ARならではの新しい作品の見せ方『The TENT』：XR映画ガイド第23回

今回はフランスのNewImages Festivalで出会った『The TENT』を紹介します。この作品はiPadを使って見るAR作品です。腰ぐらいの高さのテーブル上に2次元コードが添付されており、それを読み取るとテーブル上にミニチュアの一軒家が現れます。このミニチュアの一軒家の住人がこの作品の主人公となります。

内容は平凡な日常に、突然自分の自宅の庭に誰のものとも分からないテントが建てられているところから物語は始まります。しかもこのテントの中から人の気配がして、一軒家の住人は最初、警察に通報しようとしますが、自分の庭から追い出したところで他に移り住む場所がないのだろうと思いとどまり、怪しいと感じながらも、この奇妙な住民と共同生活をしようと決心します。この作品は現代社会の寓話的物語をARという新しい技術を使って伝えています。

見所：ARならではの新しい作品の見せ方

最初はミニチュア的な一軒家を目の前に見るのですが、人物が出てきて、iPadの画面を近づけると近くで見ることができます。それはまるで自分がカメラマンになったかのように見たいところをクローズアップしたり、全体を俯瞰したりして物語の距離感を選択することができます。通常のTVや映画では制作側が演出的にクローズアップや俯瞰カットを用いてストーリーの強弱をつけていると思いますが、この作品では視点の位置を自由にすることによって、体験者と作品自体の距離感も体験者に委ねています。この距離感によって作品の感じ方も変わります。より主人公に近い視点で見ると家や庭が通常と同じ大きさに見えて、物語世界に入ったような感覚で物語を主観的に見ることになりますし、俯瞰的に家や庭、登場人物を眺めるように見るとミニチュアの映像を見ているような感覚で、より物語を客観的に見ることができます。VRとも違ったARならではの新しい作品の見せ方だと思います。

作品データ

タイトル：THE TENT
ジャンル：ドラマ
監督：Rory Mitchell
制作年：2024年
本編尺: 21分
制作国: アメリカ
メディア：MR

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