360度実写VR映像とゲーム性を組み合わせ『Project_Y: Working Title』:XR映画ガイド第29回
今回紹介するのは、第81回ベネチア国際映画祭XR部門「Venice Immersive」コンペティションにノミネートした日本の作品『Project_Y: Working Title』です。この作品は某大手ゲーム会社に所属していたメンバーが自主制作した360度実写VR映像とゲームを組み合わせた新しい感覚のVRホラーゲームです。Yと名乗る人物による実話怪談の体験談を360度動画で取材する主人公を中心に描きます。その体験談を「聞くと呪われる」と言われ、取材をする主人公にも色々と不可解な出来事が起こります。体験者は主人公が取材した際に残した360度動画や日記、音声などを確認しながら、その真相を探ります。
近年、映画祭ではCGを使った6DoF作品が主流になっている中で、360度実写VR映像とゲーム性を組み合わせた作品はとても珍しく、同じような方向性の作品は2020年のベネチア国際映画祭で体験賞を受賞した『SHA SI DA MING XING (KILLING A SUPERSTAR)』以来かもしれません。年々、実写VR映像作品が少なくなっている中で、この作品の出現によって実写VR映像の可能性が再注目されるかもしれません。
見所:体験者の怖いもの見たさという欲求をうまく引き出す
これまでも実写VR映像を使ったホラー作品は多く作られてきました。VRとホラーはとても相性がよく、体験者の視界全てをその世界観で覆ってしまうことのできるVR表現は、スクリーンで見るホラー作品よりも様々な方法で恐怖を演出することが可能となります。以前、私がプロデュースした作品でも、ある体験者はあまりの怖さに逃げ場を失ってしまい、VRデバイスを壁に投げつけて壊してしまったことがありました。それからはあまりに強烈な印象を与えてしまうVRホラー作品については、体験してもらう場合は細心の注意を払うようにしています。
『Project_Y: Working Title』では実写VRホラー作品にゲーム性を加えることによって、体験者の怖いもの見たさという欲求をうまく引き出した作品に仕上げています。絶対背後に怖いものが映っているとわかっているのに、少しづつ後ろを向きたくなったり、絶対暗闇から何が出てくるとわかっていても、見てしまう欲求をうまく使って、どんなに時間がかかっても最後まで見てみたいと思わせます。ネタバレになってしまうので、多くを語ることできませんが、ぜひとも最後まで体験してほしい作品です。
作品データ
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?