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ヴェネチア国際映画祭XR部門でグランプリを獲得した終わりのないアニメーション『ITO MEIKYU』:XR映画ガイド第45回

https://vimeo.com/786235681

今回紹介するのは2024年のヴェネチア国際映画祭XR部門のVenice Immersiveでグランプリを獲得した作品『ITO MEIKYU(糸迷宮)』を紹介します。監督はフランスのアニメーション監督として文化庁メディア芸術祭で受賞経験もあり、さらにアーティストとしても活躍するBoris Labbé氏です。今回、初めてVR作品に挑戦したBoris Labbé監督はVRに可能性を感じていたものの、参考書や定義となるものが無い中での制作はかなり苦労したと述べています。しかし、Boris Labbé監督が持つアニメーションのスキルを使ってVRで様々な実験をする中で、VRの魅力に引き込まれていったそうです。VRのプロジェクトは映画やビデオゲーム、デジタルアート、現代アートの交わりがあり、VR制作を通して芸術的な開放感を感じたそうで、芸術的にも、技術的にも未知の領域で色々と試すことで、VRアーティストとして独自の道を切り開くことができました。

特に今回の作品『ITO MEIKYU』は日本の美術史と文学(源氏物語、枕草子)にインスピレーションを得ており、とても実験的な作品になっています。セリフは一切なく、糸が持つ”関係性のメンタファー”を表現しています。そのテーマはアーティストの塩田千春さんの作品に近いものがあるかもしれません。また『ITO MEIKYU』は、VR作品を中心としてシルクスクリーンの版画、ドローイング、織機の彫刻、スクリーン、ビデオアートの展覧会をパリで開催しました。Boris Labbé監督はVRや展示会を含む『ITO MEIKYU』プロジェクトについてこう語っています。
「VRは体験者との直接的な対話を意味しますが、すべての体験者をすぐに納得させることが目的ではありません。我々の目的は、芸術的基準を極限まで押し上げることであり、体験者のアプローチを単純化することではないのです。もちろん、展示では私たちのアプローチを理解するためのテキストも用意しますが、展覧会「私と迷宮」は基本的に感覚的で直感的な体験です。さらに、展示されているすべての作品でVR作品をお楽しみいただけます。」
ぜひ日本でも展示会を見てみたいです。

見所:毎回新しい発見がある中毒性

作品の中で印象的なのは、暗い背景にカラフルに描かれた日本の大和絵のようなアニメーションです。日本の平安時代のような雰囲気がある感じで始まるのですが、突然、目の前の携帯が鳴り、じっと見ていると十二単を着た女性が出てきて何やら不思議な言葉を話し始めます。それはあたかも過去から電話によって、過去と現代が繋がったような感覚になります。空間の中に散りばめられた目の形のアイコンを探して、それを見つめると、そのアイコンの位置まで視点が移動します。

最初は昔の日本の世界を探索する作品かと思っていたのですが、昔の日本だけを描いているわけではなく、現代の服を着た人や着物を着た人、国籍の分からない人など様々な時代を行ったり来たりします。描かれたいくつもの建物を俯瞰で外から見たり、建物の中に入って、その中にいる人たちの動きを近くで見たりします。登場人物たちは、例えば糸を紡いでいる人や糸に絡まる人、愛を交わす人や暴力を振るう人など空間の様々なところで対立する人たちが描かれています。そんな不思議で独特な世界に少しづつ興味が沸き、様々な場所を見ているとこの世界の奥底に入っています。

フッと気づくと自分が今、この空間のどこにいるのか、この空間はどこまで続くのかが分からなくなっていき、宇宙を彷徨っているような感覚になっていきます。まさに糸の迷宮の中に入ってしまった感覚です。この作品を5回以上体験しましたが、毎回新しい発見があり、違う世界に入り込んでしまった感じになります。それが少しづつ面白くなってきて、次はどんな世界に出会えるのかが楽しみになるような中毒性のある作品です。

作品データ

タイトル:糸迷宮/ ITO MEIKYU
ジャンル:アニメーション
監督:​​Boris Labbé
制作年:2024年
制作国:フランス、ルクセンブルク
メディア:6DoF/VR

この連載では取り上げてほしいVR映画作品を募集しております。自薦他薦は問いません。オススメ作品がありましたら下記SNSのDMで送ってください。よろしくお願いします。
待場勝利:https://twitter.com/km19750526
玉置淳:https://twitter.com/room402g

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