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最小限の視覚的表現と計算された音の表現『Flow』:XR映画ガイド第27回

https://vimeo.com/856367101

今回は2023年にヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミア上映され、審査員特別賞を受賞した後、多くの映画祭に選出・受賞している『Flow』を紹介します。この作品はオランダの映画監督Adriaan Lokmanが2019年に制作した同名の短編映画をVR作品にアレンジした作品です。

2019年に短編映画を完成させた際にAdriaan Lokman監督は「見えないもの全てを、私は見えるようにする。見えるもの全てを、私は見えなくする」と言っていたのですが、この作品は空気や風などの大気をコンセプトにして使われています。物語はある主人公の女性の何気ない1日を追いかける作品になっています。香りや暖かさ、呼吸そして目に見えない力の影響を受けた自然の空気や人工的な空気などの大気の流れを視覚的に表現しています。こうした大気の動きは線画のみで表現されており、あたかも女性の感じている世界に体験者を誘います。

見所:最小限の視覚的表現と計算された音の表現

視覚的な表現が線画だけでここまで様々な風景を想像させることに成功できているのは、かなり計算された音の表現があるからだと思います。作中の音を聞くと、体験者は、過去の体験の記憶から各シーンのイメージを想起することができます。視覚的な表現が最小限だからこそ、作者が伝えたいことが凝縮され、環境音と最小限の音楽に合わさって非常に表現豊かなイメージが頭の中で具現化することができます。これがVRだからといって、没入感と圧倒的な体験を求めて、インタラクションや空間を埋め尽くすような視覚表現、たくさんの音や音楽を使ったところで作者のメッセージはきちんと伝わらなかったのではないかと思います。逆にここまで繊細なラインと透明感のある表現に抑えることで、驚くほどの奥行きがあり、無重力の感覚を生み出すような新たな表現にまで昇華することができたのでしょう。これぞ視覚的、聴覚的な表現をギリギリまで削ぎ落としたマイナスの美学の最高峰のVRアニメーション作品でしょう。

作品データ
タイトル:Flow
ジャンル:アニメーション
監督: Adriaan Lokman
本編尺: 約15分
制作年:2023
制作国: オランダ、フランス
メディア:3DoF/VR

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