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「金目鯛」と「鯛」

関西ではあまり人気のない「金目鯛」

私は若い時から仕事で東京に行くことが多かった。またニ〇年近く東京に住んでいたことがある。だから「金目鯛」という魚の存在はよく知っているし、また私の好きな魚の一つでもある。ところで、「金目鯛」は東日本では高級魚として重宝されているが、西日本では北海道で獲れるキンキと同じようにあまり知られてない。たまに瀬戸内海や大阪湾、紀州近辺で「金目鯛」が捕獲されることがあって、地域によっては多少流通しているところもあるが、「雑魚」として比較的安価で販売されている。
「金目鯛」は深海魚で、この魚がよく獲れるので有名な港は、静岡県の下田漁港だそうだが、日本海ではほとんど獲れず、基本的には北日本の魚と言えるので、それが西日本では「金目鯛」があまり知られていない理由の一つかもしれない。

東日本の「金目鯛」か、西日本の「鯛」か

「金目鯛」のように、ある地域では超高級品だが、別の地域では全く評価されず安価な商品だという話はよく聞く。私のように生鮮食品の流通を知らない者が聞くと、「金目鯛」が高級魚とみなされていない漁港で獲れた場合でも、近くの市場でセリにかけず、東京に運んで豊洲市場でセリにかければ儲けになるのではと思う。しかし実際は輸送の費用やセリにかける漁獲量の問題で不都合があるのだろうと推察するのだが、もっと私たちが思いつかない理由があるのかも知れない。
京阪神地域の食通の人の中には、当然「金目鯛」の存在、美味しさ、価格も知っているはずで、やはりなぜ京阪神で人気がないのか不思議に思っている人もいるはずだ。私なりにそのことを考えてみるに、一つの可能性として魚の種類によっては、地域によっては大きく好みが別れるということがありうる。たとえば京阪神地域では、「真鯛」の消費量が東京の二倍もあるそうなので、同じ高級魚という選択肢の中で、京阪神地域では「真鯛」に軍配を挙げている人が多いとも考えられる。あるいは、地域の人々の総合的な味覚の違いによるものだという可能性もある。昔から関西人は金魚や熱帯魚の様な原色に近い魚を好まなくて、ヒラマサ、ハモ、ハマチ、フグなど、白っぽい魚を好む傾向があるので、真っ赤な「金目鯛」を敬遠するという説がある。さらには、もう一つの可能性として、東日本地域で「金目鯛」を嗜好する傾向が強く、流通が発達した今日でも首都圏で「金目鯛」が大量消費されて、関西圏や各地に回ってこないので、結果的に知名度が低いのだという可能性もある。

地域ごとの味覚の違いは、地域そのもの違い

地域によって好みの味覚が異なるのは、それはそれで自然なことだと思う。人には人の好みがあり、好みには文化、風土や産物など共通の背景があるので、そこから生まれてくる地域の味覚にも、当然独自性がある。地域ごとの味覚の違いは地域そのものの違いのようなもので、そこに優劣の関係はない。
ただ地域文化は、地域の歴史、文化、信仰などの在り方によって差異が生まれる。またその差異というのは、たとえば組み合わせ素材の多彩さ、シンプルさの違いだと思う。多様な素材を組み合わせた味を洗練された味覚と呼び、素材そのものの味を大切にした味を素朴と呼ぶといった、おそらくそうした差異かもしれない。地域で生産された、あるいは生まれる素材の組み合わせが料理とすれば、流通ネットワークがさらに広がれば、全国的に料理材料の組み合わせは多様化し、近未来にはかなり全国の味覚も平準化すると思う。グルメの評価基準も、やがて「素材の高級さ」から「味覚の創造性」へと変化し、「金目鯛」も「鯛」もやがて普通の素材になるような気もするのだ。






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