◆Born in Red Black Tea◆
「見ィーつけ茶」
午後三時。オチャノミズ・スゴイタカイビル中階層の喫茶店は、粉塵と瓦礫にまみれ、静寂に包まれていた。突如として爆発に巻き込まれたこの店に、既に動く者はいない。いや……一人いる。彼は、うつ伏せに倒れていた息のある者を発見して甲高い声を挙げた。出血が酷く、今にも死にそうだが。
「お前が最後だな! 起きろ!」
タキシードに身を包み、黒い覆面をつけた男が、サラリマン風の男の襟首を掴み、引き起こす。彼を救助に来たのだろうか? 否。男は彼の頬にナイフを当て、ペシペシと叩き、残忍な瞳を光らせた。
「ジゴクにようこそ。これからお前で紅茶を淹れるんだ。いいだろォ?」
ナムサン……紅茶を淹れる。それは隠語だ。人間を傷つけて血を注ぎ出し、血中カテキンや血中カフェインを摂取することを意味する。まるで吸血鬼のように。彼こそは数千年の間、歴史の闇に潜み、人の生き血で紅茶を淹れてきた闇の紳士……忍茶(ニンチャ)の一人である。名を、オレンジダスト。
「勿体つけて、じわじわ責め殺すぜ。その方が美味な紅茶になるからなァ。生死の瀬戸際だぞ? わめけ!抵抗しろ!命乞いしろ!無様にな!」
ほとんどの忍茶は最悪のサディストだ。人間の命を虫けらのように踏みにじって顧みず、ティーバッグ程度にしか考えていない。紅茶を淹れた後は、屑籠に投げ入れるだけだ。何も知らぬサラリマンは震え、呟く。
「殺せ…」
「命乞いしろつってンだよ。素直じゃあつまらねェだろうがァ、あ?」
「殺せ…殺せ…殺す…殺す…べし…」
「え?」
(5秒)
「忍茶、殺すべし!」
突如サラリマンの手がゆらめき、オレンジダストの顔面を鷲掴みにすると、後頭部を床に叩きつけた!
「ウバーッ!?」
なんたる膂力! 彼は瀕死の重傷だったはず!
「バカな…!」
オレンジダストは驚愕した。これは、人間のパワーではない。
「俺は忍茶なのに…人間を超え、その茶を啜る紳士なのに!」
「忍茶……殺す……べし……!」
サラリマンは、両眼から血を…否、紅茶を流し始めた。惨たらしく殺された妻子の、友人知人の、見知らぬ客やウェイターの死体から、どくどくと紅茶が溢れ出し、サラリマンに纏い付く。恨みを晴らしてくれ。忍茶を殺してくれ。そう呼びかけるように。死体はミイラめいて黒く萎みながら、赤い茶を流し続ける。黒い茶葉から紅茶を淹れるように。
紅茶は次第に姿を変えて、赤黒いタキシードと覆面を形成する。忍茶の装束だ。数千年の歴史の中で、忍茶が殺して来た無数の人間もまた、忍茶を殺すために怨念を蓄えて来た。忍茶を殺す忍茶を!
忍茶と化したサラリマンは、身を起こしたオレンジダストに対し、威圧的にアイサツした。
「ドーモ。忍茶スレイヤーです」
◆紅茶を淹れている◆
ネオキョートの美しくも妖しい夜景に聳え立つ大阪城。その中の黄金の茶室で、部下の報告を受けた銀髪の美女が黄金キセルをくわえ、煙をくゆらせた。オイランめいた豪奢なキモノの前をはだけ、豊満な胸を晒している。
「捨て置け」
その言葉に、部下は無言で頭を垂れる。彼女こそは大阪城の主にして、ネオキョートの闇世界を統べる女主人。偉大なるロード・ヒデヨシの財宝と権威を受け継ぐ者。忍茶のヌシ。
イエモト・チャチャである。
【続かない】
これは、大人気小説『ニンジャスレイヤー』の二次創作小説めいたなんかです。第一部第一巻に独占収録の「ボーン・イン・レッド・ブラック」、及びそのアニメイシヨン化作品をもとに書かれましたが、紅茶をドバッと混ぜたところ量子力学的ななんかの反応を起こして異なるバースに繋がり、こんなことになりました。『ニンジャスレイヤー』の偉大なる原作者の方々、及びほんやくチームの方々とは一切合切関係がありません。知らない人はとりあえずシヨン第一話を3回ぐらい見て下さい。実際無料です。
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