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夏の裁断 著:島本理生
これは書評を書くのが難しい。この本も芥川賞にノミネートされた作品だった。意外と近著だ。芙蓉社の柴田と言う男に翻弄される主人公の内面を描いた作品。主人公は萱野千紘と言う作家さんだ。臨床心理士になりたかったが、多くの人に影響を与えたいと言う理由で作家になった。
大学で心理学を専攻してたので教授に会って相談するのだが、千紘は人の分析は大丈夫なのだが、自分の分析になるとからっきし駄目だった。教授に言われた通り、その男との事は何にもならないよと助言を受け、その通りになった。
時間軸がぶつ切りにされて、回顧録のように語られる柴田との話に、現在軸では、祖父の死後、残された本を背表紙を裁断して、ページをパソコンに取り込むと言う作業を母から仰せ使い、その作業を夏中にするのだった。祖父は学者肌で一万冊の蔵書があり、高い物は売ろう、そうじゃない本は裁断機にかけてデータで残そうと言う事だった。
少女時代に磯野さんと言う母のお店の上客に狙われ、性体験を初めてした千紘はその時の不快感を柴田との逢瀬に重ねる。柴田は酔って千紘に近づくが、決定的な事はしないのだ。だからこそ、千紘は柴田の存在で自分は何なのかと要らぬ悩みの種をほじくり回して、心身ともに駄目になって行くのだった。
その悩みから解放された時に、エンディングを迎えた。125ページの短い物語だった。
読解できた範囲で説明するとこうなるのだが、果たしてこれで書評を書いた事になるのか甚だ疑問だ。性描写も身体と身体が引っ付いてるような描写ではなくてその時に男が言った言葉だとか、自分がどんなふうに扱われたと言う事実の方が千紘には深く根付いている。だから、千紘がどこで誰と何回やって、心に傷を負ってるのか、その辺りが不明瞭なのだ。女性の性はどこまでも、身体ではなく心に繋がっている事がこの著作で一番印象深い点だった。
以上
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