【短編小説】神はミニマリスト
深夜。
静寂。
ビニール袋にモノを投げ込む音だけが、そして時々虫やカエルの鳴き声が。
初夏。
とっ散らかった自室を見渡し「心象風景だ」と呟いたが最後、
気がつけばあれもこれも、目が冴えてくるのに任せて、いる、いらない、いる、いらない。
思考が無になるということは、めいっぱい思考することとほぼ同じのような気がする。問われる。答える。
ーーこれ、いるの?もう使わないでしょ
でもこれは、貰い物だから、手放したら同じものはないから
ーー手紙とかと同じ。常に流されたら捨てられないよ。
1回捨てたら、お金どれだけあっても買い直せないぐらいのものなんだよ
ーーでも、ちゃんと大事にしてないならいらないようなものでしょ
いつか使うんだよ
ーーいつか、って、いつ?
いつかは、いつかだよ。
ーー捨てないからって、ちゃんと使えるの?
それは…
ーーなんとなく取ってるうちに古くなっちゃう。使わないものは手放していく。身軽になる。
これ…いらないのかな……?
ーいるの、いらないの、どっちなの
これは……、
これは、たった一つのものとはいえ、
両親から貰ってからもう26年も経っていて、
毎秒古くなるし、
気分次第でぞんざいに扱ってきて、
いつか使うからって放っておいて
忘れてしまってることもある。
手入れにも時間とお金がかかるし、
手放すだけで膨大な手間暇が浮く。
でも、捨てない。
絶対にこれだけは、手放さないよ。
ーーそう。
ーー捨てないなら、それだけの価値を認めて
覚悟して、使うこと。使い切ること。いいね?
「問い」は消えた。
もしかして漣か何かだったのかと思うほどに。
ゴミ袋を固く固く縛る。アパートを出てすぐの集積所にひとおもいに置く。
深夜。
静寂。
ビニール袋を手放す音だけが。そして時々虫やカエルの鳴き声が。
初夏。
わたしがこのゴミ袋に投げ入れなかったものは、わたしだ。
26年前に両親から貰った、たった一つのものだ。ぞんざいに扱って、少し古くもなったし、手入れに時間とお金がかかる。なんとなく生きて、なんとなく使ってきたこともある。
でも
捨てないなら、ちゃんと使い切らなきゃな。
深夜。
静寂。
初夏。
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