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Creepy Nuts/生業の歌詞考察

2020年11月12日、Creepy Nutsは彼ら史上初となる武道館公演を終えた。
コロナ対策で1dayが2days公演に変わり、観客は一日あたり4500人収容となったことで、チケット争奪戦は激しさを増した。
何とかチケットを取ることができた僕は12日に参加した。武道館のステージに立つふたりの姿は小さくて大きくて、それでいて眩しかった。
その中で改めて思い出したのは「Creepy Nutsの本業はライブ(音楽)だった」という至極当たり前のことだった。
冠ラジオを基軸に、最近はバラエティ番組への出演、木村拓哉のラジオ出演、OKAMOTO'Sとの2マンライブ、東京03とのコントCMなど多種多様な露出を目にしてきた。
コロナの影響で画面越しにエンタメを享受する機会が増えたが、生のライブを観て感じる「生々しさ」はやはり別モノだったし、興奮も一入だった。

白い目や笑い声や後ろ指がねじ曲げた人格
その結果"今"
(トレンチコートマフィア/Creepy Nutsより抜粋)

と歌っていた姿とは違い、彼らはセルフボースティングするに相応しい勇姿を我々に見せてくれていた。

Creepy Nutsとしてはじめてセルフボースティングを行った楽曲が「生業」だ。
トラックもこれまで頑なに避けてきたトラップを採用しており、それに伴って音の数もかなり削ぎ落とされていてラップが際立っている。

YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」でも披露されたことから一般層にも波及した印象があるこの曲。
助演・よふかし・かつ天くらいしか知らなかったはずの中学からの友達が、カラオケでこの曲を歌い出したときは驚いた。

余談は置いておいて早速リリックを見ていこう。

ラッパーの仕事というのは、他人に声を届けるマイクとステージとスピーカー、歌詞を綴るための紙とペン、歌詞を乗せるビートさえあれば最低限成立はする。
しかし、それは並のラッパーの話だ。R-指定に限って言えば、それすら無くても成立させることができる。そこに格の違いがある。
Rは自分の内面から湧き上がってくる言葉とその卓越したラップスキルだけで、アカペラで人を魅了することができる。
そんなR-指定が信頼を寄せるDJ松永のトラックの上に言葉を乗せたCreepy Nutsとは、それはもう鬼に金棒ということになる。

韻について。

「一本の〜 それだけ」「構わねぇ」「ラップだぜ」で[(aa)ae]で脚韻。
「アカペラ」の[ae]にもアクセントを置いていることから、ここも意図して音を重ねていると考えられる。

テージ」「ピーカー」は[su]で子音踏みの頭韻。

また、「一本のマイク/一本のペン/でも無いなら無いでも別に構わねぇ」については、

一本のマイク
一本のペン
無いなら無いでも構わねぇ

後悔の念
壮大なイメージ
全てコイツに注(つ)ぎ込め
紙の上 音の上 伝えお前の耳元へ
一本のマイク
一本のペン
無いなら無いでも構わねぇ the fly away
(般若/Fly Away feat. R-指定&pekoより抜粋)

からのセルフサンプリングである。

また、「アカペラでも聞けるラップだぜ」については、

Check me now 俺なら耳元だぜ
アカペラで聴けねぇラップじゃねえぜ
(ANARCHY, RINO LATINA Ⅱ, 漢 a.k.a. GAMI & MACCHO/24 Bars To Killより抜粋)

からのサンプリング。歌詞のテーマが同じボースティングであることからここに引用したものと考えられる。

Rは歌詞の中に殺し文句を認めて、リスナーの耳に届けてきた。非合法が跋扈するHIPHOPシーンの中で自分の経験を元に"合法"を歌い、膨大なHIPHOPの知識から成るサンプリングや語彙力に物を言わせた言葉遊びをスパイスに、特殊工作員(スパイ)のように密かに言葉を紡いでいく。
そして、Creepy Nuts初期のスマッシュヒット曲「合法的トビ方ノススメ」に代表されるように、ジャンキー/ギャングスタではないラップオタクの自分自身を歌うことが、いつしかアイデンティティになっていった。

その知識は堺市の片田舎でHIPHOPをdigり始めた中学生時代から積み上げられたもので、そのうち、Rは梅田駅前の歩道橋でサイファーに通い詰めるようになった。
Rをはじめ「梅田サイファー」の連中はナード寄りだったことから、ハーコーからは「ラップが上手い"だけ"」で、所詮小手先の技術に過ぎないと蔑まれることもあった。
それでも、Rは減らず口を叩き、無知ゆえの無鉄砲を武器にシーンに殴り込みをかけたのだった。

韻などについて。

ろくじゅうよん」「しょう節」で[ou]で頭韻。

また、「64小節の旅の始まり」は、

1,2,3を待たずに
24小節の旅の始まり
ブーツでドアをドカーッとけって
「ルカーッ」と叫んでドカドカ行って(後略)
(今夜はブギーバック(smooth rap)/スチャダラパー feat. 小沢健二より抜粋)

からのサンプリング。

はじまり」「なかに」「トビたい」「デリバリー」「言の葉に」で[(i)ai]で脚韻。
」も[ai]で踏んでいる。

落とし込む」「殺文句」「合法的」「特殊工作」で[óoióu]で返し韻&頭韻。
二つ目のアクセントの[ó]に対して、「この」「ことの葉に」でも[o]で合わせている。

君の」「耳の」で[iio]で返し韻。

「特殊工」「スパイス」「効かす」で[au]で踏んでいる。

バスドラ発スネア行」「場末の田舎からdo it」「バース蹴飛 - ばす - 梅田駅」「かつての」で[au(eo)~(ue)aui]で語感踏み。
また、「バスドラ発スネア行」はMAKI&TAIKI「バスドラ発〜スネア行 feat. MURO」からのサンプリング。
Rのソロアルバム「セカンドオピニオン」収録曲『Dr.Strangelab』でもサンプリングしていた。

ガキ」「武器」「無知」「減らず」「ペン」「ワナビー」「小手」「remember me」で[ái]/[úi]で脚韻。
本来、二文字の韻([ái]/[úi])のうち一文字を踏み外していたら同じ韻とは呼びづらいが、アクセントをaとuに置くことで似たようなグルーブを生んでいる。おもしろい。
また、「ペン先」「所詮」「小手先」「remember」「お元気」「も現役」で[(o)e]でも踏んでいる。

あのパイセンは、俺が所詮小手先に過ぎないと馬鹿にしてきたことを覚えているのだろうか。
最近は彼の噂も聞かなくなってしまったけれど、元気に過ごしているのだろうか。まだラッパーとして活動しているのだろうか。
自他共に認めるラップオタクであるRの耳に入らないということは、仮に現役であってもその程度ということだろう。
もう精根尽き果てて現役は退いてしまったのだろうか。
まあ、俺は今夜も掻いては元気にスペルマの原液を出し、書いてはスペルマに匹敵する濃さの歌詞を綴っている(=スペル)けど。

ちなみに、"spell"という英単語は、動詞だと「〜を綴る」、名詞だと「呪文・まじない・魔力」という意味がある。
一曲の歌詞の量が莫大(他ラッパー比)で、さらにその意味を何重にも掛けるRはまさしく「spell」を唱える「魔人」である。

前項と関連して「お元気ですか」「現役ですか」「スペルマ」は[(ei)eua]で脚韻。

貴方は」「赤玉」で[aaaa]で頭韻。
また、「出したか」で[á]にアクセントを置き、上段の[a]に音を揃えている。

これまで、Creepy Nutsは多くのロックフェスに出演し、地下アイドルやバンドとも対バンを重ねてきた。別にHIPHOPを求めていない客を相手にパフォーマンスをし、一瞬で心を掴み、掌を返させる術を磨いてきた。Creepy Nutsは音楽異種格闘技戦の生き残りなのだ。
狭いHIPHOP村の牌の奪い合いに終始しているその辺のクラブラッパーと決定的に違うのは、その地肩の強さだ。

なお、前頁まではdisの対象/Rとの比較対象は「あの日のパイセン」だったが、以降は「そこらのクラブラッパー」に変わっている。

ヒのも知らねー」「四のの言わねぇ」「たたき上げ」「Back in the days」で[io/oiaee]/[aiaee]で脚韻。
また、「客の」「放りだされ」「あの」「この」「つかって」「最終」「振り向かせる」で[(a)e]でも踏んでいる。
このゾーンは三連符のフローになっている。三連符の音の位置を(1,2,3)と分解してみると、「客の」「放りだされ」は(1,2)、「あの」「この」「つか」は(3)、「振り向かせる」は(3,1)になっている。
「あの手この手使って」の部分がめちゃくちゃ気持ちいい。

また、「HIPHOPのヒの字も知らねー」は「HIPHOPについてひとつも分かっていない」という意味だが、「」とは「一二三(ひふみ)」の「一(ひ)」でもあり、それだけでダブルミーニングもどきになっている。

(「ヒ」から「四の五の」にかけて1~5で数字でライムするパターンかと思って血眼になって探しましたが、イマイチ2と3が見つかりませんでした。見つけた方教えてください。
もしかしたら書いている途中の段階では「客の前 踏み(ふみ=2,3)出せば もう四の五の言わねぇ」とかだったんですかね。)

「クラブラッパー」「格が違う」で[aua/a]で踏んでいる。

「あの頃」に立ち返ってみても、一定の地位を得た今でも、生活はいつだって自分の中では上手くいかなかったライブ、それなりに納得できたライブ、満足がいくライブの繰り返しだ。ラップが好きだという初期衝動で始めたこの生活のサイクルは、恐らく死ぬまで変わらないだろう。その反省や後悔が自分の血となり肉となる。
だからこそ、小さなハコでワーキャーのファンを囲って満足しているクラブラッパーのことは心底軽蔑する。
いや、それでもいい。それはそいつの考え方だから。けれど、俺は日本のHIPHOP村の中の小さな互助組織の見えない鎖に繋がれたままの家畜とは違う。

そんな家畜にもいろいろ種類がいる。
他のラッパーに好き好んで突っかかるビーフを好む奴。
負けるのが怖くて、自分のことをチヤホヤしてくれる小さな殻に閉じこもったままのチキンな奴。
あくまで「HIPHOPっぽく」振舞おうとしているだけで自分の芯がない奴。

上記家畜たちに加えて、肉(女)好き、違法な薬物を好む草好きも多数おり、日本のHIPHOP界はかくも七面倒臭い世界なのだ。
そして、彼らがUS発の流行りに安易に流され、自分流の解釈すらせずにパクリを垂れ流すことで、巷は粗悪品で溢れている。

ライブ」「ライブ」「ライブ」「繰り返す」「サイクル」「サバイブ」で[aiu]で踏んでいる。

勝ち戦」「家畜さ」は[kachikusa]で綺麗な子音踏み。
また、「」とも[ua]で脚韻している。

チキン and ポーク」「七面倒」「日々トレンド」「めっこ」「イミテーション」で[iie-o-]で脚韻。

ビーフ or チキン and ポーク」は飛行機で機内食を選ぶときに聞かれる文句の引用。
「ポーク」の直後に、飛行機でよく聞く「ポーン」という音ネタが仕込まれていてニヤッとできる。
ちなみに、ネットで「飛行機 ポーン 音」と検索をかけたら、あの音のフリー素材が出てきた。ネットの海にはなんでも落ちている。

「そこらのクラブラッパー」の歌詞は幼稚園児の作文レベルのレトリックで、歌えばオートチューン頼り。それに対してR-指定は、広辞苑十冊クラスの語彙力を武器に、意味を掛けたライミングを重ねる。
(広辞苑は何冊あっても内容は同じだから、載ってる単語数は変わらないけれども。それを言うのは野暮だ。)

バスケで例えれば、奴らがファンブルしてる隙に俺は3Pシュートを決めるくらいのモンで、ラップの種類で言えばマンブルラップとスピットほど違う。
奴らは正解「っぽい」ラップに走り努力を怠ったウサギで、俺は地道に力を蓄えて一歩一歩進んできたカメ。
観客に笑ってもらうために作られたリズムネタと見紛うほどのクオリティの奴らのラップと、芸事として昇華される俺のラップ。

病状に例えるなら、奴らは所詮HIPHOPの流行病に罹患しているだけ。俺はMAKI&TAIKI feat. Mummy-D& ZEEBRA「末期症状」よろしく「マイク握らずにいられぬ衝動」に突き動かされ、HIPHOPに骨の髄まで浸かっているのだ。

歌詞を綴るときは、ああでもないこうでもないと紙に書いては消し、書いては消しを繰り返し、机の上にはその副産物として消しカスかわ積み上がっていく。
奴らとの違いが今分からないとしても、十年後、その消しカスの山の頂上に登って麓のクラブラッパーたちを見下ろし、己の力量を実証していくつもりだ。

幼稚園児の作文」「広辞苑十冊分」で[o-ieni/auun]で完踏み。

「『オートチューンが』/『いくつも意味がかかってる」という掛詞。
くつも」「味が」で[i]で頭韻。

ファンブルとスリーポイント」「マンブルとスピット」「実証」で[anu-oui/o]で踏んでいる。

末期症状」はR-指定のリリックに頻出するワードで、過去にはオリジナルのトラックを借りた「晋平太/末期症状2015 feat. R‐指定」という曲も出している。

「末期症状」「山の頂上」で[o-o-]で脚韻。

消しカスの山の頂上」は、

何百番煎じ 百も承知
それでもなお俺のペンは止まらないらしい
これは消しカスの山
の上に成り立つドラマ
あの日見過ごしてた感情など
手付かずのまま
何も思うようにならん
未だ凡庸なまま
それも自らだと認めてこそ
始まるドラマ
(Creepy Nuts/リライトより抜粋)

からのセルフサンプリング。

また、「ウサギとカメ」については、

あのウサギとカメの例のレースは教訓としてアレなケース
勝者敗者いずれにしたってダメ
ウサギはバカで油断しちゃっただけ
ある意味カメはさらにそれ以下
敵のミス待ち ってそれでいいのか?
天賦の才能を弱者代表が打ち負かし格差解消
しようって場面であまりに無策過ぎ
勝算もねぇのに余りにウカツ過ぎ
(RHYMESTER/K.U.F.U.より抜粋)

が真っ先に思い浮かぶ。
しかし、「Rがカメを自称しウサギを倒そうとする」スタンスの生業と、「ウサギもカメもいずれにしたってダメ」だとするK.U.F.U.とでは、あまりにスタンスが違いすぎる。
よって、この部分はサンプリングではなく、純粋にRと雑魚とを比較したラインだと解釈した。

奴らはオートチューンありきで曲を作り、自身の音程の取れなさを誤魔化している。オートチューンやガイドボーカルが無ければ聴けたもんじゃない。

奴らが親から授かり受けた生来持っている声質、ラップに適したキーは、その人にしか持ち得ない高級な一点モノだ。
それを自ら放棄して、平々凡々の低レベルなオートチューンに手を染めてしまうのは親不孝以外の何者でもない。
そんな奴らはスパルタでお馴染みの戸塚ヨットスクールにでもブチ込んで、性根を叩き直してもらうしかない。

オートチューン」「音の宇宙」「そいつはオートクチュール」「戸塚ヨットスクール」で[(oua)o-ou(u)-u]で脚韻。

泳げそうか?」「溺れそうか?」で[ooe~]で脚韻。

お前の声」「前のキー」「いつは」「オートクチュール」「おや不幸」「塚」「ヨットスクール」で[o(auo)]で頭韻。

また、「はき違えた」は、「声を吐き違えた」と「オートクチュールを履き違えた」のダブルミーニング。

前項の「ウサギとカメ」で奴らを陸上生物のウサギ、自らを水陸両用のカメに例えたことと関連して、「泳げそう」「溺れそう」「ビートの」「戸塚ヨットスクール」と、水関連のワードでライムしている。
この歌詞の中では、水の中で生きることをある種の特殊技能と捉えていて、それをオートチューン無しのストロングスタイルでラップし続けるRのラップ技術に投影している。

サウンドクラウド・ラップの説明についてはここに詳しい。
めちゃめちゃ要約すると、サウンドクラウド・ラップの音の特長とは「粗い音質で、ディストーションをかけたベースが目立つハイテンポなHIPHOP」ということだ。
サウスフロリダのラッパー・XXXTentaxionやLil Pumpらがサウンドクラウド・ラッパーの代表格と言える。

奴らは流行りのスタイルを間借りして、サウンドクラウド・ラップを目指した音楽をやっている。
俺は英語は分からない。けど、奴らの粗悪な音楽は、レゲエで言うところの"Soundboy(≒HIPHOPで言う"wack")"としか思えない出来栄えだし、言い換えれば道端で大衆の前で披露するような大道芸でしかない。

"Soundcloud"って、もしかしたら"Soundboy"と"Crowd"を合わせた略語か何かですか?まさか本場の"SoundCloud Rap"を自称してるワケじゃないですよね……?
だとしたら笑止千万だ。

そもそも、ライブ中のトラックに常にガイドボーカルをかけて、自分は歌わずにステージ上で飛び跳ねてるだけって、それはもはやラッパーとは言えない。
ラッパーたる者、そんじょそこらの客の如くキメて踊り狂うのではなく、ちゃんと自分の声で客にラップという芸を届けなければならない。
Rはサイファーやライブで鍛えた肺活量や体力を資本に、普段のライブでも音源レベルのラップを披露し、客の心を動かしている。正真正銘の黒帯、プロフェッショナルでNo.1プレーヤーだ。
だからこそ、ライブで自分の実力の無さが露呈することを恐れてただただ音源を垂れ流す奴らはプロですらない。それの対価としてギャラを貰うなんて以ての外だと断言できる。

「分からへん」「again」「意味はね」で[ae]で脚韻。

Soundboy」「ガイドボーカル」で[a~o]で不完全韻の頭韻。

「レベル」「合ってる」で[eu]で音を合わせ、「ラップ」「合ってる」で[a/]でも踏んでいる。

「芸じゃねぇ」「声出せ」で[ae]で脚韻。

また、「分からへん」「意味は」「ガイドボーカルのう」「客みてえだ」「Ey」の[e]は、小節を(1,2,3,4)と4分割したとき、すべて(4)に合わせて歌われている。きもちいい。

「ソレでプロ」「金もらうの」「帯は」「Numero Uno」で[uo]で脚韻。

しごしろ」「ズブのシロ」で子音踏みの脚韻+α。

れの」「びは」で三連符(1,2,3)の(1)[o]で頭韻。
「おれの」「Numero」で(2,3)[eo]で脚韻。

また、R自身は「帯は」、奴らは「白目剥いて喚く」「ズブのシロ」と、彼我の白黒の対比で実力差を喩えている。

Numero Uno」は、Zeebra/I'M STILL NO.1(NUMERO UNO RE-RECORDING)からのサンプリング。

自身がラッパーであることは不変の事実だ。
ロックフェスだろうが、テレビのバラエティ収録だろうが、深夜ラジオの生放送だろうが、そのスタンスが変わることはない。
「ラッパーである」以上に高尚な存在でもなければ、また同じくそれ以下の卑下するべき存在でもない。

I'm a rapper」「以下でもないrapper」で[aa/a-]で脚韻。

R-指定のラップは、玄人ぶりたい素人には敬遠されることもある。やれポップスに寄りすぎだの、注目されているラッパーだからこそのやっかみだの批判が寄せられることもある。
しかし、ラップを深く知るに従って、リスナーはRの凄さを再確認するのだ。ライブの声量、スタミナ、使えるキーの高低の広さ、リリックの緻密さ、遊び心……。ただラジオでの立ち振る舞いやエピソードトークが上手く、フリースタイルラップバトルで評価されただけの人ではないことに気付かされる。

対して、奴らは自分の音源が売れないことへの原因を他者に求める。
客がニワカすぎて自分のパフォーマンスに食いついてくれない?アンダーグラウンド志向だから?別に売れたい訳じゃない?
確かに「アングラ志向だから」という言い訳は便利だ。一見自分のスタイルを貫いているようで格好良く見えなくもないし、数少ない狂信者の前でテキトーにライブしていれば楽しいだろう。
でも、その言い訳に胡座をかいて、ライブ中に声を枯らしているようではプロ失格だ。マイクテストでPAさんとしっかり音の確認をしたのか?発声練習やストレッチはちゃんとしたのか?ハゲタコ。
そんなおざなりなライブをちょびっと披露しただけで客から高いチケ代を募り、その辺の女性ファンを喰い散らかす。それでいて「俺こそリアルでお前はフェイクだぜ」ってツラをいけしゃあしゃあと垂れ流している。その神経が理解できない。

こちとら明日もライブなのだ。明日だけと言わず死ぬまでずっとライブをする。
奴らがラップの鍛錬を怠り、ブランディングやファッションブランドのプロデュースに精を出していようとも、俺はたったワンバース蹴っただけでアウェーの会場の心を掴み、ファンを増やしていく。奴らの夢も希望も、嫉妬する心根すらも、このマイクひとつで全て打ち砕いてやる。

に分からん」「に分かる」「にわかな」「言い訳は」で[niwaka]で子音踏み。
分からん」「アンダーグラウンド」で不完全韻の脚韻。

隠れ蓑に」「隠れより」「やるべきこと」で[aueioi]で返し韻。

ライブですよ」「マイクテスト」「やり直せよ」「枯れてんぞ」そして飛んで「ヤバい原状」で[aiueuo]で返し韻(この部分は次頁まで続く。後述)。
その間に「明日も」「やり直せよ」で[aiao]でも踏んでいる。

「15分で」「ぼったくって」「女喰って」「音楽って」「困惑してる」で[o/au/e]で踏んでいる。
また、「ます」「ます」で上の[au]と連動して踏んでいる。

ファッションも」「格好の」で[aoo]で踏んでいる。
ダッサい」「ワンバース」で[a/a]で踏んでいる。
カラオケで生業を歌うとき、この「お前が~ダッサい」あたりのヨレた三連符のリズム、それに続く「~My pencil」あたりがいちばん苦労する人が多いのではないかと思う。
そんなときは、
「(1)(2)(3)/お まえ が/ひっ し に/かん がえ た/そ の ブ/ラン ディン(グ) や/ファッ ション も/て きと な/かっ こ の/ダッ サい~」
と三連符の符割りに沿って分解してそれぞれ(1)の音にアクセントを付けて歌うといい感じになる。
その後は、「ずか~」「し去って~」「あい幻想」の部分にキックの音を合わせて歌うと、ある程度それっぽくなる。

話は最初に立ち返る。
「My pencil ~ microphone」を和訳するなら、
「ペンとライムとフロー、それにマイクをくれ」
とでも言えようか。それは、

一本のマイク それだけ
一本のペン それだけ
一枚のペーパー それだけ

これと同じことを表現を変えて言っている。
結局、Rが「生業」を通して言いたいことはこのワンフレーズに尽きるのだ。
必要最低限の道具と、横に相方のDJ松永さえいれば、人を魅了することができる。虚飾や見栄なんか必要ない。

俺は噺家で言えば真打ち、そんなレベルに到達している。
落語とは、[前口上、枕、本題、サゲ]という構成から成っている。
俺のウォーミングアップに過ぎない前口上と、二ツ目・前座レベルの奴らの本気の前説とでも比べてほしくはない。それくらいレベルが違うということだ。

俺はラッパーを生業と決めた。歌詞を書くことがシノギだ。だから、ラッパーとして成長するためにこれだけやる。
身なりはいい、ただの見かけ倒しの奴らは、果たしてここまで出来るだろうか。やれるならやってみればいい。現状、比べる土俵にもないけれど。

それでも、俺のラッパー人生はまだ始まったばかりだ。この先も右肩上がりにスキルを上げていくためには、幾多の困難が待ち受けているだろう。
(Rが武道館のMCで言っていた通り、)HIPHOPは自分のことを歌詞に書いて歌う音楽だ。もはや当たり前の毎日のルーティンワークとして、まるで日記でも書くような感覚で歌詞を書く。
だから、俺は歌詞を自分が生きた証として書き遺すのだ。

前頁の「ライブですよ」「マイクテスト」~のラインに続けて、「甘い幻想」「My pencil」「rhyme & flow」「前説と」で[ai(u)euo]で脚韻。
また、それに関連して「microphone」「前口上」も[aiouo]で踏んでいる。
その後の「だ~」はそれまでの[ma]と頭韻してアクセントをつけている。

「はじまったばかり」「道のりなら長い」「俺の生た証」「ダイアリー」「生業」で[(oiaa)a-ai]~[aiai]で脚韻。
[a-ai]と[aiai]では踏み外しているように見えるが、[a/ai]の音の位置が合っていること、「ダイアリー」は[aæai]と発音し、[a-ai][aiai]双方とも踏んでいるように聞かせていることから、スムーズに韻として成立させている。

武道館のセットリストは
1. スポットライト
2. 生業
3. 耳無し芳一Style …
という順で始まった。
ふたりはメジャーデビューアルバム「クリープ・ショー」のラストで提示した、

I'm a No.1 player 元ベンチウォーマー
(Creepy Nuts/スポットライトより抜粋)

という謳い文句に違わず、序盤から体力を大きく消耗するセルフボースティング曲×2を歌い上げた。

今年、DJ松永が若林正恭著『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』の「解説の場を借りた個人的な手紙」に認めた

俺は誓いました。あなたのように生々しく生きていこうと。自分の為に。ただそれだけ。

というメッセージは、DJ松永、ひいてはCreepy Nutsふたりの自身の生き様に対する誓約文で、武道館の大スクリーンに映し出されたふたりの汗と涙は、その誓約文の血判のように思えた。
そして、これからもCreepy Nutsを応援していく上で、ふたりの悲喜交々を自分の人生に投影して、また生きていく糧にしていくのだろうと感じた。

だからこそ、今後もふたりの活動を見せてもらうために願うことと言えば、「健康でいてくれれば良いです。」

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