銃 著:中村文則
行間に詰まった激しい衝動が、一文一文スリルを増して行く素晴らしい作品だった。
どうして銃を読む気になったのか、それは又吉直樹さんの東京百景を何度も読み返していたからだ。そして、又吉さんは処女作であるこの『銃』と言う小説から全てを読んでいる中村文則loverなのだと東京百景に書いてある。蒲田で行われた文学フリマでサインを貰う際に並ぶ小話が東京百景にあるのだ。
作家の作品にとってタイトルとは大事なものだ。中村文則作品では『あなたが消えた夜に』を読んで、新聞連載のミステリーだったのと登場人物の多さに頭が付いて行かなかったと以前書評で書いた。
そして、処女作の『銃』が気になったのだ。銃社会アメリカ、在日中国人による銃の所持、警官は持っている銃、そう人を殺す為に作られた鋭利でシンプルな機械、それが銃だ。無くなって欲しいと望んだって無くならない。火縄銃だった頃まで文明を遡れば、逆に刀によるお侍さんの時代になってしまう。
銃器を扱ってた会社が洋裁の発展に貢献したJUKIと言うミシンを開発した会社だ。私の理想では包丁も針も無い世界が欲しいのだ。綺麗に正確にカッターや鋏でなく生地を切れて、縫製も指を縫う確率が0%になって欲しい。バンドナイフと言って、固く縫われ、厚みを増したベルトループを切る刃はとても恐い機械なのだ。より安全なクラフトを目指して機械の方が発展しないかと仕事依頼のページにも載せている構想があるのだ。
話しが逸れたが銃の話だ。包丁が無ければ料理はできない。しかし、それで人を刺せば殺せる。母と台所で二人で料理する時、余程の信頼関係が無ければ安心して料理を一緒にすると言う事もできないなといつも思うのだが、銃は包丁や鋏、ナイフと違って、人、或いは動物を射撃する為に作られてある。銃と弾の数だけ、死ぬ人間が居ると断言できる程、その為だけに作られた精巧な構造をしている。
ある日、橋の下で遺体を見つけ、銃を握っていたのを持ち帰った大学生が居た。それが主人公だ。銃を愛し、銃を見つけてから心の調子がよくなったと書いてある。がしかし…と言う作品だ。
友達の名前も主人公の名前もあとがきに書いてあったヤマネさんも全部特定できない。難しい文章だった。覚えてるのはゆっくりとしっかり愛そうと主人公が決めた女性の名前、ヨシカワユウコだけだ。主人公が父親と会ってトオルと呼ばれた事と話の中で苗字を呼ばれる場面があったが結局のところ誰なんだと頭には残らなかった。
そんな事より、銃を所持して歩くと言う秘密な緊張感と女性との大学時代の典型的な他愛も無い逢瀬、それを餌にされた読者はどうなるどうなると釣り糸で引き上げられる魚のように物語のラストに絶句してしまうだろう。私は、これでお終いなのかとやはり驚いた。そして『火』と言う読み易い短編も収録されている。こちらは女性が主人公の犯罪と悪と人間のどうしようもなさと不幸を描いてる似たテイストの小話だ。
私もやっと40才になって自分がいつかは死んで行く存在だと言う事、それから人が人を殺しかねない場面など現実に多々存在すると言う事、頭の中で人が人を呪い殺そうとする事、殺意に対して客観的に理性的に捉えるようになった。殺意とは誰でも抱き得る根源的な感情だと自覚できるようになって来た。だから怒りや言動に対しても慎重にならざるをえない年頃だ。そんな中にあって、この『銃』と言う作品はやはり啓蒙的で象徴的で考えさせられる大事な名作である。
とにかく頭を良く使わせられた。それが内包してる作者の思想の深さだとも言えると思う。だから行間に滲み出る想像を喚起させる文章になるのだと思うのだ。次はきっと『何もかも憂鬱な夜に』と『教団X』に挑戦するだろう。
以上
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