アニメ映画「アイの歌声を聴かせて」感想
※ネタバレ度:少~中 詳細度:低
WOWOWで放送されていたものをなんとなく録画、視聴しました。
個人的には劇場公開時、存在を知らなかったのですが、結構高評価の作品だったようで、録画しても見ないまま溜めておくことが多かったものの暇を見つけて優先的に見ることにしました。
結論、総評としては、序盤は不安だったものの十分面白かったといった感じです。
第一印象、キャスティング、演技
本職声優を脇役に起用しつつ主演には本職俳優を起用する、近年オリジナルアニメ映画に多い折衷案的キャスティング。
この大人の事情感が、私を含む、立場を二次元オタク寄りに置いている者を少し不安にさせます。
しかし、主演声優の福原遥さんは元々声質が本職声優のようであり、幼少期に「クッキングアイドル アイ!マイ!まいん!」で実写出演兼アニメ声優をやっていた経験のおかげもあってか、本職声優と遜色のない声、演技に感じられました。
「あれ、主演にも本職声優混じってたっけ?」とキャスト確認し直したほどです。
土屋太鳳さん、工藤阿須加さんも素人にしては十分聞いていられる程度の演技でした。まあ、絶賛はできませんが。土屋さんの役の場合は特殊なキャラクターであることもあり、その少し拙い感じが逆にいい方に作用していると感じる人もいると思いますし、工藤さんの役もどちらかといえば陰気なタイプのキャラクターなので拙さも許容範囲内に納まるようにしている印象です。
そんなわけで、「本職声優が演じないんじゃ見てらんない…」と敬遠する人もそこまで毛嫌いしなくてもいいかもと思いました。
ストーリー、設定、世界観の印象
予備知識ほぼ0で見ましたが、舞台設定はAI技術が現代より少し進んで身の周りにありふれている世界で、とはいえドラえもんやアトムみたいなほどには進んでおらず、人間に都合良い程度の進化具合で、もう少しでシンギュラリティが起こるかもみたいな感じ。
というか、作中でシンギュラリティ(技術的特異点…科学技術が進歩しすぎて人間に制御できなくなること)が起こってしまってますが、よくあるAIの是非云々などを題材としたSF系作品とは違い、あまりその方面にシリアスかつシビアな話にはなりません。
どちらかといえばむしろシンギュラリティによってAIが人間を幸せにするのが基本みたいな方向性で、あくまで子供でも気楽に見られる(かも)という程度の作風、世界観を維持しつつ進みます。
最終的にはハッピーに終わるものの、よくよく考えたらシンギュラリティが起こってるので真面目に考えると簡単にはハッピーに終われない展開ですが、軽く飛び越えてます。
序盤、一応AIであることを隠して人間として転校してくるが本人には特に隠す気がない困った人間型(女子高生型)AIのシオン(CV土屋太鳳)が突然歌い出すことが多く、ミュージカル調になるシーンがいきなり多発します。
それを、母親がAI開発に携わっていて、シオンを開発したのも母親だと知ってしまっている作中の主人公というか狂言回し的立場のサトミ(CV福原遥)がシオンに振り回される構図を鑑賞者(視聴者)はなんとなく恥ずかしく感じながら見させられるものの、サトミとの感情のシンクロを生んでるんでしょうね。
正直、最初は大丈夫かなこの作品と思いながら見てたものの、割と早めに主要高校生キャラにはAIであることがバレて、思いの外、平和に話が動いていく内に世界観に慣れていきました。
良くも悪くも及第点の流れ、雰囲気を維持していくかと思ったら、終盤のシオンのキャラクター性の真実が分かる所で、意外性を突かれて、ここでもまた作中のサトミがそうであるように視聴する側も無邪気なAIロボットと思ってたシオンに対して愛情が芽生え、その後訪れる終盤のシリアスな展開にも緊迫感が加わりましたね。
それって大昔からシンギュラリティ起こってるってことやんみたいな感じで突っ込み出すとキリないんですが、そこらへんどうでもいいやって感じの世界観を作ってくれてるので個人的には大丈夫でした。
評価・総評
★★★★(5つ星)
83点(100点満点) 良作
個人的には名作一歩手前の良作という印象です。
見て損しない作品だと思いますが、見ないと損するというほどでもないかなと。
ただ近年のオリジナルアニメ映画では最高クラスの作品だと思います。序盤から退屈せずに、なおかつ安心して見られます。
余談
少し「夜明け告げるルーのうた」(湯浅政明監督)を思い出しました。
あれも確かWOWOWで初めて見た作品で、正直アイの歌声を聴かせてよりもとっつきにくいのですが、見終わると不思議と郷愁的な感覚に陥って、正直別に見ていて愛着を覚えていたつもりはないのに何故かキャラや作品の世界観が恋しく思えてくる作品でした。
私は夜明け告げるルーのうたの方が好きですが、アイの歌声を聴かせてを最初に見た人はアイ歌で初めてそういう感覚を覚えて、好きになるのかもしれないと思いました。
夜明け告げるルーのうたもアイの歌声のように本職声優と実写俳優・タレントを混ぜたキャスティングでしたが、両作品とも内容の評価は高く、受賞したり、高評価を受けたりしているものの、結局残念ながら知名度や観客動員数は低調になってしまっているんですよね。
声優に実写俳優・タレントを起用するのは普段アニメ映画を見ない一般層への訴求力を強化するためというのが大きいかと思うのですが、結局微妙な結果に終わってるので、起用した意味はあるんだろうかと思います。
アイの歌声も福原遥さんの声と演技は十分良かったですし、土屋太鳳さんの演技と歌も十分良いのですけど、じゃあ既存の本職声優では同じかそれ以上の魅力が出せないほど凄い演技だと絶賛したくなるほどかというと、全くそんなことはないので…。
正直私がもし劇場公開時に存在を知っていても、主演キャストに本職声優以外がいるのを見ただけで敬遠してた可能性がありますし、同じような人が他にもいるので、逆に実写系タレントを声優起用することで観客動員数減らしてる可能性もあるのではと思います。