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ケン・ローチの闘志は衰えない。映画『わたしはダニエル・ブレイク』イギリス・フランス・ベルギー、2016年


ブレイディみかこさんの記事を読んで、興味を持った映画です。
ケン・ローチ監督の映画は数年ぶりか。それとも十数年ぶりくらいか。それくらい久しぶりなのだけれど、彼が80才にして、まだがんばっている状況は、いいのか悪いのかわからない。

確か、一度引退したけれど、世の中があまりにひどいので、引退を撤回したはず。2012年のロンドンオリンピックでは、1945年の精神をテーマに開会式のセレモニーを担当していたのが印象に残っています。彼の主張は、いつだって決まっています。「ゆりかごから墓場まで」バンザイ!

この映画は、働きたいけど、働けない老人の物語。仕事をしたいのに、身体がいうことをきかない。そして、社会保障は理不尽すぎて、彼を守ってくれないし、人としての尊厳を与えてくれない。

今までに見たケン・ローチの映画の中で、どうにもならなさが辛いのに、それでも自分より弱い者を守ろうとする主人公。でも、社会の貧しさと経済状況の悪さが、彼らを容赦なく打ちのめします。

困っている人がいて、それを助けたい人がいて、でもどうしようもない現実。それでも人は、自分にできる限りのことをしようとするし、したいと考えたいです。それが、人としての尊厳を保つことだから。

惟一、楽しいシーンは、主人公の隣人で黒人の青年が、中国広州のブランド工場から製品を横流ししてもらって、ディスカウントで売ろうとするエピソード。妙にリアルで笑えます。黒人の青年は、スカイプ使って中国人の友人とサッカーの話で盛り上がる。

広州の友人というのも若くて、多分、あまり給料の安くない労働者なんだとわかります。ネットでは楽しい娯楽はシェアできるし、商品の横流しもできる。でも、低賃金労働者として連帯するノウハウはないから、彼らは手を携えて立ち上がることができない。そして、多分そんなことは微塵も考えたりしない。

イギリスの失業者と中国のワーキングプアが、ネットでつながる世界の貧困を、80才のケン・ローチが描く。いろんな意味ですごいし、考えさせられます。

邦題:わたしはダニエル・ブレイク(原題:I, Daniel Blak)
監督: ケン・ローチ
主演:  デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ
製作: イギリス・フランス・ベルギー(2016年)100分


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