「アイリーン・フィッシャー」Inner MBA #32
アイリーンフィッシャーというブランドをご存知だろうか。日本語では以下の記事しか見つけられなかったが、サスティナブル・ライフウェアの先駆者ともいうべき女性向けファッションブランドだ。今回はその創業者のアイリーンへのインタビュー形式の講義が行われた。
アイリーン・フィッシャーは、創業当時から天然素材にこだわり、 “流行を追わず、シンプルで機能的で長く着られるが、女性らしさを忘れない美しい服”を提供するブランドです。CSRが流行り出すかなり前から労働環境の改善や環境負荷削減に取り組み、女性の服を扱う企業として女性のリーダーシップ能力向上プログラムや女性経営者のサポートを行い、店舗やオフィスがある地域の発展に協力しています。
着物にインスパイアされたウェイトレス
現在70歳のアイリーンは中流家庭の6人姉妹に生まれた。バーガーキングのウェイトレスで日銭を稼いでいた若き日のアイリーンは、日本人のボーイフレンドと知り合い、あるとき彼と一緒に訪日したことが人生を変えた。「着物に魅せられたの。その美しさとシンプルさの同居に」。帰国したアイリーンは銀行に行き、融資を取り付けて起業。服飾デザイナーと同時に起業家としてのキャリアをスタートした。
その後、ビジネスを拡大しながらも日本人彼氏との破局、結婚と出産、小さい子供を抱えての離婚、などストレスフルなライフイベントを経験。その中でセラピストと出会い、さらにヨガと瞑想を生活に取り入れることになった。
現在、アイリーン・フィッシャーは北米とUKに66店舗を構え300店以上のデパートに卸す。展開するアイテムには、着物からデザインを取り入れたものが多く揃えられている。
目的の椅子に座る
彼女もまたマインドフルネスの達人であると言える。例えば、彼女はすべてのミーティングの前に必ず一瞬の静寂タイム(サイレンス)を入れるという。
また「目的の椅子(Purpose Chair)」に毎朝座るルーティンがあり、そこで自分の人生の目的について振り返っている。そして、思いつくままにフリーライティング(ジャーナリング)を行って頭を整理するそうだ。
彼女の経営理念は一貫していて「Business for Good*」というものだ。今でこそSocial goodやSDGsが声高に叫ばれているが、彼女は四半世紀以上もこの理念のもとに経営を続けてきた。もちろん、このGoodは社会に、環境に、地域に、人権に、など様々な主語を取るGoodである。
そして面白いことに、彼女はあえてこうした活動を公表していなかった。
エコをマーケティングに利用するグリーンウォッシュ企業と混同される可能性を恐れたからだそうです。ただ良い製品を作り、公表せずとも良い行いを続けることで顧客はついてくると考えていた (引用記事より)
アンデザインをするデザイナー
人間の消費欲に深く根ざしたファッション業界。そんな中で、CEOの彼女は自社のデザイナーやマーケターからプレッシャーをかけられることもあるという。「もっと派手に、もっと新しく、もっと挑戦的な商品展開をしたらどうか?」と。
それでもアイリーンは「怪物に餌をやりたくない」という。この怪物とは「顧客の消費欲」「自身がビジネスを拡大したい」という欲の両方のことだと私は解釈した。
彼女はこのプレッシャーを受けると、また目的の椅子に座る。そして「それはいい成長なのか?ただの売上の成長なのか?」「なぜこのビジネスをしているのか?」と自分に問いかける瞑想をするという。
パンデミック下において、アイリーン・フィッシャーは販売の40%をオンラインにシフトした。渦中に 3 度ものレイオフを決断せねばならなかった(リストラではなくリオーガナイズと表現している)。
それでも、彼女は2020年をさらに経営とデザインに磨きをかけるチャンスだと捉え、よりシンプルさとサスティナビリティを追求した。それは「Undesign」することである。デザインの足し算ではなく引き算を行い、本当に必要な機能や色に絞ったのだ。
再度経営理念に立ち返り、それぞれの人の生活を豊かにするインクルーシブ*なライフウェアを作るにはどうしたら良いか。アイリーンの挑戦はまだ続いている。
*アイリーンフィッシャーのサイトを見るとわかるように、自身の従業員を含め、従来の(容姿端麗さを前面に出した)モデルとは異なるモデルを広告に起用している。
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以上、今回は彼女の柔らかな物腰もあって非常に聞きやすいセッションだった。ファッション業界の女社長といっても「プラダを着た悪魔」みたいな人ばかりではないようだ(もちろん彼女もカッコイイと思う)。
次回、Inner MBA 体験記 #33に続く!
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