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『ファーストキス 1ST KISS』 必要なのは、少しの意識だけ。 - わたしの映画時間 vol.3
どうも。
情報解禁されてからずっと気になっていた映画『ファーストキス 1ST KISS』。
坂元裕二×塚原あゆ子、松たか子×松村北斗なんて私の理想が具現化されたか?と思うほど素晴らしい組み合わせで絶対に観に行こうと思っていたけど、結婚や恋愛の優先順位がかなり低い私が共感できるのか、心揺さぶられるのか、と少し不安があった。
まあとりあえず暇な時に観に行くかー、とぼーっとしていたらいつの間にかSNSでの評判がかなり良さそうに見えたので、これはまずいとすぐに観に行った。(良い評判が多くなれば多くなるほど自分の中でハードルが高くなって上がりすぎたハードルを越えられないことがあるので、多くの人が大絶賛する作品はどんどん観れなくなる。)
一言で言うと、本当に見て良かったと思える映画だった。あとはこの映画を観た全員が松たか子と松村北斗を好きになること間違いなしだなと思った。
例によってここから下はネタバレありです。
*
結婚して15年になるカンナは、ある日、夫の駈を事故で失ってしまう。いつしか夫婦生活はすれ違っていて、離婚話も出ていたが、思ってもいなかった別れ。しかしカンナは、駈とこちらも思ってもいなかった再会を果たす。しかもそこにいたのは、初めて出会ったときの駈。
ひょんなことから、彼と出会った15年前の夏にタイムトラベルしてしまったカンナは、若き日の駈を見て思う。やっぱりわたしはこの人が好きだ。まだ夫にはなっていない駈と出会い、カンナは再び恋に落ちる。
時間を行き来しながら、20代の駈と気持ちを重ね合わせていく40代のカンナ。事故死してしまう彼の未来を変えたい。過去が変われば未来も書き換えられることを知ったカンナは、思い至る。わたしたちは結婚して、15年後にあなたは死んだ……だったら答えは簡単。
駈への想いとともに、行き着いた答え。
わたしたちは出会わない。結婚しない。
たとえ、もう二度と会えなくてもーー 。
最後まで見終わったとき、なんて温かい映画なんだと思った。なんて愛に溢れた映画なんだと思った。
駈(カケル、松村北斗)が死ぬ前の結婚生活は冷めたものだった。互いに惹かれあって結婚したはずなのに、ひょんなことからすれ違っていく。言わなくていいひと言を言うようになる。そのすれ違いは段々大きくなり、互いに互いのことを見えていないかのように生活するようになり、最終的に二人は離婚を決める。
たまたまトンネルの事故に巻き込まれて15年前にタイムトラベルしたカンナ(松たか子)は、駈と出会い、もう一度駈に恋をする。おしゃれをして、綺麗にメイクをして、「あなたと浮気してくるね」なんて遺影の駈に言い残し、15年前の駈に会いにいく。その姿がとても愛らしい。
タイムトラベルするうちに、自分が話した内容がその後の駈の人生に影響を与えることに気づいたカンナは駈が死んだ日の行動を選ばないように仕向けようとする。そうすれば駈は死なずに済むかもしれない。
だけど何度タイムトラベルしてもうまくいかない。行動を変えることができても、駈が死ぬ未来を変えることができない。そのうちに、駈が15年後に死ぬことを駈自身が知ってしまう。恋に落ちて結婚すること、仲が悪くなること、お互いに無関心になること、離婚すること、駅のホームから落下したベビーカーと赤ちゃんを助けるために自分が死んだこと。そして、駈が死ぬ未来を変えるために何十回もカンナが会いに来ていること。
何度未来を変えようとしても駈が死ぬ未来を変えられないと言うカンナに、今自分と会っている時点でおそらくその結果は変えられないだろうと言う駈。そして駈はその15年間を大切に生きようと決めた。
今度の15年間は別々のベッドで寝ることなく、別々の場所で朝ごはんを食べることも無くなった。クリスマスも大切に過ごした。結局駈が死ぬ未来は変えられなかったけど、15年間の日々は変えることができた。
*
カンナは結果を変えようとした。なぜなら駈を愛しているから。
駈は過程を変えようとした。なぜならカンナを愛しているから。
二人が二人なりのやり方で相手への愛を見せる姿がとても印象的だった。
私たちは映画のように人生をやり直すことができない。過去の自分に会いに行って「これをやれ」「あれをするな」とアドバイスすることができない。失ってから大切さに気づくなんて言うけど、失ってからではもう遅い。
ではどうすれば失う前に、大切な人に自分の愛を伝えることができるのか。それは結局のところ、少しの意識だと思う。
感情をコントロールするのは難しい。「怒ったら6秒待ってみて」なんて言うが6秒で怒りが消えるのならばこの世に怒りの感情はもっと少ないはずだ。おそらくこの6秒間で大切なことは「怒りを消すこと」ではなく「ちょっと立ち止まって目の前の人のことを考える」ことなのではないだろうか。
目の前の人との縁を大切にしたいのならば、伝え方を考えよう。それが難しいんだよ!と言いたくなる気持ちは分かる。怒りに任せて自分の言いたいこと、わざと傷つけるようなことを言ってやろうかと思わなかったといえば嘘になる。目の前にいる人との関係がどうなってもいいと思うのなら言ってしまえば良いが、少しでも大切にしたいと思うのなら、伝え方を工夫した方が良い。
少しの意識で、未来は良いようにも悪いようにも変えられる。ほんの少し、3年待ちの餃子を代引きにせず支払い済みにしておくくらいでいい。