MRでADHDの症状を体験させるという、強い表現『Impluse: Playing with Reality』:XR映画ガイド第46回
2021年に第78回ヴェネツィア国際映画祭のVR部門「VENICE VR EXPANDED 2021』でグランプリを獲得した『GOLIATH: PLAYING WITH REALITY』を制作したBarry Gene Murphy, May Abdalla両監督による『Impluse: Playing with Reality』を紹介します。また、今作も『GOLIATH: PLAYING WITH REALITY』と同様にイギリスのクリエイティブスタジオAnagramとフランスの制作会社Floreal Filmsが共同で制作しています。
【VR映画ガイド第69回】ゲームに自分の居場所を見つけて……第78回ヴェネツィア国際映画祭VR部門グランプリ作品
https://www.moguravr.com/vr-movie-guide-69/
『GOLIATH: PLAYING WITH REALITY』では統合失調症である主人公でしたが、『Impluse: Playing with Reality』では主人公はADHD です。この物語はMRで見せられ、ADHDの人が世界をどう処理し、理解するかを体感できます。
この作品は 第81回ヴェネチア国際映画祭でヴェネチア・イマーシブ・アチーブメント賞を受賞しています。また、現在Meta Questで購入できるようになっており、体験しやすいので、未体験の方はこの機会にぜひ試してみると良いと思います。
見所:MRで症状を体験させるという強い表現
『Impluse: Playing with Reality』では、前作『GOLIATH: PLAYING WITH REALITY』と同じようにADHDの症状についてゲーム的な体験をさせられます。今回はMR(複合現実)なので自分自身の部屋など見慣れた光景を使ってゲームの体験をすることになります。このため、より現実の自分に起こった症状という感覚は強く感じられるかもしれません。しかし、それはADHDの症状の1つ例であり、後半では様々なADHDの症状について当事者の音声を用いつつ、またゲーム的な表現で紹介されていきます。画面の色調もポップで、あまりADHDについて否定的に捉えている感じはしません。そもそもゲームで表現するということ自体がネガティブに捉えすぎないという制作者の意思表示なのかもしれません。この体験をもとにADHDへの理解の足掛かりになるという意味では、実際に見慣れた自分の部屋でその症状を体験させてしまうMRのドキュメンタリーというものはかなり大きな力を持ちますし、他の分野にも応用可能なものなのではないかと思います。