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#文学フリマ

冷え

エキセントリックという名の犬を飼っていた。一糸乱れずラジオ体操をしてしまう私によく吠える犬だった。普通に振る舞うほどに目立ってしまって、普通との間にある不均衡に癒されていた。彼の耳が蝶のようにホバリングしている。添い寝するときの、同期していく感覚。天気が悪かったからだろうか、適度に湿った耳の柔らかさが香りを連れてきた。あれはどの町の魚市場だったか。滑らないように注意深く市場の通路を行く。てらてらと

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