架空の中華風の国、ややファンタジーの要素を含むが呪術がどうだとか仙術がどうだとかがゴリゴリに出てくるタイプではない。
むしろ人間関係、恋愛関係、そして後宮ならではの愛憎がメインである。
個人的には読みやすい文体、好きなテーマなので何度も読み返している作品だ。
今回はシリーズ紹介なのであまりネタバレはない。それでも事前知識なしで読みたいという方はお気を付けいただければと思う。
舞台となる凱王朝は中国の唐朝+明朝に清朝の要素を加えた設定となる。
後宮の位階設定などは唐の影響が強いだろうか(四妃九嬪)。一方で印刷技術などの描写もあり、これは北宋以降の技術なので唐だけをベースとしているわけではない。
また、ストーリー上はドルゴンを連想させる展開が現れたり、妓楼の描写であえて両把頭スタイルを取り入れている。これは清朝ならではの髪型だ。
何が言いたいかといえば、私の好きな古装中華がぎゅっと詰まっている。
情景の面では各時代の華やかな部分を拾い上げ、展開の面ではラブ史劇の要素が盛り込まれている。
個人的に中国の後宮ドラマが好きなのでそれが小説になったようでめちゃくちゃ楽しい。
強いて言えばヒロインたちの身分がそれなりに高いのが今流行りの一発逆転感がないだろうか。
私はなくてもいいのでめちゃくちゃ楽しんでいるが。
オススメ巻一覧
5作目
皇帝は妃に興味がない、妃は皇帝に興味がない。そんな典型的なタイプの恋愛小説である。しかも妃の方は科学バカ、皇帝は初恋を引きずっている。
そこからいろいろあって(読んでほしい)最終的に結ばれるわけだが、この二人がシリーズの舞台となる凱王朝の滅亡の最初の一歩を踏み出したといってもいい。それが後々効いてくるので面白い。
8作目
身分の低い妃嬪生まれた親王と異民族の妃という帝位の継承から最も遠い二人の物語である。
この作品は纏足の話題が出てくるのでそこも個人的には好きなポイントだ。纏足は悪習であるが、中華の歴史の上で無視することのできない文化であった。本作は清朝寄りな描写が多いのも他の作品と異なり面白い。
9作目
続けての作品のため前作の二人もチラリと登場する。5作目に端を発する王朝の傾きが徐々に顕在化してきたころの話である。
そうはいっても未だ皇帝の権力は大きく、滅亡を想定する者はいないという何とも倦んだ状況だ。そんな状況にふさわしく皇帝も倦んでいる。
妃との関係の中で変化していく皇帝が面白い。
13作目
いよいよ本格的に王朝に陰りが見え始めたころである。
親王の継室となるヒロインは微笑ましい性格のキャラクターである。シリーズの中でも癖は少ないほうではないだろうか。
しかし、本作は円満に終わったかに見えて、彼女の出自がこの後の王朝の崩壊につながっていくとなっている。
先が恐ろしくなる伏線があちこちに仕込まれていて面白いやら怖いやら、続きが気になる展開だ。
シリーズ各作品は独立して読めるが、ゆっくりと王朝は進んでおり、今傾き始めている。
個別には恋愛小説の様相を呈していてもシリーズを通して読んでいくと壮大な大河ドラマ、一つの王朝の繁栄と衰退が描かれている。
この先どのように傾き、消えていくのか、そこまで描かれるのか、続きが非常に楽しみなシリーズだ。
現状、14作品が刊行、電子版番外編2作品となるのでかなりの文量だがさらりと読める作品なのでシリーズものに興味のある方はぜひお手に取っていただきたい。