うちはしまいこ
息子の母校の野球部応援からNPB、さらに、大谷翔平選手を中心とするMLB日本人選手たちの活躍を祈る想いを、エッセイにしたためます。
スポーツライターに憧れた20代。いくつになっても夢に挑戦していたい。大好きなスポーツライティングをライフワークに育てるべく、様々なシーンに感じたストーリーをマイペースに書き綴ります。
シロクマ文芸部に参加させていただいたエッセイ集のおまとめマガジンです
引っ越しの荷造りのため、段ボールに収めようとアルバムに手を伸ばす。 ちょっと休憩をするのに、ぴったりの代物だ。 一息つこうと表紙をめくったが最後、懐かしい写真に見入ってしまい、作業が進まなくなってしまった。 だれしも、一度や二度、そんな経験があるだろう。 そんな「あるある」を引っ越しではなく、実は「読書」で味わった。 その書籍を購入したのは、春4月のこと。 ようやっと読了にたどり着いた頃、季節はすでに秋も深まった10月終わりになっていた。 その書籍のタイトルは 「
「野球界は、みんなキリのいい数字が好きだから」 誰のセリフだったか全く記憶にないのだけれど、確かに今シーズンの大谷翔平観戦は、いつもの、いやいつも以上のすご過ぎる活躍っぷりに加え、“キリのいい数字”を追いかけ回した162ゲームだった。 待って待って待ち続け、ようやく9試合・41打席目に飛び出た第「1」号ホームランにはじまり、日米通算「1000」本安打を通過。その後も、メジャー通算「100」盗塁に「200」号ホームラン、「800」安打と続き、今シーズンの「30」号を放った翌
「お膳立てはしておいた。自分を信じて決めてみろ。」 その夜、野球の神様はサプライズを用意していた。 8月24日(現地時間)ドジャースタジアムでの対レイズ戦。 この夜、大谷翔平は4回裏に40個目の盗塁を決めた。ホームランが出れば、MLB史上6人目となる「40本塁打40盗塁」の、過去最速の達成者になる。 その1本への期待が最高潮に達した5打席目が回ってきたのは、9回裏。2死満塁、しかも3対3の同点。まるで脚本が用意されていたかのような、ドラマチックな展開のバッターボックスに
夏の雲が立ち上る8月の真っ青な空の下、仕事で煮詰まった頭を冷やそうと、あてもなく愛車を走らせていた時だった。 iPhoneをつないだカーステレオから、やさしく、どこか懐かしいオルガンの音色に続いて、聞き覚えのある声が流れてきた。 君をまだ好きなまま 帰らぬ旅へ征かなきゃ…… 福山雅治の「想望」だった。 2023年12月8日、戦争をテーマにした映画の主題歌として発表されるや否や、「オリコン週間デジタルランキング」で初登場1位を獲得した人気のバラードだ。
どうしたら、ボールがコートに落ちるのか――。 それは、リベロ・山本智大のレセプション(サーブレシーブ)から始まった。 アウトサイドヒッター・冨田将馬が放ったスパイクが拾われ、スロベニアのバックアタックがライトから襲いかかってきた。ブロックでワンタッチを取り、かろうじてつなぎながら相手コートに返したボールを、今度はミドルブロッカーがクイックで攻めてくる。 レフト、センター、バックライトと、次々に仕掛けられるスロベニアからの攻撃を、拾っては返し、返しては拾い、ボールがネット
京都・都大路の42.195キロを、7人の走者でつなぐ全国高校男子駅伝。47出場校の多くを私立の常連校が占める傾向にある中、公立校が激戦を繰り広げる地方大会も少なくない。駅伝王国・兵庫県もその一つだ。 その兵庫県に、市民から「コウギョウ」の愛称で親しまれる小さな県立高校がある。強豪校がひしめく県内で、全国大会出場33回、全国制覇8回を誇る駅伝の伝統校だ。 人口3万8千人足らずの静かな田舎町は、少子高齢化が進み、小中学校の統廃合がまもなく始まる。地場産業の景気も下降の一途を
5月某日。 実に、12年ぶりに行ってきました。 彼のライブへ! デビュー35周年を迎える、福山雅治。 最近、ファンクラブメンバーといえども、ライブのチケットを手に入れるのは、かなりの競争率の高さ。 特に神戸公演は、ホールの規模がさほど大きくないため、毎回「激戦区」になる会場のひとつです。 半ば、あきらめモードで申し込みましたが、ラッキーなことに、参加の「お許し」をいただけました! 思うように育てきれない起業後の事業。 子どもの進学、母の看護に介護、告別式に1周忌、原
■525日の苦闘を刻んだ銅メダル 主審の左手が上がった。 それを見届け畳の中央へ戻った藤原崇太郎は、静かに一礼をした。深々と下げた頭を上げた表情は、勝利を収めた選手とは思えないほど淡々としている。畳を下り、素早く会場を後にする足取りに喜びの気配はなく、その背中はどこか怒りさえ秘めているように見えた。 2024年5月11日。柔道グランドスラム・カザフスタン2024男子81kg級。ケガのため遠ざかっていた世界戦の畳に、藤原は戻ってきた。一回戦から順当に勝ち上がり準決勝に挑
「すみません。今日発売の雑誌は、まだ棚に並んでいませんか?」 指折り数えて待っていた雑誌の発売日。 朝一番に、地元の書店が開くのを待って駆け込んだ。いつもはインターネットで予約をするのだが、久しぶりに店頭で買おうと思ったのだ。 どんどん消えていくまちの書店を、たとえわずかでも応援したいという気持ちだった。 ところが、いくら探してもお目当ての雑誌が見当たらない。 レジへ行き、店員さんに尋ねてみると、想定外の返事が返ってきた。 「あ~、一日遅れるから明日ですね」 遅れる?
真っ白なシャツに黒いインクが一滴、ポトリと落ちた。 小さな小さなそのシミは、少しずつ少しずつ広がっていった。 インクの濃度を、誰にも気づかれないほどの淡さに変えながら、静かに、ゆっくりとしたスピードで――。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 白かったはずのシャツが、人知れず淡いグレーに染められ始めていたことを知らされたのは、あまりにも突然のことだった。 彼が受けた衝撃の大きさは、想像するにあまりある。 心血を注いで闘い続けた6年間の努力の結晶は、すべてど
「過去は未来で変えられる」 映画の中の好きなセリフだ。 後悔でしかなかった私自身の過去は、確かに、未来が変えてくれたのだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 今シーズンも、いよいよプロ野球界に“春”がやってきた。 新たに入団した若い選手たちが、どんな活躍を見せてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。 プロスポーツの世界において、第一線で活躍を続けるのは並大抵のことではない。毎年、たくさんの若い選手が入団する一方で、ひっそりと現役を引退し、フィールドを離れて舞台裏に活
「梅の花、うちの木にも咲いてるよ」 何年前のことだったか。 ある日の朝、仕事に向かう準備をしながら 「事務所の近所の公園では、もう咲き始めてたよ」と 梅の開花状況を報告する私に、母が半ばあきれて 返事を返してきたことがあった。 「え!?」と縁側まで走ってカーテンを開け、 ガラス障子越しに庭をのぞいてみると 確かに前栽の梅の木が、淡いピンクの小さな花を あちらこちらにつけている。 「うわぁ、玄関を開けたら目の前が梅の木なのに。 全然気づいてなかった」 どれだけ視野が狭
冬の色は、私にとって、雪や風、空、木々や花といった 景色を指すものではない。 今日、12月10日(現地時間12月9日)は 私の中に、新たな「冬の色」が加わった一日になった。 自分のための記録として、書き記しておこうと思う。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「野球の神様って、本当にいるんだ」 栗山前WBC監督の「翔平が自分で決めたことは、 野球の神様が応援してくれる」という言葉に 胸が震えたのは、11月の半ばだったか。 それからおよそ1カ月。
「いつもありがと」 7文字の親孝行だった。 #小牧幸助文学賞 #シロクマ文芸部
「紅葉鳥(もみじどり)って知ってる?」 リビングで、やや小さめのクロッキー帳に 覆いかぶさるように背中を丸め、 もくもくと鉛筆を動かしている息子に尋ねてみた。 「何、それ?」 そうだよね、やっぱり知らないよね。 「鹿のことらしいよ。紅葉の季節に鳴く声が、 ちょっと寂しそうできれいなだからって、 鳥に例えてつけられた異称なんだって」 日本らしいなぁと、話し相手になってくれながら やっぱりクロッキー帳に向かい、鉛筆を動かし続けている。 そーっとのぞいてみると、細い細い
珈琲との付き合いは結構長く、そして深い。 口にした最初の記憶は、おそらく5才くらい。 インスタントコーヒーに、砂糖と牛乳をたっぷり入れたミルク珈琲だ。 バターを塗ったトーストのかけらをそっと珈琲に浸し、 おやつを楽しむように、朝ごはんとして食べていたことを ほんのりと憶えている。 朝食はずっとパンだったこともあり、朝は必ず珈琲からはじまっていた。 ミルクと砂糖が入った白い珈琲が、いつしかブラック珈琲に 変わったけれど、試験勉強のお供も、受験勉強の眠気覚ましも、珈琲。 社