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夕遊の連続劇

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連続ドラマは、見始めてからしばらくの間、現実を忘れさせてくれる元気の素です、映画よりも物語を深く長く描いてくれるのが素敵です。わくわくするドラマを、誰かにそっとご紹介。
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記事一覧

中国の建物と街並み詳説絵巻『建築知識』2024年7月号

発売前から評判だった専門雑誌を予約購入。中国ドラマや映画をみるときや小説読むときの参考になればと思ったのですが、ファンシーな表紙のイラストの真逆をいく、「新石器・古代王朝から清朝まで」のすさまじく楽しい特集内容に歓喜しています。 建築については全然わからないので、すみません、内容のすばらしさを表現する語彙力ありません。とにかく開くページ、開くページの素敵な建築のイラストと詳細すぎる説明に見応え、読み応えあってうれしい。それぐらいしか言えないのがつらい。 紀元前5千年頃の集

新しい世界は闇から始まる。『闇の中国語入門』楊駿驍

「歌は世につれ、世は歌につれ」。それは歌だけでなく、言葉も同じ。新しい言葉ができたり、海外から入ってきたり。そして、それがその国独特の言葉に変化していきます。もともとネガティブな言葉が普通になって、さらにポジティブな意味も加わったり。言葉をめぐるおもしろさは、単純なコミュニケーションの道具というだけじゃなく、世の中の変化を定点観察できる部分にもあります。 楊先生の文章は、noteの記事をもとに書かれたそうですが、1冊の本として読むと、その構成力や深みのある洞察、なにより、1

コミカルで切ない台湾ドラマ『一筆お祓いいたします』2023年

普通の何気ない日常とか、やさしい人間模様を描いた、ゆったりしたドラマをみたいと思って、探して目にとまりました。「コメディ」枠で、しかも「書道」でトラブルを解決する物語だと紹介文にありました。日常ミステリかなと検討をつけて、軽い気持ちで見始めましたが期待以上でした。 原題は「不良執念清除師」。主人公は、書道家の家に生まれた成績の悪い高校生、蒲一永(プー・イーヨン)。優等生の 曹光硯(ツァオ・グァンイェン)に嫌がらせするけれど、基本的には態度やヘアスタイル(美容師の母がカット)

耽美をめぐる社会情勢と魅力『BLと中国』周密

以前から興味を持っていた分野なので、すごく読みたかった本ですが、発売前から重版がかかるほどとは。ドラマ『陳情令』の原作『魔道祖師』や『天官賜福』の作者・墨香銅臭さんのインタビューが掲載されていた『すばる』2003年6月号もすごかったですから、当然といえば当然なのかも。 さて、周密さんの『BLと中国』は、日本でいわゆる「BL」とされる物語が、中国では「耽美」(Danmei)と呼ばれている、その語源からたどります。日本が新しいもの=外来語を使って新しさや付加価値つけて表現し、そ

ノスタルジー上海。『長恨歌』王安憶(飯塚容訳)

予備知識ゼロで手に取った、王安憶の長編『長恨歌』。白居易の『長恨歌』と同じ名前の現代小説なんて、一体どんなだろうと読み始めたのですが、独特な文体にあっという間に引き込まれました。彼女の文体は、中国で「評論叙事文体」と名付けられたそうです。 凝った表現や、美麗な修辞でもなくて、一文、一文はシンプルで短いのに、それが一つ、また一つと連ねられると、他の誰とも違う雰囲気を醸し出す不思議。例えば、冒頭はこんな感じに始まります。 本書は、1945年の上海という都市の複雑に入り組んだ町

【香港島】天官賜福。筲箕湾の道教寺院(廟祠)めぐり。

2023年夏、仕事ででかけた香港島。せっかくの機会に、飛行機までの半日を観光しないわけにはいきません。早朝から、トラムに乗って香港島を横断して、終着点の筲箕湾の道教の廟めぐりをしてきました。目的はなく、単純にトラムにのって散策したかったので。 ちょっと想定外だったのは、地下鉄に比べて(当たり前だけど)2階建ての路面電車トラムはゆっくりだったこと。ほぼ西端からスタートしたので、反対側の終点まで1時間かかってしまいました。ゆっくり香港島を横断見物できたのはいいけど、帰国当日の観

日露戦争に人生を狂わされた男たちの物語。映画『ゴールデンカムイ』2024年

オープニングのすさまじい二〇三高地のシーンから、主人公の杉元とアシㇼパが出会い、困難を乗り越えて相棒(バディ)を組むまで。この映画は、壮大な物語の「序章」です。内容は原作のテイストそのままですが、なんといっても生身の俳優さんたちがくりひろげるアクションシーンがすばらしい。そして、合間、合間に広がる試される大地、北海道の雄大な景色。映画ならではの表現で、原作の世界を存分に表現しています。 タイトル『ゴールデンカムイ』のロゴがラスト近くに大きく映し出され、今後の続編に出てくる、

大あたりのコメディ映画『宝くじの不時着~1等当選くじが飛んでいきました』韓国、2022年。

ヒット作があれば、パロディがつくられる。これは小説でも映画でも同じようです。パロディ作品については、当たりもあれば外れもあるので、宝くじみたい。超有名どころでは、小松左京の『日本沈没』と筒井康隆の『日本以外全部沈没』でしょうか。 さて、韓国ドラマの超ヒット作『愛の不時着』は未見ですが(そろそろ本気でnetflix考えないと)、韓国映画『宝くじの不時着』は、ポスターを見た瞬間「絶対、当たり!」の予感がしたので、夫と見に行きました。映画の原題は、韓国のロトを指す言葉。でも、内容

ドラマ10「大奥」“放送尺ちょうど”を目指す、筋肉質な脚本作り/脚本家・森下佳子

初めてよしながふみさんのコミック『大奥』を読んだのは10年以上前のことでした。 キャラクターひとりひとりに血肉が通っていて、まず、ヒューマンドラマとしてすばらしい。その上、ジャンルとしてはSF時代劇。それが要所要所はかなり史実とリンクする形でくくられている。とにかくものすごい離れ業が信じられない完成度でまとめあげられていることに驚きました。 「どうすればこんな物が作れるのか。言うまでもないが、私には一生かけても作れまい!」 そんなワケで、この作品がこの世に存在して、それを楽

”無常”という冥界の使者『中国の死神』大谷亨

評判がよい本はぜひとも読みたいです。この本を読むまで、中国には無常(むじょう)という地獄の使者(寿命が尽きようとする者の魂を捉えにくる)がいることを知りませんでした。序論からいきなりワクワクです。 そもそも無常は仏教の概念で、日本人的には「祇園精舎の鐘の声……」をすぐ連想してしまいますが、本来の意味は「Everything changes(この世の一切は生々流転する)」→「人はいずれ死ぬ」ということで、「無常≒死≒死の象徴の勾魂使者」と呼ばれるようになったのだとか。 本当

傷ついたからこそ、美しく輝く。台湾ドラマ『茶金 ゴールドリーフ』2021年

出張先の夜に一気見。評判以上のすばらしいドラマでした。植民地時代の日本語、台湾の人たちの台湾語、主人公一族の客家語、そして中国大陸からやってきた人たちの国語(Mandarine)や上海語、蒋介石の国民党政権を支えるアメリカ人たちの英語がいきかいます。そして、登場人物たちのセリフ以上のものを使い分けられる言葉たちが表現します。 主人公の張薏心(チャン・イーシン)は、茶虎と呼ばれる台湾最大の茶輸出会社「日光」の社長張福吉(吉桑:ジーさん)の一人娘。台湾の新竹県北埔鎮が彼とその張

暑い夏に見る中国ドラマ『バーニング・アイス』(無証之罪)2017年。

中国ドラマ『バッド・キッズ』、『ロング・ナイト』と続いた紫金陳原作の三部作ドラマ。最後は『バーニング・アイス』です。 ドラマを見始めたときの最初の感想は、久しぶりの北の文化~!でした。最近は、『家族の名において』とか『破氷行動』とか、南が舞台のドラマ率高かったので。核家族とか、一族が出てこないで、親分子分関係の組織が出てくるとか新鮮でした。雪のちらつく東北は、マイナス20度とか30度とかの世界ですけど、夏にドラマで見るなら悪くないです。 さて、物語の舞台は、中国の東北地方

中国ドラマや小説を楽しむために。『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』柿沼陽平

出版直後からすごく話題でしたが、ようやく手に取ることができました。きっかけは、中国ドラマ。とりあえず、古代中国の基礎知識が欲しかったので。絶対おもしろいことはわかっていたのに、期待の3倍おもしろかったです。 この本でいう古代は、秦漢(紀元前3世紀~後3世紀)+αです。私の見たドラマでは『羋月(ミーユエ)』あたり。あと、『三国志』関係は本もマンガも結構読みましたが、『三国志』は戦争とか政略がメインなので生活方面の記述はあまり出てきた記憶がありません。どうでもいいですが、この時

南からみた衝突と融合の三〇〇年『越境の中国史』菊池秀明

日本に来る中国人観光客が増えても、日本人には中国と台湾、香港の区別が難しいです。ましてや、中国大陸の南と北の文化の違いなんて難しい。中国は北京が中心で、統一された大きな国のイメージが強いです。 でも、ヨーロッパのいろんな国がすっぽり入ってしまう大きさの中国。北京を中心とした地域では、草原や砂漠の民族が入れ替わり立ち替わり、南下をくり返して文化が融合し、中華的な世界になっていったようです。森部豊先生の『唐』も、そんな古代中国北部の変化をおもしろく紹介してくれています。 なら