Creepy Nuts/オトナの歌詞考察
Creepy Nutsの快進撃が止まらない。
先日、僕は彼らのラジオイベントに足を運んだ。イベント自体のチケットは取れなかったため、海老名の映画館のライブビューイングで見させてもらった。
大画面の中にはアルコ&ピースに続くラジオスターがいた。
Catch me if you canの放映、ラジオパート、Zeebra登場からのライブパートと盛りだくさんで、感想を書くと長くなってしまうので割愛するが、「アルコ&ピースに続くラジオスター」の一言で(分かってもらえる人には)分かってもらえると思う。
つかさ、SHINGO☆西成(梅田サイファーと対バン)→Zeebra→RHYMESTER(ラジオEXPOでコラボ)と、三日連続でレジェンドとコラボしてライブしてる時点でHIPHOP界の成功者だよね。
さて、今回の表題作「オトナ」は、テレビ東京系ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』の主題歌に書き下ろされた楽曲。
『コタキ兄弟と四苦八苦』は、「不器用にしか生きられない兄弟がひょんなことから『レンタルおやじ』を始めることで、様々な人々からの無茶な依頼に苦しみながらも懸命に生きようとするさまを描く」ドラマで、古舘寛治と滝藤賢一がW主演を務める。
曲の中でもふたりの関係性を描いている場面があり、コタキ兄弟に当てて書いているように見えるが、読み解いていくと実のところはCreepy Nutsのふたりを指し示しているとかいないとか。
まずは歌詞から見ていこう。
今回から韻の部分に色をつけてみる。
イントロは無く、HOOKから始まる。
みんなと一緒に普通に生きていきたいだけなのに、「俺たち」にとってそれは難題だ。
普通の大人が当たり前にこなしていることも、「俺たち」は全力で挑んでやっとできるかどうか。
子供の頃はそれも個性だと笑って許してもらえたのに、大人になるとそれでは通用しなくなる。図体だけ大きくなって、それ以外は型にハマれなかった「オトナ」の生きづらさったらない。
怒ってくれるならまだいい。まだ「俺たち」に期待してくれてるってことだから。
でも、大人は「俺たち」に呆れ、哀れみの目線を送ってくるだけだ。その目線に晒されるたびに、出来ていない自分が改めて眼前に突きつけられているようで泣きたくなる。
どうせ裏ではヤルことヤってるのに、なんで「俺たち」だけ…!と、憤懣やるかたない思いでいっぱいになる。
また今日もミスをした。
それの繰り返しで「俺たち」は大人になっていく。
韻について。
まず、各小節の頭に「Tell me why?」の連打がくる。
上の図では説明しきれなかったが、[ei-ai]の音節は以下にも微妙に絡んでくる。
1,3小節の尻では、「欲張っちゃいないのに」「貪っちゃいないのに」と、[b-a(i)aioi]と脚韻しながら、[ei-ai]の後半とも踏み合わせている。
2,4小節の尻では、「何故に不自由」「何故に不充分」と、[aeiuu-]と脚韻する。
5,6小節目は、「Brother&sister」「普通に」「難し」と語感踏みで頭韻する。
また、「sister」「俺たち」「ただ」「吐くだけが」「でしょうか」と、アクセントをつける部分に「た」(「か」)を重ねて配置してリズムを作っている(灰枠の「た」参照)。
7,8小節目では、「破れ」「かぶれ」と[aue]で返し韻を挟み、
テクニカルに「でしょうか?」「ALL DAY ALL night」「…ってそんな」と[eo-a]で踏んでいる。
9小節目からは、アクセントに「あ」を挟みながら(赤枠の「あ」参照)、「呆れた顔」「哀れまない」「足手まとい」「真面目な顔」「マトモじゃない」と、語感踏み。
その中で、「泣きた」「なりま」と[aia]で踏み、「いっso」「切りsuてて」と[i-s]で踏み、「捨て」「くれ」と[ue]で踏んでいる。
VERSE部分へ移る。
部屋が片付けられない、モノの管理ができないと、R-指定自身が抱える強迫性障害の症状が列挙されている。
この症状については、
(前略)
準備万端 いや、注意散漫 うわ、やってもうたどうしょう
多動症なモーションの
ADHD OCDなりに全身全霊過ごす日々 だからRESPECT ME
(中略)
なれると思った ちゃんとした大人
(中略)
バイバイ、社会との繋がり、オトンオカン、すまんドラ息子で…
(後略)
(餓鬼レンジャー/ちょっとだけバカ with Creepy Nuts)
このように過去曲のR-指定のバースでも示されている通りだ。
そして、途中からは溜まりに溜まったタスクを片付けることを諦め、面倒臭さと自己嫌悪で卑屈になっていく。
韻について。
「朝」「カラス」「が鳴いてた」「空(から)」「山」「片」「付かない」「すがた」「悲し」「まないで」「パパ」「ママ」と[aa]で頭韻。
また、その中には「カラスが鳴いてた」「片付かない部屋」「探してた」と[(aau)aaiea]と8文字の脚韻、「一向に」「いい年」と[i-oi]の韻も忍ばせてある。
また、「朝」とは、「夜ふかしをしていつの間にか空が白んできた状況」としての朝と、「HIPHOPアーティストとして売れ始め、暗中模索していた過去を『夜』に例えた過去曲との対比」としての朝のダブルミーニングになっている。
Creepy Nutsの曲の中に、売れてない状況=夜、売れる=朝という対比を描いた歌詞は定期的に見られる。
つまらなくてもいい、くだらなくてもいい
もう誰とも比べなくていい
違いや隔たりを認め ようやっと踏み出せた重い一歩目
窓から差し込む光 終わりと始まりを告げる朝焼け
(Creepy Nuts/朝焼け)
はじかれた野良犬の吹き溜まり
右を見ても左を見ても
どこも行き止まり
足早に月日は移り変わりeveryday
ただ眺めてる月明かりevery night
(Creepy Nuts/月に遠吠え)
そんな下積み期間を経て、やっと日の目を浴びたCreepy Nuts。しかし、自分には人並みの生活が送れない。そんな社会性の無さに自分が嫌になる。
売れたら売れたでまた違う自分の「たりない」部分に直面している。
「ココで」「コレ」「俺」と[oe]で頭韻。
「積み上がった」「大りょうに溜まった」と、[uiaa/a]と忍ばせ韻。
「洗たくもん」「ポスト」「督促状」と[ouo]と脚韻。
「ないポスト」「大量」と[aio]と押韻。
「要らないチラシ」「大事な」と[aiia]と押韻。
「いつかの」「いつ使ったかも」「いつ買ったか」「見つかった」「5つ買っちゃった」と[iua/a]を軸に子音踏みの連打。
個人的には「5つ買っちゃった」の忍ばせ方がこの曲の中でいちばん好き。
「(底から)」「フライヤー」「漫画」「何か」「ライター」「パンパン」「また」「膨らんじゃう」「AH HA」と[aa]で脚韻。
「カード」「あーもー」と[a-o]と頭韻。
「今げつ」「ポッケ」「めんどくせー」「めんどくせー」「俺」「なんて」「人間」「として」「もう下の下の下」と[o-e]と脚韻。
そして、再度HOOKの一部を引用する。
「普通に息を吸って吐くだけがなぜ難しいんでしょうか?」というこの曲の主題をもう一度提示している。
その後、今度は対人関係に話を展開する。
人との連絡も大事な書類の更新もままならない自分の状況に「oh shit!」と捨て台詞を吐き、相方のDJ松永(ドラマ「コタキ兄弟と四苦八苦」内のコタキ兄弟の関係性にもリンクする)に語りかける。
「俺」は「お前」に迷惑をかけている。
約束の時間にも遅れるし、鈍臭いし、マトモに生活も遅れない「俺」はいろんな人に迷惑をかけている。
でも、それだけじゃない。人間関係とはギブアンドテイクだ。
「お前」だって人の顔色を見ずに爆弾発言を繰り返していて、「俺」はその空気と関係を取り持とうと善処している。
だから、お互いに遠慮せずに迷惑を掛け合おうと呼びかけているのだ。ビジネスパートナー・腐れ縁以上の二人の深い関係性が透けて見える。
お互いの短所をお互いの長所で補い合う。
それは、何も「俺とお前」の関係に留まった話ではない。
このリリックは、第三者の「アイツ」や、この歌を聞いている「キミ」とも助け合って、その欠点すら笑い合っていたいよな、誰とでもそんな関係でいたいよな、それこそが理想だよな、と最後に投げかけている。
(原文では「笑い会えたら」と表記されているが、「笑い合えたなら」の誤植だろうと判断した。)
つまり、この三連符ゾーン後半のリリックによって、「俺(R-指定)」と「お前(DJ松永)」だけのクローズドな関係性の物語に奥行きを産んでいるのだ。
これが、過去曲からの大きな変化になる。
これまでは、「『俺』とHIPHOP(手練手管、ぬえの鳴く夜は、阿婆擦れなど)」「『俺』とWack MC(生業)」など、「A vs. B」の2Dの構図を描いてきた。
それが、「俺とお前」に「第三者」という要素が加わったことで、3Dの構図になった。
ここで、リスナーが「第三者」に自分を投影して、このリリックを自分ゴトのように感じられるようになったのだ。
そう提示された上で聴くラストのHOOKは、曲の出だしのそれとは意味合いが変わってくるだろう。
韻について。
「返してない連絡」「返してない電話」「契約」「生活生活生活!」と[(aeieai)eia]と脚韻。
その狭間に「催促」「更新」「oh shit!」と[o-i]でも押韻。
48小節のVERSEはここまでで32小節。
残り16小節は三連符ベースで進んでいく。
「面倒」「遠慮」と[eno]で押韻。
「面倒く[e/ou]」「先に言[yu]う[aiiu]」「迷惑[eiau]」「生憎[aiiu]」「遅れる[oueu]」「すぐに言[yu]う[uuiu]」「なごます[aoau]」「なるべく[aueu]」「足の分[aiou]」と語感踏み。
また、三連符ゾーン(6行目~ラストまで)の小節の頭では、
「おれ」「お前」「どん臭い」「俺」「お前」「思った」「俺」「お前」「俺」「お前」「俺」と[o]で頭韻している。
そして、最後は再びHOOKが流れて曲は終わる。
世間が言うところの「大人」にはなり切れなくても、ありのままの自分を受け入れることが重要なのだ。
ラジオEXPOでコラボしたRHYMESTERの曲名を借りるなら、いかに「K.U.F.U.」を凝らすかが大事だと教えてくれている。
Creepy Nutsなりの「オトナ」像を提示した一曲だ。
最後に、歌詞を再掲する。
Creepy Nuts
オトナ
Tell me why?
欲張っちゃいないのに
Tell me why?
なぜに不自由
Tell me why?
貪っちゃいないのに
Tell me why?
なぜに不充分
Brother&sister 俺たちはただ
普通に息を吸って吐くだけが
なぜ難しいんでしょうか?
Tell me why?
破れかぶれでしがみつくALL DAY ALL night
…ってそんな呆れた顔して哀れまないでよ
泣きたくなりました
そんな足手まといならいっそのこと
切り捨ててくれますか?
そんな真面目な顔してマトモじゃないのは
お互い様ですやん
もう"なるようになる"では済まされない
また大人になりました
朝が迎えに来た
外じゃカラスが鳴いてた
空のペットボトルの山
一向に片付かない部屋
…ここで何を探してた?
コレがいい歳こいた俺の姿
悲しまないでパパ、ママ
積み上がった洗濯物
何日も開けていないポスト
大量に溜まった要らないチラシと大事な督促状
リュックの底からいつかのフライヤー
いつ使ったかも分からんペンが
いつ買ったか忘れた漫画
見つかったのに嬉しくないな何か
今月結果5つ買っちゃった
ライターでポッケはパンパン
名刺、カード、領収書
お金以外でまた財布が膨らんじゃうAH HA
もういいやめんどくせー
あーもーいいやめんどくせー
どうせ俺なんて人間としてもう下の下の下
Brother&sister 普通に息を吸って吐くだけが
なぜ難しいんでしょうか?
返してない連絡
返してない電話
催促 契約更新 oh, shit! 生活生活生活!
もう面倒臭いから先に言う
俺はかける迷惑
だから遠慮は要らない
お前もかけろ迷惑
鈍臭いです生憎
俺は時間に遅れる
お前は人の顔色見ずに思ったことをすぐに言う
じゃあ俺が空気を和ます …なるべく
お前が引っ張った足の分
俺が引っ張った足の分
お前の欠けたところ
俺の欠けたところ
アイツの欠けたとこもキミの欠けたとこも
笑い合えたなら
Tell me why?
欲張っちゃいないのに
Tell me why?
なぜに不自由
Tell me why?
貪っちゃいないのに
Tell me why?
なぜに不充分
Brother&sister 俺たちはただ
普通に息を吸って吐くだけが
なぜ難しいんでしょうか?
Tell me why?
破れかぶれでしがみつくALL DAY ALL night
…ってそんな呆れた顔して哀れまないでよ
泣きたくなりました
そんな足手まといならいっそのこと
切り捨ててくれますか?
そんな真面目な顔してマトモじゃないのは
お互い様ですやん
もう"なるようになる"では済まされない
また大人になりました
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