なにげなく懐かしいかつての日常の街
「亀有」で触れた東京の日常
何の変哲もない日常からも遠く離れると、時にその日々が色鮮やかな一枚の絵ハガキの様によみがえって懐かしく感じることがある。私がよく行ったJRの「亀有駅」のその辺りはビジネスエリアではなく、いわゆる商業地域だった。サラリーマンの昼食需要が多いとも思えなかったが、昼の11時半を越えると、さすが一気に私がいる店もお客さんで一杯になった。お客さんの様子を見ていると、昼飲みの中年アベックたちが3割、昼食にやってくるサラリーマンがやはり3割、それにこの店がある商店街で働いている人や商店街のお客さんが2割ほど。意外なことに子供を連れた若いお母さんも1割ほどいて、私たちのようなおじさん、おばさんが1割といったところだ。客層が混ざっているのは、この店の性格とも関連していて、およそどんな昼食の需要にもこたえられる多様なメニューのラインアップがこの店の売りだった。
東京とは思えない充実の格安ランチの店
特に感心したのは、昼食のスペシャル・ランチが3種類あることだった。Aランチはお刺身、焼き魚か煮魚、ミニとんかつ、筑前煮などの煮物、漬物、それに大きな汁物が付いている。ただし汁物は一般の定食屋の椀より大きくて、豚汁が多かった。これで1,000円だった。Bランチは、サバやサンマ、ホッケの焼き魚か、あるいは赤魚、サバの煮魚がメインで、これに比較的大きな容器にたっぷり入った根菜をメインとした鉢物、さらにお刺身の端切れを集めて盛り合わせたお皿まで付いてくる。もちろん漬物や赤出汁もついてくる。これは800円だったと思う。この店が優しいのは、Cランチで、新鮮な揚げたてのアジのフライが2尾ついていた。これに小鉢の煮物、漬物、汁物がついて650円だった。これはスペシャル・ランチの話だが、食事ものではこれ以外にとんかつ定食やアジフライ定食など多様な定食が用意されていた。加えて昼飲みの客もいるので、季節にもよるが鍋物、うなぎ蒲焼、お刺身など、およそどんな客にも対応できる品揃えだった。口で説明すればそんなものだが、目にすれば一目瞭然でその充実度が分かった。
意外に今や「こち亀」と「キャプテン翼」が葛飾の思い出
私たちが東京にいたころから、物価高の東京でこの値段という感じで、この店の値段の安さは十分に認識していた。絶品というほどの上等な味ではなかったが、味も及第点を楽々クリアする水準で、京都に引っ越してからも、東京に用ができれば、いつかこの店に顔を出すつもりだった。ところがしばらく経って実際に東京に出向く用事ができたので、いさんで店によってみると、店のあった場所には新しいビルが建っていて、食堂のあった辺りには大きなエステの店が入っていた。
かつて店のあった場所は、JRの「亀有駅」から10分ほどのところにあった。私はその当時京成本線の「お花茶屋」という駅の近くに住んでいて、亀有にあった昼食の店には歩いて行けなくもないが、30分はかかったように記憶している。亀有は「両さん」というお巡りさんが主人公の「こち亀」という漫画の舞台で、「亀有駅」の駅前には登場人物をモデルにした原色の立体像が待ち構えていて、亀有の駅の周辺には漫画のキャラクターをモチーフにしたモニュメントがたくさん立てられていた。
また亀有からすぐの京成電鉄の「四ツ木駅」も、漫画「キャプテン翼」の聖地として知られているし、葛飾区は「モンチッチ」「リカちゃん人形」のゆかりの地でもあるらしい。それよりもっとビッグなキャラクターは映画「男はつらいよ」のフーテンの寅さんかもしれない。私が当時住んだことのある「荒川区」や「葛飾区」界隈は、本来は派手なランドマークなどなくて、どちらかというとひたすら地味な場所だと思い込んでいたが、「こち亀」「キャプテン翼」「モンチッチ」「リカちゃん人形」「フーテンの寅さん」など隠れたスターが少なくない。こうしたキャラクターの有効利用で、「葛飾区」と近隣の地域は、結構時代の先頭ランナーなのかもしれないと思うようになった。「葛飾区」は、今ではほとんど私とは縁のない町となったが、たまに町のことが思い出せるように、どんどん新しいキャラクターを生み出して、楽しめる話題を作って欲しいと思うものだ。