Picturesque
ボーラーハットの少女が言う。
「幸せそう。だからからっぽなのね。それとも、初めから?」
彼女は微笑んでいるようにも、軽蔑しているようにも見えた。
「もう絞り出さなきゃ悩みもない。満腹と、幸福と、休息の、中毒。こんなの見かけ上の充足と、ふかふかのソファにぐったりと身体を沈めて涙と涎を垂れ流しながら、どの口が言うの?」
言えるわけがない。何もないなんて。何かあってほしいと願うこともやめたって。
「わいわいと楽しそうな人の群れに引き寄せられて、一緒に泳いだ気になって、すべては自身の意思で選択したなんて、目についたツイートを切り貼りした言葉で通りすがりの他人に鼻息荒く訴えるのは、見苦しいというより痛ましいわ」
人権を剥奪された都合のいい聞き役と全肯定のみを要求された匿名の聴衆に囲まれた舞台でたった一人スポットライトを浴びる、そんな妄想に辟易した。
「どうするの?」
無垢な瞳の少女の、死刑宣告。
「これからの人生とこれまでの人生を地続きでなくする見えない刃は、断頭台に繋がれたあなたの頚椎に既に触れている」
この目も、手も、舌も、足も、肺も、心臓も血液も、感受性だって、必要ない。
「だったら、いっそ、息をしないだけで」
どうしてだろう薄っぺらく欠けた小石にマジックペンで『ふざけんな』って書いてひと思いに嚥下して。
「超えていける」
踏みとどまれ。
「とんだ茶番」
でも、まだ幕は上げたまま。
「いつまで?」
この自動人形の曲が終わるまで。
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