やさしくて切ない映画『ディア・ドクター』2009年。
冒頭の「俺、免許ないねん」で、あれ? と思ったけど、車と医者のをかけてるところから、するっとひきこまれました。主人公は、笑福亭鶴瓶演じる田舎の偽医者。無医村を回っているうちに、重宝がられてとうとう大先生に祭り上げられてしまった男の話。
主人公に限らず、登場人物たちは、みんなそれぞれ嘘をついて生きている。老人に早く亡くなって欲しい家族たちから、癌の治療のために娘に心配かけたくない母親まで。そして、みんな嘘をわかっていても自分に割り当てられた役割を演じている。生きていくために必要な嘘、人を助けるために必要な嘘。
西川美和監督の映画は、いつも人間の怖いところを突きつけてきます。前作の『ゆれる』は怖すぎて辛かったですが、今回は田舎のリアルな生死観や生活のありようをえぐりつつ、それをコミカルに描いていて、ちょっとホッとできました。そして、都会からやってきた人間が予定調和を壊した時の、割り切れなさ加減の切なさもいい感じです。
西川監督は、最初主役を韓国のソン・ガンホで考えていたけれど、結局、日本人の笑福亭鶴瓶にしたとか。もし、ソン・ガンホ主演が実現していたら、表面的なものは似てますが、きっと間逆な映画になっていたような気がします。
とりあえず、八千草薫の可憐さがすごすぎて、井川遥と並んでも全然遜色ないところが驚きだし、わけありっぽい看護婦役の余貴美子もすごい存在感でした。いえ、彼女の出る作品は大体いい人とか、しっかりしたお母さん役が多いけれど、今回のような「過去に何かあったおかげで、実力あるのにそれを発揮できる場所にいない」役は最高に似合います。凄みがあってよかった。
題名:ディア・ドクター
監督・脚本・原作:西川美和
出演者:笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川遥、八千草薫
制作:日本(2009年)127分