「プラスチックの脳」Inner MBA 体験記 #28
今回の講師は脳科学者の Amishi Ja 。マインドフルネスが脳に及ぼす影響を研究している。Inner MBA 2回目の登場。
Focus, Notice, Redirect
マインドフルネスは注意力(attention)をトレーニングすることである。では、注意を何に向ければ良いのか?いつでもどこでも注意を向けられるもの、それは我々の「呼吸」である。人間にとって最もアクセス容易な注意対象だ。
と、ここまでは彼女以外のセッションでも繰り返し学んできた。
脳科学的なマインドフルネスの肝は、瞑想を通じて注意力を発揮し、やがて注意がそれて、「そこからまた注意を向けること」にある。
これをAmishiは Focus(焦点を当てる)→Notice(注意がそれたことに気づく)→Redirect(また注意を戻す)というフレームで説明する。
やってみるとわかるが、この注意力を戻す、というのが大変だ。しかし、その負荷が脳にとってのトレーニングとなり、より健康的な脳が作られていくのだ。これをAmishiはメンタルプッシュアップ(腕立て伏せ)と例えた。
紙の脳とプラスチックの脳
では、具体的にどのような効用があるのか?2012年の脳波実験が紹介された。
脳波スキャンが設定された被験者に瞑想を行わせ、「注意力がそれた(気が散った、雑念が湧いた、心がさまよった)」と思ったら手に持ったボタンを押させる。
まずわかったこととしては、ボタンが押される直前に被験者の脳の中で「注意がそれていますよ」というアラートが発生していたことだった。これは前述のNoticeの活動を証明している。人間は集中した状態から急にそれが失われるのではなく、脳が先に気づき、それから注意がそれる。よって気づき、戻すことを頻繁に行うことで注意を保つ(マインドフルになる)ことができる。
次に、長期間マインドフルネスを訓練するグループAと、そうでないグループBに分ける。
数週間の後、ニューロシグナルの受け渡しなど脳全体の活動を測定すると、Aの方が顕著にパフォーマンスが高いことがわかった。
また別の調査では、各年齢におけるマインドフルネスを実践している人とそうでない人で、大脳皮質(思考、推理、記憶、知覚などを司どる)の厚さを測った。
通常、大脳皮質の厚さ (≒脳のパフォーマンス) は25-35歳をピークに衰えていく(残念!)のだが、マインドフルネスグループにおいては厚さが維持されており、頭を良く使えていることがわかった。
ここまでをまとめて、あえてストレートな言い方をすれば「マインドフルネスによって頭が良くなる、脳が衰えなくなる」ということになる。
Amishiの言葉を借りるなら「ぎゅっと握って丸めた紙がゆっくり開いてしまうように」、脳も加齢によって衰えていく。しかし、マインドフルネスの訓練によって「柔らかなプラスチックに型をつけるように」、その刺激によって脳の力を維持することができるのだ。
これを脳科学用語では「脳の可塑性」というらしい。腕立て伏せで筋肉が厚くなるのと、理屈は同じだ。メンタルプッシュアップ。
注意力はリーダーシップの通貨
ここまでは自分自身の注意力をテーマにしていたが、注意力の鋭さは対人関係においても有効になる。Inner MBAでおなじみリーダーシップの話だ。
例えば、良いリーダーは自分だけでなく周りの人に注意を払い(Focus)、共感して繋がり(Connect)、感情的なバランスが取れている(Balanced)。日本語では「余裕があって包容力がある」といったニュアンスだろうか。
一方、そうでないリーダーは衝動的であり、共感性がなく、気分屋で怒りやすい。
(私の頭の中に過去の両タイプの上司が浮かんだ…さておき)
これは、ダメなリーダーが何も人間として「劣っている」わけではなく、「注意力が枯渇」しているのだ。
おそらく、どのような組織でも良いリーダーは人に対する「センスがある」「見る目がある」「気がつく」という言い方がされているだろう。脳科学的に言えば、彼/彼女らは十分な注意力を持ち、周りに対して発揮しているといいうことだ。
よって注意力を養うことは、リーダーにとっての通貨を貯める行為となる。注意(attention)も通貨(currency)も同じく「払う(Pay)」という動詞が使われるのは偶然ではないかもしれない。
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以上、今回は脳科学の専門用語が多く、英語が大変だったがこれまでの学びを深められるセッションだった。
余談だが、昨今の筋トレブームでは貯金になぞらえて「貯筋」と言ったりする。マインドフルネスは「心の筋トレ」なので、その習慣化は「心の貯筋」と言うことになる。
次回Inner MBA体験記 #29 に続く!