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夕遊の連続劇

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連続ドラマは、見始めてからしばらくの間、現実を忘れさせてくれる元気の素です、映画よりも物語を深く長く描いてくれるのが素敵です。わくわくするドラマを、誰かにそっとご紹介。
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#読書

新しい世界は闇から始まる。『闇の中国語入門』楊駿驍

「歌は世につれ、世は歌につれ」。それは歌だけでなく、言葉も同じ。新しい言葉ができたり、海外から入ってきたり。そして、それがその国独特の言葉に変化していきます。もともとネガティブな言葉が普通になって、さらにポジティブな意味も加わったり。言葉をめぐるおもしろさは、単純なコミュニケーションの道具というだけじゃなく、世の中の変化を定点観察できる部分にもあります。 楊先生の文章は、noteの記事をもとに書かれたそうですが、1冊の本として読むと、その構成力や深みのある洞察、なにより、1

耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

以前から興味を持っていた分野なので、すごく読みたかった本ですが、発売前から重版がかかるほどとは。ドラマ『陳情令』の原作『魔道祖師』や『天官賜福』の作者・墨香銅臭さんのインタビューが掲載されていた『すばる』2003年6月号もすごかったですから、当然といえば当然なのかも。 さて、周密さんの『BLと中国』は、日本でいわゆる「BL」とされる物語が、中国では「耽美」(Danmei)と呼ばれている、その語源からたどります。日本が新しいもの=外来語を使って新しさや付加価値つけて表現し、そ

ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)

予備知識ゼロで手に取った、王安憶の長編『長恨歌』。白居易の『長恨歌』と同じ名前の現代小説なんて、一体どんなだろうと読み始めたのですが、独特な文体にあっという間に引き込まれました。彼女の文体は、中国で「評論叙事文体」と名付けられたそうです。 凝った表現や、美麗な修辞でもなくて、一文、一文はシンプルで短いのに、それが一つ、また一つと連ねられると、他の誰とも違う雰囲気を醸し出す不思議。例えば、冒頭はこんな感じに始まります。 本書は、1945年の上海という都市の複雑に入り組んだ町

”無常”という冥界の使者『中国の死神』大谷亨

評判がよい本はぜひとも読みたいです。この本を読むまで、中国には無常(むじょう)という地獄の使者(寿命が尽きようとする者の魂を捉えにくる)がいることを知りませんでした。序論からいきなりワクワクです。 そもそも無常は仏教の概念で、日本人的には「祇園精舎の鐘の声……」をすぐ連想してしまいますが、本来の意味は「Everything changes(この世の一切は生々流転する)」→「人はいずれ死ぬ」ということで、「無常≒死≒死の象徴の勾魂使者」と呼ばれるようになったのだとか。 本当

南からみた衝突と融合の三〇〇年『越境の中国史』菊池秀明

日本に来る中国人観光客が増えても、日本人には中国と台湾、香港の区別が難しいです。ましてや、中国大陸の南と北の文化の違いなんて難しい。中国は北京が中心で、統一された大きな国のイメージが強いです。 でも、ヨーロッパのいろんな国がすっぽり入ってしまう大きさの中国。北京を中心とした地域では、草原や砂漠の民族が入れ替わり立ち替わり、南下をくり返して文化が融合し、中華的な世界になっていったようです。森部豊先生の『唐』も、そんな古代中国北部の変化をおもしろく紹介してくれています。 なら

中国の宮廷ドラマをもっと楽しむために。『東アジアの後宮』(伴瀬明美・稲田奈津子・榊佳子・保科季子編)

最近、中国の宮廷ドラマが日本でも気軽に見れるようになりましたが、そもそもどのくらいフィクションで、どのくらい実話に基づいているの?という疑問がわきます。 そこで、ちょうどタイムリーに出た論文集を入手しました。全くの専門外なので、読むのにはちょっと努力が必要ですが、それでも普通のお硬い論文よりは、かなりマイルドだし、短いし、コラムもあるしで楽しめました。 タイトルに東アジアとあるとおり、中国だけじゃなくて韓国や日本、ベトナムや沖縄(琉球)も含まれていて、しかも古代から近代に

つながる想い。『天官賜福』5巻、墨香銅臭

『天官賜福』台湾版(平心出版)の5巻は、第91章から113章まで。先が気になりすぎて、久しぶりに睡眠時間削りました。ものすごくシリアスな展開が続いたかと思うと、いきなりコメディがきたりで、感情の整理が追いつきません。 ネット小説は1回の更新ごとに小刻みに、緩急あるフックが仕込まれるので、上手い作品ほど途中で止まることができません。ジリジリとワクワクと、しんどい地獄が圧縮されたこの作品を、リアルタイムで読んで、次回更新まで耐え忍んでいた猛者の皆様には尊敬しかありません。 以

リアルと漫画はどこが違う?『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』中川裕

楽しみに待っていた1冊。わくわくしながら読みました。アイヌ研究の中川先生の文章は、『ゴールデンカムイ』を読み始めたあたりから、結構読んでいましたが、まとめて読めるとは本当に最高です。いろんなところで講演会とかあっても、遠いところはなかなか行けないので。 実際に『ゴールデンカムイ』の漫画に出てくる明治時代のアイヌ文化の概略とか、当時の明治の北海道のようすなんかも詳しくわかるので、とても楽しい内容になっています。 『ゴールデンカムイ』の野田先生はとてもよくアイヌ文化や、明治時

人間くさいドラマが魅力。『剣嵐の大地』中(氷と炎の歌3)ジョージ・R・R・マーティン

ページをめくるのがもどかしいくらい、先が楽しみな読書です。 以下、これまで同様、ドラマと原作の違いをチェックしつつ、感想をメモしていきます。 デナーリスの親友になるミッサンディ。彼女が10才ということに驚きました。これだとドラマとかなり違う感じな展開になっていくんじゃないでしょうか。まあ、原作ではデナーリスも16才くらいですが。それにしても、6才も差があれば、ドラマのような親友のような関係にはなれません。保護者と被保護者です。 あと、些細なことですが、この巻でもデナーリス

ヒット作はあたり前だけどおもしろい。『チーム・バチスタの栄光』海堂尊

東京から実家まで、新幹線+在来線で約3時間。当時は電子書籍がなかったので、駅の本屋で気になっていた本を購入。どの書店でも山積みだっただけの理由はありますね。期待通り、もう新幹線に乗っていることさえ忘れ、乗り継ぎの短い時間も面倒で、ずっと読み続けていたいほどでした。3時間があっという間に過ぎて、スリリングで楽しかったです。 物語の舞台は、架空の東城大学医学部付属病院。アメリカの心臓専門病院から心臓移植の権威、桐生恭一を招き、彼の外科チームは通称“チーム・バチスタ”として100

人の愚かさと愛しさと。『狼王たちの戦旗』上(氷と炎の歌2)ジョージ・R・R・マーティン

ドラマの世界から原作の世界にはまりました。電子書籍割引セールのせいです。ステイホームや非常事態宣言では図書館も自由に使えないので、電子書籍率がいつもより高まった気がします。 さて、今回も原作との違いがチェックポイントになります。本書では、サー・ジョラーの過去に涙しました。ドラマで、どうしてあんなにデナーリスに忠誠を誓ったのかがよくわかるというか、性癖…もとい、女性の好みは変えられない哀しい実例というか。 ジョラーは、二度目の若い美人の奥さん(南部出身のいいとこ出、しかも自

続きが気になりすぎる。『剣嵐の大地』下(氷と炎の歌3)ジョージ・R・R・マーティン

原作もとうとう6巻目。未読分が少なくなってきました。作者様、マーティン様、過去編の執筆も、ドラマ化もいいですが、本編をぜひ進行させてくださいませ(懇願)。 6巻まで進んでくると、だんだんドラマと原作の違いがはっきりしてきました。原作では、竜の母となったデナーリスの周りに集まる男たちに嫉妬するけど相手にされないジョラー。しまいには、新たに加わった老騎士サー・バリスタンに、過去のスパイ行為をバラされ、ジョラーは追放されてしまいます。 サー・バリスタンは、元キングスランディング

原作の登場人物はみんな若い。『剣嵐の大地』上(氷と炎の歌3)ジョージ・R・R・マーティン

シリーズが進む毎に、各方面、色っぽい話になってきました。引き続き、ドラマと原作の違いに注目して読んでいます。まず、ロブから。 ドラマと違って、原作のロブのお相手は16才の女の子。いい子だけど、賢くなるにはまだ幼い。そして、長男ロブもまだ16才になるか、ならないか。恋愛未満で手を出してしまった感じ。ロブは戦場では無敵でも、大局的な戦略を上手くたてることができない。 本来なら、その役割は父親がするのだけれど、なんせロブが立ち上がったのは、父親を殺されたその敵討ちなのだから。女

人生初の表紙買い。『ビブリア古書堂の事件手帖』三上延

ドラマ化も映画化もコミカライズもした有名な作品。私が手にとったときには、1巻と2巻までが発売されていたと思います。ふらっと入った本屋で入手。表紙のイラストとタイトルがとてもステキだったので。 鎌倉の古書店を切り盛りする、書籍に関してものすごい知識を持つ若い店長栞子と、本が読めないアルバイト大輔が、古書にまつわるライト(&時々ヘビー)なミステリーを解いていくお話。本作のヒットで、日常系ライトミステリーが雨後の筍のように出版された印象があります。 1巻は、夏目漱石の『こころ』