星を編む 著:凪良ゆう
いやぁ〜読んで良かった。愛の理(ことわり)って言うのは実に厳しいねぇ。自立する事、それが叶っていない自分が読むにはなかなか難しい物語だった。
春を翔ぶ
星を編む
波を渡る
の三部構成になっている。春を翔ぶでは北原先生の娘の秘話。どうしてこんなに善人な教師が居るんだろうと疑問だった先生が瀬戸内にやって来る前の秘話が書かれている。そうか、北原先生の両親はこんな人だったのか、どうして先生になったのか、どうして子供が居るのか、その辺りを知ると暁美を経済的に救った結婚も納得が行く物語になっている。
星を編むでは櫂と尚人君のアニメを再出版できるように奔走する植木と櫂が死ぬ間際に書いたこの世に一冊の小説『汝、星のごとく』を出版するのに奔走する二階堂が描かれる。出版社の編集者の仕事ぶりは敬意を表したい。と同時に激務である事、男と女とでの結婚の差異、仕事での差異、妊娠出産に関する現代の意識と古い意識、とにかく男と女ではこんなに違うのかと言うセンシティブな問題を提起する働く女性に是非読んでもらいたい内容になっている。植木としても家庭は大事だし仕事に精を出す。二階堂にしても理想的な夫と仕事とのバランスに苦悩する。二人の努力の結果、アニメは愛蔵版と完結編を出版し、『汝、星のごとく』は重版に文庫化と櫂は夭折の天才として後世に名を残す事になった。
波を渡るでは暁美と北原先生を凪良ゆうさんの前作『汝、星のごとく』のように人生の晩年までを描いている。北原先生は島の噂話では女生徒と子供を作り、また違う女生徒(暁美)と結婚した男と言う事になってるが内実は全然違う。暁美の方でもヤングケアラーとして苦しい使命を負わせた両親に対してその老後にこんな穏やかな時間が待っているとは思いもしなかっただろう。
最後に櫂に対して暁美の章でこう書かれてる一節がある。「愛する人を永遠に失うということは、心に一部の鍵のかかった部屋を作ることに似ている。」この一文に鳥肌が立った。こう言う金言がさりげなくポンポンと挟まれているのが凪良文学だと思う。どうしてそんなこと書けちゃうの?言えちゃうの?何、あんた天才?と度肝を抜かれるのだ。
最後はやっぱりしまなみの花火を見て終わりだった。いい物語を読んだ。そして私は人としての苦労の足りない自分の惨めさがあらわになった。大変厳しい一冊でした。それでも満足なスピンオフ作品だった事に間違いはありません。
以上
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