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住所不定無職日記9日目 飲んでも何も解決しないけど

 7時のアラームで目が覚めて持病の薬を飲んで、二度寝して起きたら8時半だった。慌ててシャワーを浴びて着替えた。9時半から予定があったのだ。昨日買ったデパ地下のおにぎりを食べてインスタントの味噌汁も飲む。梅と炙りたらこの2つで本来620円のものを半額で買った。正規価格は1つ300円となるが、最初はコンビニの三角じゃないちょっといいおにぎりと大きさも味も大差ないように感じた。だけどコンビニおにぎり特有のなんとも言えない生乾きみたいな時間が経ったお米の匂いがないのがまず良かった。あと具も白米とのバランスが悪いくらいたくさん入っていた。特に梅が美味しかった。また閉店間際を狙ってみよう。

 用事を済ませてデパ地下でおやつを買い、現金を得てふと足が向いてカルディに立ち寄る。欲しいものがありすぎて入店1分で後悔する。美味しそうなスンドゥブの素、美味しそうな激辛ラーメン。鍋さえあれば作れるけれど鍋がなぁ。特にビビン麺と冷麺はチェックしてしまう。コシのある麺類と辛いものに目が無い。カルディに売っているものはほぼ食べたことあるけれど、一期一会みたいな商品がたまにあるから見過ごせないなと確認していると案の定「焼肉屋の冷麺」という盛岡冷麺を見つける。焼肉屋の冷麺はどう考えても焼肉屋で食べるから美味いというのは重々承知しているが、買ってしまう。賞味期限は7月だし最悪友達の家で鍋借りて食べようと思って買う。ついでに冷やして食べる豆花も買う。
 実家にいた頃よりも毎日外出しているから今日はベッドでのんびり過ごすことにした。昼時に宿に帰ると1階のカレー屋は大盛況の様子だった。部屋には当たり前だが誰もいなかった。観光や旅行に来ているのに休日に部屋で寝ている人なんていないだろう。清掃のスタッフさんがタオルの補充をしていたので、声をかけて替えのシーツと布団・枕カバーをもらって自分で付け替える。デパ地下で買ったスコーンをトースターで焼き直しておやつ兼昼食にする。3種類の焼き方のものを買ったけれど、ザクザクとよく焼いてあるやつの方が好みだ。3つ食べたらすっかりお腹いっぱいになってゴロゴロする。


 初稿の確認を待つ間、落ち着かなくて動画を見る。ショパンのコンクール、アニメ、家事のYouTube。見ている間に返事が来る。通知のポップアップの「大まかな流れはいいが、所々少しわかりにくい」の文字で死にそうになる。お腹痛い。ダメ出しに本当に弱い。指摘する方も言い方に気をつかうし、いい気分じゃないのはわかっているけれどやっぱり辛くて本文読めない。ミスや間違いや修正をきちんと聞くことが自分の成長につながるとはいうけれど、成長なんてしなくていいから耳が痛いことは聞きたくないし自分に優しい言葉だけで生きていきたいのが本音で、世の中の人がそこに耐えて耐えて生きているところをサボってきたツケのメンタルの弱さだった。

 私は、ミスの指摘や分からないことを尋ねて恥をかくことに対して多分尋常じゃない不安を感じる。だけど、本当に心から相手の言葉や思いを伝えたいと思うなら、自分の苦しさなんて捨てられるはずだ。取材だけじゃない。いつも自分が傷付くのを恐れて回避行動を取ってしまう。そういう自分勝手さを自分で許せない。自覚して自虐で予防線を張って、そんなことないよ待ちしてる自分の弱さもわかってる。いつか心から、本当に誰かのためになることを躊躇いなくできるようになりたい。絶対に。

 宿でひっくり返っていても仕方がないので、外に出た。喫茶店で修正をしようと思ったのだ。歩いていると、ある連絡が来た。都内に住んでいたときに副業で働いていたバーからだ。高齢のオーナーが身体の不調を理由に店を閉めるというのだ。閉店までの期間でシフト入れないかという連絡だった。私は都内から尻尾を巻いて逃げたことをお店に告げていなくて、お給料も制服も置きっぱなしだった。
 足が止まって、カウンターの中で散々見つめたロベール・ドアノーの写真が頭に思い浮かんだ。装飾の少ない店内には何点ものモノクロ写真が飾られ、控えめなスポットライトで照らされいた。お客さまの中には、ロバート・キャパの写真かと尋ねる人もいたが、入れ替わりの激しいバーテンダーたちの誰も、オーナーすら写真家のことを知らなかった。
 カウンターに立つとある女性の写真がよく見えた。天井の高いカフェの窓際で机に向かうフランスの女流作家ボーヴォワールを映したもので、レースのカーテンとペンを持つ彼女の知的な雰囲気がとても素敵だった。お客のいない時間に飽きもせずよく見つめていたものだ。あまりに好きだったから、画像検索して写真家を突き止めた。いつか自分の部屋を借りたら同じ写真を飾りたいと思っていた。
 そのバーでは、約2年間副業として仕事の後に働いた。短期も合わせれば20件は超える私のバイト歴の中でも一番好きなバイトだった。あのお店が無くなってしまうのか。実際オーナーは何度も途中で入院や手術を繰り返していたが、本当の理由はコロナだということは安易に予想がついた。コロナ中にシフトに入ったどの日も、長年の常連さん以外の客はいなかった。最後に会った時にオーナーからお店の経営について苦悩を聞いていた。

 感情がバーっと溢れて、飲み屋に入ってビールを飲んだ。泡とビールをうまく注げなくて、スプーンで何度もすくってお客さんに笑われたり、逆噴射してビシャビシャになったり、出始めのビールや残ったビールを裏でみんなで飲んだことを思い出した。一人じゃ今夜は持たないなと思って、すぐに飲めそうな知人に連絡を入れて今待っている。
 この日記を書き始めた時、きっとドミトリー暮らしなんてなかなか今後ないだろうし、単調な日々の記録でもしながら時間を潰そうと思っていた。なのに、蓋を開けたら毎日結構ハードなことが起こるものだ。

家計簿
■おやつ スコーン(商品券払い)
■カルディ 冷麺、豆花(お釣りはらい)
■外食 ビール(ID払い)

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