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【良いコピーの条件とは?】 コピーライター養成講座で目から鱗が落ちまくった話

株式会社エクシングのコピーディレクター、高沼です。

今回は、学生時代に通った講座でのエピソードを通して、良いコピーとは何か? についてお話しします。




✏️ 優れたコピーには〇〇がある


「コピーとは何か」と聞かれたら、みなさんはどう答えますか?
カッコいい言い回しの言葉? おしゃれな表現の言葉?

時にはそれも間違いではないかもしれませんが、
もし一つ答えを挙げるとしたら、私はこう言います。

「コピーは発明ではなく、発見である」

まるで自分の言葉かのように書きましたが、これはコピーライティングの名手・岩崎俊一さんの名言です。

でも、発見があるコピーってなんだろう?
もうすこし具体化すると、「新しい価値」を与えてくれることばのことかなと思います。


岩崎俊一さんの作品が収められた『幸福を見つめるコピー』。
ページをめくるたび、まさに発見の連続です。


✏️ 「コピー」=「おしゃれな言い回し」の勘違い


もう10年以上(!)前のこと。
大学3年生の春、私は宣伝会議のコピーライター養成講座(基礎コース)に通い始めました。

きっかけは、好きな作家にコピーライターの経歴があったこと。

もし自分に向いていなくても、「将来的に話のネタの一つになればいいや」という軽い気持ちでした。

とはいえ、文章にはそれなりに自信がありました。
作文で賞を何度かもらったことがあったし、まぁまぁ褒められていたからです。

が、その自信は初日にいきなりぶち壊されました。

講座の初回は、事前に課題として出されていた「双眼鏡のコピー」を講評するというもの。

講師は、「Yonda?」キャンペーン(新潮文庫)や「ガスパッチョ!」(東京ガス)でも有名なコピーライターの谷山雅計さん。

「双眼鏡を売るためのコピーを書いてきてください」というお題に対して、大学生だった私が書いたのはこんなものでした。


・もう、席運なんて必要ない。
・憧れのアイドルを、目の前に。
・視力10.0。


いま見たらものすごく恥ずかしいですし、ダメな理由もわかります。

でも、当時の能天気な私は「“視力10.0”とは、我ながら上手い言い回し…いきなり褒められちゃったらどうしよ〜!」などと考えていました。(めちゃくちゃアホですね)

そんな風に妄想している私の前で、谷山さんはホワイトボードにいきなりコピーを書き始めました。
どれも、私が書いたものと同じような内容です。

「やっぱり、褒められちゃう!?」
内心色めき立つ私に、谷山さんはこう言いました。

「これはぜんぶダメな例です」

頭の中はパニックです。
文章では割と褒められてきたのに、なぜ…!?という叫びが脳内でこだまします。


まさに雷に打たれたような気持ちに…。


✏️ もし双眼鏡を新たな層に売るとしたら?


ショックを受けている私をよそに、谷山さんは続けてこう言いました。
「ここにいるほとんどの人が、似たようなコピーを書いてきました。ですが、コピーとしてはふさわしくありません」

そんなはずはない、と思っていた私ですが、その後の谷山さんのお話を聞いてすべてが腑に落ちました。


「双眼鏡=遠くのものが見える道具」ということを知らない人が、この世にどれだけいますか? みんなわかりきっていますよね。

だとしたら、「憧れのアイドルを目の前に」なんてコピーは意味がない。
それに、コンサートによく行くような人はすでに双眼鏡を持っています。

つまり、双眼鏡は“必要な人には売れ切っている”商品なんです。
じゃあ、どうすればいいか?
それは、新しい使い方を提案してあげることです。


そう言って、谷山さんは先ほどのダメな例の横にコピーを書きます。


防災リュックに、一つ。


目から鱗でした。
当時は東日本大震災から約1年。
いま思い出しても胸が苦しくなる甚大な被害ですが、さらに鮮明な記憶が刻まれている頃でした。

電気が使えない状況や瓦礫だらけの中でも、電池なしで遠くを見渡せる双眼鏡があれば、安全な道へ避難できるかもしれない。

新たな使い方を提案することで、双眼鏡と接点がなかった人にも「必要かも」と感じさせることができるのです。

まさに「発見がある」コピーだと思います。


✏️ そのコピーで人は動くか


谷山さんのお話で印象に残っているものを、もう一つ。


ものを売るって、大変なこと。人を動かすって、簡単じゃない。

先ほど挙げたダメな例は、どれも「描写」にとどまっている。つまり、「双眼鏡は遠くのものが見える道具です」を言い換えたに過ぎない。

「視力10.0」とか、一見上手い言い回しに思えるかもしれないけど、考えてみてほしい。

“本当にそのコピーで人は商品を買うか?”と。


私は深く反省し、恥入りました。
「“視力10.0”とは上手く言い回せたな〜」などと浮かれていた自分を。

コピーの目的は、上手い言い回しをすることではありません。
商品を手に取ってもらわなければ、人を実際に動かせなければ、意味がないのです。
(※ブランディング広告などにおいては商品購買が目的にならないかもしれませんが、「人の心を動かす」という点では同様と考えています)

モノを買うには、当然お金がかかります。
日々一生懸命働いて稼いだお金を使わなければなりません。

もちろん、それだけではありません。
立ち上がり、服を着替え、時間をつくり、電車や車に乗ってわざわざお店に出向かなければいけません。
病気や障害を抱えていたり、お子さんがいたり、介護をしている人なら、そのための準備も必要です。
オンラインショッピングだとしても、他の商品と比較したり、情報を登録したりする時間が求められます。

その苦労は、腰が重い私自身がいちばんわかっているはずなのに。
いざコピーを考えるとなったら、なんとなくの「カッコよさ」や「オシャレな言い回し」に飛びついていたのです。

谷山さんの講義に打ちのめされたものの、気持ちにはかえって火がつきました。

「絶対に金の鉛筆をもらうぞ」

講座で良いコピーを書いたと認定された人にだけ与えられる金の鉛筆をゲットすることをめざして、大学に通いながらも課題と向き合う日々が始まりました。

その後の講座でなんとかゲットできた金の鉛筆の一部。
いまも実家で大切に保存しています。


✏️ 価値観を180度変えることばの力


さいごに、私の大好きな広告をご紹介して終わりたいと思います。


「母がわらう」を、私がもらう。自分のことは後回しで、いつも家族のことばかり。心配したり、気づかったり、そんなあなたの照れた笑顔を見たいのです。産んでくれて、ありがとう。思ってくれて、ありがとう。叱ってくれて、ありがとう。今さら言えない数々の「ありがとう」を精一杯贈ります。5月の、その日。いちばんしあわせなのは、母さん、あなたのはにかんだ笑顔を見る私です。 5・9 母の日
東武百貨店の母の日広告。


コピーライターの斉藤賢司さんが手がけた、東武百貨店の母の日広告です。

一般的な価値観では、「母の日=プレゼントをもらったお母さんが喜ぶ日」。

ですが、この広告は、そんな価値観をたった1行で変えてしまいます。
「『母がわらう』を、私がもらう。」

つまり、「母の日=プレゼントをあげる側こそが(お母さんに喜んでもらうことで)いちばん幸せになれる日」であると言うのです。

これぞ、モノごとに新しい価値観を与えてくれる、発見のあるコピーではないでしょうか。

その表現に、発見はあるか?
新たな価値を提案できているか?
“本当に”人を動かせるのか?

つねに自問自答しながら、これからもコピーを書いていきたいと思います。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


〜おわりに〜

【コピーライターという仕事に興味が湧いた方へ】
こちらの記事もぜひ ▼


【谷山雅計さんのコピーに関するお話を詳しく知りたい方へ】

ほぼ日さんのページで詳しくご紹介されています ▼




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