住所不定無職日記11日目 内定が出る
ドミトリーに期待の新人が現れた。
0時過ぎにチェックインしてスーツケースをガラガラ引いてやってきた新しい宿泊者は、その時間からしっかりシャワーを浴びてドライヤーで髪を乾かし、やたらと動作音のうるさい電子レンジで食事を温め、ケトルでお湯を沸かして何か飲み食いしだした。その間中ひっきりなしにスマホの通知でバイブがブルブルと音を立てていた。(その頃にはしんと室内は寝静まっているが、不自然なくらいに寝息ひとつ聞こえないので実際はみんなスマホいじって起きていると思う)。やっと終わったと思ったらシャコシャコと歯磨きしながらベッドの縁に腰掛けたり、廊下を行ったり来たりして、しかもその間にさらに新たな宿泊者がチェックインする。騒々しいがこちらは「いいぞもっとやれ!」という心境だ。この10日間、私以外にケトルも電子レンジも使っている人を見たことがなく、みんな物音を立てずにひっそりと泊まって帰っていった。私だけ迷惑をかけるのは嫌だから、もっと自由にやってくれたらいいのにと思っていた。物音なんて耳栓で自衛できるしね。
早朝6時に目覚ましで起きるも2時ごろに薬を飲んで寝たからスッキリ起きられない。7時20分にやっと起きてPCと寒さ対策に虫除けシーツ、ド派手なウルトラライトダウンを抱えて開店前のカレー屋に降りる。記事を一旦仕上げないといけない。眠気覚ましに少し離れたファミマまで散歩して昨日の小銭の残りでカフェラテを買う。戻ってきて一気に仕上げてGoogleドキュメントで保存して共有するが、完全完成と言っていいのかなんだか不安になり、「指摘点を修正して文字数を収めて一旦共有するけれど、後でできたって言うね!」みたいな中途半端なメールを9時に送って逃げてしまう。
作業はカレー屋の入り口の広々したソファー席でやっていたのだが、ふと目を向けると目の前の棚に何故かアイロンがあった。カレー屋はおしゃれなカレー屋だからたまに机の一角を貸し切ってコーヒーを売る男の人が立っている。アイロンがあるのはコーヒー売り子の専用スペースの一角だった。コーヒーのために必要な注ぎ口の長いケトルは鍵付きの棚にしまわれていたが、アイロンの棚には鍵がかかっていない。これは交渉次第で使わせてもらえる可能性があると胸が弾んだ。
作業を終えて少し休んでいると、初日に予約交渉した南仏の男性がやってきた。何度か話したがこの人はとても上品な人で話しかける時に慎重に言葉を選んでくる。この時も「少し、お話があるんです」と前置きして声をかけてきた。「その後お仕事やお家探しはどうですか?」と始まったから、いつまでいるんだ?と聞かれるのではないかとドキドキしてしまう。正直にまだ決まっていない(決めてないだけ)ことを伝えると、「実は」とまたそろそろ話し出す。なんてことはなく、GOTO的なキャンペーンがあるからまだまだ長期で連泊するなら色々提案がありますと話だった。コロナが落ち着きを見せ出しても、客入りはまだまばらなのだろう。居心地良すぎて出て行きたくないので全く嬉しい話である。改めて今度相談し合うことになった。
午後から2つ選考の進んでいる企業の片方で最終選考となるスキルチェックがあった。先方の送ってくる仕様書に従ってコーディングするという内容だと事前に教えてもらっていた。しばらくコーディングしていないのでCSSの書き方も何もかも忘れた。復習しないとと思いながら、いうてポートフォリオでレベルも知ってるだろうし、高難度のものは出さないだろうとタカをくくっていた。
制限時間40分で送られてきたのは1ページのコーポレートサイトの仕様書だった。が、モックアップがXDできた。事前にVScodeを準備しろとは言われていたがXDは聞いていない。ポートフォリオにも履歴書にもXD使用可能とは書いたが、お金がないからAdobeCCの更新を2週間ほど前に切ってしまったのだ。他にもcommonにあるリセットcssが見たこともない設定で、いじってみたcssの設定が全く反映されないとかトラブルしかない。ほとんど仕様書を読んでるだけで1行も書けずに制限時間が切れてしまった。自分の復習してなさも大概だが、相手も結構雑では。求人サイト上でやり取りしていたが、結果の送信先のメアドも再掲していないし、そもそも指定のフォルダを圧縮してもファイルデカすぎ&セキュリティで弾かれる。ヤケクソだ。
ファイル添付に躍起になっている途中で、見慣れぬ携帯電話から着信がある。記事の件かメルカリの配送関係かと思わず取ると、もう1つの選考中企業の人事からだった。制限時間はとっくに過ぎていたので、まぁもういいやと諦めモードで会話を続けると、いきなり内定を告げられる。面接前にやったカジュアル面談を結局一次にカウントして最終面接が無くなっていた。現場担当者からもOK出て満場一致です!と言われる。たった今、同じ職種の会社のスキルチェックで、ど素人以下であることが露呈して落ちるところなのに雇って大丈夫なのか?やっぱり面接でテンション盛り過ぎたな〜。
ただ、入社時期が結構先になるとを聞いて、アルバイトとかでもいいから勉強させてくださいと思わず食いつく。提示された月給は高くないしおそらく賞与もないが、このスキルレベルはヤバすぎる。人事と相談して、社内で担当者に聞いてみますね〜と言って簡単に終話した。条件すり合わせで1週間くらい保留。
2つの会社は全く正反対で、例えば人事に関して言えばどちらも女性だがベンチャーの方は帰国子女風で、内定が出た会社は入社4年目という感じの若い子でメールでも実際に会っても腰が低過ぎて心配になるような過度な丁寧さや面談中の可愛らしいリアクションが個人的に好みだった。話が合うかわからないが、どっちと昼飯食べたいかと聞かれたら圧倒的に後者だった。現場担当者もノリ良くて少なくとも声を荒げて責め立てたりはしなそうな人たちで、だから内定が出たこと自体はうれしいのだけれど、同じ職種でもこうも違うのかと唖然としてしまう。
スキルチェックの会社はまだ部署に他に2人しかいなくてそもそも仕事取ってくるところからやっていて、内定会社の方は部署こそは小さいが全体の人数はベンチャーの10倍以上で業務過多といった感じだ。両者ともいろんなことが経験できそうだが、意味合いが全く違う。懸念点があるとすれば、内定先では現場の責任者と直属の先輩、人事しか登場人物がいないことだ。役員が採用の現場にいればいいというわけではないし、未経験とはいえ転職なので現場単位で調整する方がいいとは理解できるが、本当に現場周りだけで済ませている感がスキルチェックしない甘さに見えるぜ(しかも何故か本来はこちらの企業こそ経験者採用の募集だった)。吉と出るか凶と出るか。とは言っても宿代も払えなくなりそうだし、今度こそ選べる立場ではない。
先週中頃にたまたまバイト情報サイトで見つけた正社員なのに信じられないくらい条件のいい会社からはうんともすんとも返事が来ない。制作系なのに定時で帰れて、裁量労働はないと明言していて、未経験OKで賞与年2回なんてやっぱりありえないから釣り求人だったのだろうか。
混乱しながら、朝出した原稿の最終チェックをして担当者に出す。既に朝の共有時点で見ていてくれていて、大丈夫そうとメールもらってから出すあたりがずるくて申し訳ない。メルカリとのやり取りもうまく行き、配送問題は解決しそうだ。
まだまだ書きたいことがあるけれど、もうこの時点で3000字超えてるから一旦切る。
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