傷は在る。異論は認めない。
「私、虐待なんかされてないもん」
友達からのLINEにこう言い放ったのは、当時中学生だった一人の少女。
しかし、彼女が両親から受けた仕打ちは、どう見ても虐待としか言いようのないものでした。
我が家では、両親を怒らせた場合、私や2歳年下の妹が殴られることや蹴られることが日常的にあった。
返却された宿題を見て、母が大激怒した。
「そういうのは書いちゃダメなの!ディズニーストア連れてったこととかそういうの書きなさい!」
この日から、日記系の宿題や友人との交換ノートの文章にはかなり気を遣うようになった。母による検閲も、よく行われるようになった。
引用に余るほどの仕打ちを両親から受けた彼女は、学校でもいじめられ、不登校に。
精神科で入院し、ようやくできたネット友達に言い放ったのが、先の言葉です。
「私、虐待なんかされてないもん」
当時の私は両親の教育方針に何の疑いも持っていなかった。「あなたのためだから」という言葉を全身全霊で信じていた。私は私の家庭でしか育っていないし、私の家庭の教育法は一般的なものだと思っていた。
虐待なんかされていない。私がダメな娘だからしつけられているだけ。家事を放置された経験はほぼないし、性的な発言はされても行動はほぼない。
何より、私も妹も殺されていない。両親は私や妹を愛していると言っている。それなのに、どこが虐待なんだろう。
ここに、虐待の本当の恐ろしさが見えました。
虐待は「その場で傷む」だけでは済みません。
子どもにとって最初の人間関係を歪め、子どもの価値観を、自我を、未来をも傷つけてしまうのです。
「俺は親に殴られたことはない」「食器を割られたこともない」「子どもにもプライバシーがある」
「何よりも、いなが精神病院に入院するまで自分を追い詰めてしまうことが、一番の証拠」
友達にこう言われて初めて彼女は、自分の家庭環境の歪さを知り、自分の痛みを肯定することができたのです。
虐待に限らず、親から受けた傷の重大さは、しばし否定されます。
どうあがいても虐待とまでは言えない傷なら、なおさらのことです。
私が、その一例です。
私が母から受けたのは「虐待」ではありません。
しかし、私は確かに傷つきました。
1年前の、昨日。
「家に帰りたくない」
私は、大勢の人の前で泣きました。
その前日、私は母が決めた門限を破りました。
10時半。
千葉県から都内に通う成人済みの大学生には、早すぎる門限でした。
ここ数ヶ月、帰りが遅いから。
門限は、たったそれだけの理由で、話し合いもなく決められました。
翌日、母がその罰にキャッシュカードを取り上げました。
私はもう、耐えられませんでした。
私は、泣きながら家を飛び出しました。
そして、夜の10時を回ったバーで、饗宴の音に紛れるように泣いたのです。
元来、私は夜の外出は苦手です。
ならば、なぜ夜遅くまで外出する生活を続けていたのでしょう?
母のもとに、帰りたくなかった。
母の存在から、解放されたかった。
それに他なりません。
なのに。
なのに。
親からの傷を否定するような発言が、後を絶えません。
いわゆる虐待親・毒親の大半に、親から同様の仕打ちを受けた経験があるのは、確かです。
先の少女・いなの親も、私の母も、そうです。
もちろん、親だって傷ついてないわけではないでしょう。
そんな親の経済力が、私たちを生かしてきたのも間違いありません。
自分の行動の責任を、全て親に押し付けるのも言語道断でしょう。
しかし、それらのことは、傷を消しはしません。
その傷は、私たちを殺せます。
その傷は、私たちを一生、再起不能にできます。
それほど、大きく、深いものなのです。
私はまだ、幸いな方です。
寮のある大学を再受験して合格、実家を離れる確約が取れました。
ただ、その背景には、数々の僥倖がありました。
実家の経済力・学力・信頼できるカウンセラー医者その他の方々の存在、母側の、ほんの少しだけの対話の余地。
どれか一つでも欠けていたら、成し遂げられなかったと思います。
そして、これらを持ち合わせている被害者は、ごく稀です。
私やいなが抱えている発達障害も、自立への大きな足かせです。
事実、今のいなには、親元を離れるのは難しいようです。
それでも、私の発達障害や精神疾患、家庭の金銭的事情などから、私も妹も、実家で暮らしている。
しかしそれでも、いなは、絶望の底から這いあがる決心をしました。
いなに限らず「親の禍」被害者は、致命的な傷を抱えながらも、他者や次の世代を傷つけないために何かしら行動している人が大半です。
だからもう、これ以上、私たちを傷つけないでください。
私たちに何もできないなら、せめて黙っててください。
最後に、いなへ。
勇気ある告発と決心を、ありがとう。
誰より、何より、いな自身を大切に、ね。
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