東京タワー 著:江國香織
江國香織さん、山本文緒さんと同じく凪良ゆうさんが尊敬してやまない作家さんだ。この本も凪良ゆうさんが『あの本読みました?』で紹介してた本だ。冷静と情熱のあいだ以来に読む事になった。
私の作家の判断基準で最も基準になる文藝賞が二つある。直木賞受賞作家であるかと島清恋愛文学賞受賞作家であるかの二つだ。両方獲っていて愛読した作家は山本文緒さんと石田衣良さんだ。そして今回の江國香織さんもこの二つの賞の受賞者である。
直木賞作家でいて、恋愛を書ける作家さんの恋愛小説が好きなのだ。この東京タワーはドストライクな作品だった。主人公は透と耕二に詩史と喜美子だ。透と耕二は高校の同級生。お互い年上の女性と付き合っているのが詩史と喜美子なのだ。
若い頃、年上の女性によく憧れたのを自分でも思い出す。もちろん、私の場合は年上女性と付き合うだとか不倫だとかまでした経験は一切無いのだがその充足感を丁寧にセリフは二人の関係を明確にするために一語一句違う言葉ではいけないようなセリフが語られて行くのだった。
私にはわからないよ。恋の経験とやらが浅過ぎるから。でも江國さんだって男の主人公の事はわからないはずだ。女性だし、アンケートを基にして書いたって書いてあるから。でもその情事と恋愛は濃密で恋をするってこういう事かと言う秘密めいた導きが丁寧に書かれていて、私もそう、人って恋するとこうなっちゃうんだよなと納得させられてしまう。
耕二の恋愛は肉欲的で刹那的な現代風な恋と別れなのだが透の恋は自分の全てを満たす詩史との関係はラストまで語られなかった。しかし、透の心と詩史の描写には絶対に読者が大切だった人とのイメージを重ね合わせてしまう事でしょう。私はそうでした。母の友人だった詩史に恋した高校生だった透が詩史に近づいて大人になるまでを詩史の好きな音楽や本を軽快に挟ませて描いている。結局どうなったのかはわからないで終わるのだが、ラスト間際にそう来たかと言う事の顛末は書いてある。あらまと想像の斜め上を行く展開はネタバレしない方が良いだろう。
東京タワーは要所要所の描写に少し描かれているだけだ。でも書き出しはこうだ。世の中でいちばんかなしい景色は雨に濡れた東京タワーだ。から始まる透の語りは印象的だった。江國香織さんの事を少し調べてみたら小さい頃は雨が好きで妹と母と雨の日は雨を眺めて過ごしたんだとか。香織さんの父は江國滋さんと言う俳人で色川武大がよく遊びに来ていたそうだ。喫煙者でチョコレートが大好きなのだそう。雨が好きって事以外は意外と気が合いそうだななんて勝手に思ってしまいました。
以上