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Photo by
poconen
利用者 「R」
KITO
青空を向いていた。……たぶん。
「どっか行きたいな。」
紗栄子のホッソリした声だった。その『どっか』が場所に聞こえなかった。違う空間には聞こえたが、違うどこかの場所には聞こえなかった。平面の地図上の話じゃなくって、その紙をはがしたミリ以下の地下に感じた。
「結局、息ができないんでしょ?」
紗栄子の研ぎ澄ました声だった。
「よく知っているね。」
シナリオは完璧でなければならない筈だ。そんな思いがなぜかなんとなく広がった。
硬質の西武デパートが見つめている。固定された方角の万物を。僕も紗栄子もその範疇に捕まっていて、気だるい絶望感に内部被曝したスタイリッシュな外観を神とは違う方法と趣旨で凍らせられようとしていた。
キスが痛かった。
紗栄子は途中僕の下唇を牙歯で噛んだ。それで長いキスの途中から僕はずっと鉄の味覚を舌に感じ続けた。だが、それは紗栄子も同じはずだ。痛みはなくても同じ味を味わっていたはずだ。
「マジ痛いんだけど。」
(つづく)