【オーボン・エン・オショガツ・オルトゲザー】
(前回のあらすじ:大晦日の夜。ネオサイタマの暗黒メガコーポ社内でカロウシしたサラリマンに謎のニンジャソウルが憑依し、恐るべきニンジャ「ニューイヤー」となって蘇生した。無差別に正月気分を振りまくニューイヤーの前に、ニンジャスレイヤーが突如現れ…)
ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…!
「…ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ニューイヤーです」ボンノを祓うジョヤの鐘が鳴り響く、超高層テンプルの屋上で、二人のニンジャはタタミ二十枚の距離をとって対峙した。ニューイヤーは機先を制し、口を開く。
「私を殺しに来たのかね?ニンジャスレイヤー=サン。私が何か悪事を働いたとでも?人を殺してはいない。ソウカイヤでもヤクザでもない。むしろモータルに福を振りまいているではないか」「オヌシがニンジャだからだ。それで充分」「おお、剣呑剣呑!」ニューイヤーは飄々と笑う。
「さらに言えば、オヌシのジツ。無辜のモータルから正気を奪うことに変わりなし」「呵々、この世は狂気よ。一年365日がオショガツとなれば、モータルもカロウシすることはあるまい。先祖を敬うオーボンも残る。ミヤモト・マサシも言ったな…オーボン・エン・オショガツ・オルトゲザーと!」
「ヌウ…」ニンジャスレイヤーは唸った。一理はある、と思ってしまったのだ。狂人の理だ。だがそんなことになり、労働者がいなくなれば、経済活動は停止し…結果はモータル社会の、文明の破滅だ。論理的にわかる。所詮は後先考えぬ狂人だ…理不尽を押し付けるニンジャ…殺すべし!
(((グググ…さよう、殺せフジキド!くだらん戯言に耳を貸すな!)))ニンジャスレイヤー、フジキド・ケンジのニューロンで同居者が叫ぶ。ナラク・ニンジャだ!(((復讐者に正月休みなど不要!一刻も早くこのニンジャを殺せ!殺すべし!)))「言われるまでもなし!イヤーッ!」スリケン投擲!
「ニューイヤーッ!」ニューイヤーは奇怪なシャウトと共にブリッジ回避!そのまま八連続バク転を繰り出し、決断的に迫りくるニンジャスレイヤーから距離を取る!「貴様もメデタイ気分に浸るがよいぞ!ニューイヤーッ!」ニューイヤーは両手の指で謎めいたサインを作り、額に当てる!
ZAAAAAAAP!ニューイヤーの額から怪光線!殺傷力は皆無だが、命中した者は半永久的に、正月気分に浸ってしまう!これが「ハツモデ・ジツ」だ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは間一髪しゃがみ回避!ナラクは既にジツを看破している!ワンインチ距離!赤黒い風がニンジャの首を刎ね…!
「ニューイヤーッ!」間一髪ブリッジ回避!さらにニューイヤーは股間のロブスターからスリケンを射出!「グワーッ!」死神は意外な反撃にたたらを踏む!「メデタイ!メデタイ!」嘲笑うニューイヤー!ニンジャスレイヤーは…「ヌウーッ…」動きが鈍い!ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…!
「メデタイのう!不吉な死神よ、わからぬか?かようなメデタイ時に悪霊は力を失う!」宙に浮かぶニューイヤーの相貌は変化し、オキナ・オメーンめいた顔となる。装束もまた変容し、小太鼓と横笛の音が…。(((バカな)))「ナラク?」ニンジャスレイヤーのニューロンに、同居者の驚愕が伝わる。
(((ウカツ!)))ナラクが歯噛みする。ナラクですら、この瞬間までその正体を看破することは出来なかった。類似のクランのゲニンであろうと思っていたのだ。(((こやつは…オオトシ・ニンジャだ!タイサイとも、ダイコク・ニンジャの係累とも言われ、シュラインにも祀られる旧き存在!)))
オオトシ自身は正月でなければさほど強力でなく、いつしか現世から姿を消していた。もともとオヒガンに近い存在だったのだ。オキナの額に第三の眼が生じ、顔が三つ、腕が六本に増える。その力が解き放たれれば、ネオサイタマは焦土と化すであろう。そして今、歳が改まろうとするこの時こそ…!
ニューイヤー、いまやオオトシ・ニンジャが放つメデタイ・ヒカリは、怨念の塊たるナラクにとってまさに天敵。今すぐ地面に穴を掘って逃れれば、ひとまず消滅することはない。オオトシがモータルを虐殺した後なら、ナラクも力を増大できる。だが!フジキドにはそのようなことは出来ぬ!
「ここで止める!」ニンジャスレイヤーはメデタイ・ヒカリに向かって駆ける!(((グワーッ!?)))装束が01分解していく!オヒガン、トコヨから来るヒカリは、悪霊を強制的にジョウブツさせ、アノヨへ向かわせる!(((やめろフジキド!今ここでは…グワーッ!)))「黙れナラク!」000000235912312018
ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…!
00000000000「ドーモ、お久しぶりさねニンジャスレイヤー=サン。バーバヤガです」「…ドーモ、バーバヤガ=サン。ニンジャスレイヤーです」目の前の巨大な老婆に、周囲の空間に、フジキドは奇妙な既視感を覚えた。そして思い出した。「ここは…オヒガンか」「そうさ。アブナイだったよ」
「ニューイヤー=サンは…オオトシ・ニンジャ=サンはどうした。ネオサイタマは」「アブナイだった。あいつはあのまま、トコヨへ去っていったよ。アタシも多少どうにかしたけど。安心しな」「…礼を言う」確かにアブナイだった。あのままでは自分は消滅していただろう。復讐も果たせぬまま。
「記憶は消しとくよ。あンたはあそこであいつと戦ったりしなかった。しちゃならなかった。あいつはもう来ないだろう、多分ね。けど、気をつけな」バーバヤガはニンジャスレイヤーの額に指を当てる。彼女の姿は老婆から、黒髪の美女になり、金髪の美女に、短髪の少女に、くるくると変わる。
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ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…!
「アケマシテオメデトゴザイマス!」ドーン!ドオンドドン!パパパパン!暗雲の覆う夜空を花火の光が埋め尽くす。年が明けたのだ。ニンジャスレイヤーは…超高層テンプルの上に立ち尽くしていた。なぜここに来ていたのかは、どうしても思い出せない。奇妙な体験をしたという記憶だけがある。
「フユコ…トチノキ…!」妻子の名を呟く。古き日本の風習では、親族を亡くした者は一年間、時に三年以上は喪に服し、祝い事を控えるという。フジキド・ケンジは、常に喪中にある。新年を祝うことは出来ぬ。しかし、祝う者を守ることは…いや、己はただの復讐者だ。それしかない、はずだ。
「イヤーッ!」決意を新たに、ニンジャスレイヤーは夜のネオサイタマへ消え去った。妻子の仇を討つ。邪悪なニンジャを殺す。それこそがオブツダンへのセンコとなる。彼はオーボンもオショガツもなく戦い続ける復讐のセンシ。ニンジャスレイヤーなのだ!
【オーボン・エン・オショガツ・オルトゲザー】終わり
これは、ブラッドレー・ボンド&フィリップ・N・モーゼズ著、本兌有&杉ライカ訳の大人気小説『ニンジャスレイヤー』の二次創作小説めいたなんかです。公式とは一切合切関係がありません。
◆ニンジャスレイヤーTwitter◆https://twitter.com/NJSLYR
◆ダイハードテイルズ公式サイト◆https://diehardtales.com/