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熱い心がたぎる。アニメ映画『獅子少年』(ライオン少年)中国、2021年

評判がいいので、思い切って劇場へ見に行きましたが、本当に行ってよかったです。あやうく後悔するところでした。ギリギリ字幕版に間に合ったし、映像美最高! 音楽も最高! ストーリーはおもしろくて熱い!と思ったら、この映画、チャウ・シンチーリスペクトらしいですね。道理で。

舞台は広州の田舎街。主人公のチュン(家娟)は両親が都会の広州に出稼ぎに行って、祖父と2人暮らし。痩せっぽちのいじめられっ子。お正月、地元の獅子舞グループにお年玉を取り上げられたのですが、どこからともなく現れた強い獅子が、地元の獅子舞グループを蹴散らして、お年玉を取り返してくれました。

その獅子の中にいたのは女の子で、しかも同じ名前のチュン(娟然)。広州で開催される獅子舞競技会の宣伝にやってきた、前回優勝チームの一員。チュンが獅子舞を好きだと言うと、名前の娟の字が書かれた獅子頭をくれました。喜んだチュンは仲間のマオやワン公を誘って、獅子舞チームを作ります。

そこから先は、スポ根アニメの王道パターンに笑えるコメディの絶妙なブレンド。かつて凄い舞手だった、しがない塩魚屋のおじさんチアン(国強)を探し、味方に引き入れ、厳しい練習を乗り越えます。練習試合ではボロ負けしますが、それでも仲間と力を合わせてコミカルにがんばります。BGMはチャウ・シンチーの映画『人魚姫』でも使われた名作カンフードラマ『射鵰英雄伝之華山論剣』の主題歌「世間終始問你好」。もう、わくわくしかありません。

ところが、ここから急転直下。チュンのお父さんが工事現場から落下して、意識不明になって戻ります。お母さんも看病のために働けないので、チュンは獅子舞も進学もあきらめて、両親の代わりに広州に出稼ぎに行きます。工事現場やデリバリーなどなど。いくつものバイトを掛け持ちして、父親の治療費を稼ぐチュン。

都会の底辺で働く彼を支えるのは獅子舞だけ。獅子頭を持ち、気弱だった彼は都会で1人働く、たくましい青年に成長します。一方でマオ、ワン公は師匠と一緒に練習を続け、チュンが来るのを信じて大会に参加します。穴を埋めるのは師匠の経験と仲間の友情。TVで見守る師匠の奥さん。そして……..。

こっから先のストーリーは、ぜひぜひ劇場で! 小さい画面では、この作品の良さは10分の1も味わえない気がします。アニメならではの躍動感。音楽のすばらしさ。朝日の輝き。生きる希望。とくに音楽はサントラが欲しいくらいですが、詳しい方によると既存の曲も多いらしいので、自分でチェックできるとか。私のすきな毛不易さんが歌う主題歌もいい!

舞台が広州の田舎なので、本当は広東語世界が自然な気がしますが、アニメという性格からか、標準の中国語(普通語)メインです。ただ、要所要所で広東語が入って、少しリアリティを補っています。中国では広東語バージョンがあったとか。あと、出稼ぎ場面はリアリティありすぎてちょっと辛い。

この物語は、少年たちが青年に成長していく過程のがすばらしいですが、同時にそれを支える大人の変化も素敵です。師匠の奥さんアジェン(亜珍)は獅子舞ばっかりやっていて、生活力があまりない夫のお尻を叩いてお店をやらせているけれど、やっぱり獅子舞やってる彼が好き。

最初は働かない夫が獅子舞をまたやると怒っていたのに、彼がお酒を飲まなくなり、子供の指導に一生懸命なのを知ると、黙ってサポートしてくれるようになります。少年たちを、子供のない自分たちの子供みたいだといって。師匠夫婦が一方的に子どもたちを世話するだけじゃなくて、子どもたちのおかげで自分たち夫婦の関係も取り戻す。双方向の物語のがすばらしいです。

あとは、やぱり「李白」部分でしょうか。中国は、子供が大人に何か正論を訴えるとき、古典を引用するんですね。映画『シスター』でも男の子が古典を引用してましたが、この映画でもチュンが李白を持ち出して、「李白の言っていたことは嘘か!李白は嘘つきか!」って師匠に反論する。そうすると大人は反論できない。微笑ましいです。

チュンが引用した李白の詩は「将進酒」と「行路難」、そして「南陵別児童入京」の3編。中国のネットで検索したら見つかりました。日本語字幕はかなり意訳(口語的に)していましたが、中国語のセリフは以下の通り。

天生我材必有用

李白「将進酒」

長風破浪会有時  直挂雲帆済滄海

李白「行路難」

仰天大笑出門去 我輩豈是蓬蒿人

李白「南陵別児童入京」

あと、ヒロインの方のチュンのエピソードも地味に効いてました。「女の子だから獅子舞を続けられなかった」話。だから、あんなに簡単に高価な獅子頭をチュンにくれたんですね。納得。充実の内容で、久しぶりにパンフレットも買いました。

邦題:ライオン少年(原題:獅子少年)
監督:孫海鵬
脚本:里則林
製作:中国(2021年)105分

イントロダクションの部分は、水墨画っぽくてかっこいい。ここ、大好きです。

■追記

DVD発売後に改めて見て気がついたのですが、劇場公開で若干不自然だった部分が自然になっている!? 確認してみると、DVDは30分くらい長い。なるほど、営業上(?)の都合でカットされていたんですね。これは、DVDで見返して正解でした。


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