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事業責任者1年目の失敗と教訓

「うわぁ、事業責任者になった!」
初めて事業責任者に抜擢されたのは、新卒で入社した総合商社を2か月で辞めて当時80人のベンチャーに入り、そこから4年目。全社員は全部で300名弱くらいになっていたと思いますが、僕が事業責任者を務めることになったのは社内で最も大きな事業で、恐らく当時営業や開発全員含めて70~80名程度で、入社当時の規模くらい。わざわざ大企業を辞めてベンチャーに来てガンガン働くぞって頑張っていたら最高の機会を得られたので、まあ誇らしいというか、天狗でした。
ただ、正直僕の事業責任者1年目は、目も当てられないような大ゴケでした。

数々の失敗や経験から得た、事業責任者としての結果を出すうえで大事なこと

大ゴケには色々な要因があり、一生分と言えるくらいの様々な学びがあったのですが、今回はその中からぱっと思いつく「これは事業責任者として重要」と言えるものをいくつかお話できたらと思います。

戦略・方針策定に血肉を注ぐ

「戦略・方針が重要なんて当たり前でしょ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ここで重要なのは血肉を注いだかです。具体的に言うと、徹底的に最小粒度まで細かく1人1人の顧客の声と向き合ったり、競合1社1社の強みや弱みを理解したか、それに沿って自社の商品や組織はどこで同質化しどこで差別化するのか、それらを進めていくうえでどんな指標を追いどんなマイルストンでそれらを進めていくのか・・・
僕が事業責任者になって1年目につくった戦略・方針は、要するに荒かったんです。3年間その事業でプレイヤーとしてもマネージャーとしてもやってきていて、4年目で事業責任者になったので、もちろん業界にもある程度は詳しく、「それっぽい」方向性みたいなものは(一般的な戦略フレームワークも駆使しながら)示せます。ただ、「真っ先に倒す競合はどこなの?」とか「その競合の強みや弱みは機能レベルで洗い出せているの?なぜこの商品で勝てるの?」とか「この戦略を実現するために必要な組織体制は?どんな人がどれくらいいてどんな役割を果たすと実現できるの?」などと聞かれると、「いや、さすがにそこまでは・・・」となっていました。が、そこまでできないとダメということです。
よく「戦略(=方向性)と戦術(=実行プラン)を分けて考えよう」とおっしゃる方もいますが、個人的にはそれは違うと思っていて、著書「良い戦略悪い戦略」でも「具体的な実行を伴わない戦略は戦略ではない」と書かれています。ざっくりと方針を決めたところで、超絶具体的で細かな実行プランがないと何もうまくいかないし、うまくいっても失敗しても何起因でそれが起こったのかの振り返りも荒くなります。それを痛感したのが僕の事業責任者1年目でした。めちゃくちゃ良い経験。
上記課題を認識してからは、たくさんの本を読んで勉強しましたし、幹部メンバーと朝まで議論して細かいところまで突き詰めて計画をつくりましたし、ちょうどそのころものすごく優秀で細かな実行プランまで突き詰めて考えられる新卒2年目の子がいたので、彼を副事業責任者にして一緒に戦略を組み立てたりと、もはや手段を問わず一般的な働き方とか組織論などの枠組みは度外視して、とにかく血肉を注いで戦略・方針を作りました。結果として出来上がったものはとてもうまくいき、それまで110%程度でしか成長できていなかった事業が年間成長率140%を2年連続で実現することができました。
サイバーエージェントの藤田さんが大昔に書いたブログも一度見て結構耳が痛かったことがあるので、こちらにシェア:

優秀でバラバラな組織よりも、多少デコボコがあっても一体感のある組織

一見、「優秀な人は多ければ多いほど組織は強くなる」と思われがちで、だから我々は優秀な人を採用したり抜擢したりします。ただ、各機能別組織において優秀な人材が揃っていても、その人達を束ねる事業責任者がよほど人格的に成熟していないと、プライドや主張がぶつかり、組織間の溝が生まれる可能性があります。
著書:「V字回復の経営」でも「商品戦略と営業戦略が一致していない」という状況が描かれています。要は開発が作ったものを営業が売らず開発が怒る、営業は開発に対してなぜ売れないものを作るのかと怒る、というような対立構造です。こんなの最初から正解は誰も見えていることなんてほぼないので、一緒に方針を議論して決めて、やってみてダメだったら一緒に振り返れば良いのですが、どちらか、あるいはいずれもの組織にその動きを阻害するプライドや子供っぽさがあり、得てして「個々人は優秀でも伸びない事業」が生まれます。僕の事業も漏れなく同じ状況に陥っていました。事業や商品の方針を、どうしても営業側がくみ取ってくれず、あるいは僕たちがどうしても説得し切れず、それぞれの組織が相互に嫌悪感を持ち、もちろん事業も伸びないという状況が続きました。
ではどうしたのかというと、シンプルに言うと当時の営業トップに異動してもらいました笑 そうしたら、結論としてびっくりするほど事業が伸びたんです。
営業組織のトップに後任として就いたやつは、当初個人としてのスキルだと前任者よりも高いとは言えなかったでしょう。ただ、僕たち戦略・方針を考える人間の意図を全面的にくみ取ってくれつつ、疑問があれば真摯に向き合ってそれをぶつけてくれるし、とはいえそれをやらない理由にするよりも一緒に解決しようとしてくれる素晴らしいスタンスを持ったやつでした。戦略策定で朝まで議論した時にも、彼はいてくれました。そこから組織は方針を一緒に議論して決めたら「まずは全力でやってみよう!」と前進し、失敗してもみんなで振り返って軌道修正をする、まさに組織全体としてPDCAの「CとA」を爆速で回せるようになりました。これも、上述した「2年連続140%成長」をけん引した決定的なファクターです。戦略や方針も、いくら血肉を注いでも、どこか細かいところはリサーチ不足なのか検討不足なのかでほころびが出ます。だからこそPDCAを回すのですが、組織に一体感がないとそれをトップだけ回しても現場がついてこず、実態として「CとA」が回りません。だからこそ、結節点となる各機能別組織のトップは、個としてのレベルの高さよりも組織としての一体感を加速させてくれる人が重要なのです。
「10人の結束したチームは、100人のばらばらな集団に勝る」という言葉があります。これは「人数規模(量)よりも一体感が重要」という意味ですが、これに加えて「個としての優秀さ(質)よりも一体感が重要」というのも自身の経験則で、僕が思うことです。

自身が誰よりも成長し続けられるか?

上記の「一体感」のお話は、自分の中でも1つの成功体験になりました。ただ同時に、「自分がもっと優秀で、対立構造も何とか明確な正解を出すことで解消できていれば、優秀かつ一体感のある組織をつくれていたかもしれない」という自身のふがいなさを感じるきっかけにもなりました。要は、自身の器に収まらなかったから、器に収まる組織で闘ったということです。
基本的に自身が責任者を務める組織は、責任者の能力や器以上には強くはなりません。例えば、責任者よりも優秀なメンバーがいるとして、そのメンバーが主張したことや起案したことを、責任者が(能力不足で)うまく理解できなければ、その優秀なメンバーは「伝わらないのか」と萎えて辞めるか、「ここまでのレベルのアウトプットを出さなくてもいいか」と基準を下げてしまいます。当時対立構造を生んでいた営業責任者も、僕が言ったことに納得ができなかったからそういうスタンスを続けていたのであり、僕の能力不足だったということです。
だからこそ、事業責任者は、いくら過去に成功しようがそれらを全てリセットし、成長し続けなければいけません。優秀な人の言葉を理解し、理解してもらい、組織の基準を下げず、組織と事業が成長し続けるために、事業責任者が誰よりも成長を続けないといけません。僕はお調子者なので、全社で表彰を受けたり事業が大きく成長したりすると、すぐに調子に乗って学習の手を緩めることもありました。ただ、それを止めてくれたのは上述した当時新卒2年目の優秀なやつです。急に彼が台頭してきたときに、正直僕は彼の優秀さに少し焦りました。でも、事業が伸びるために彼が必要だったこともそうですが、何より「自分よりも優秀になりうるやつの活躍を、素直に受け止められないような人間にはなりたくない」と思い、全力で負けないように勉強しました。そのうち彼とは「この本読んだ?」と学習成果をシェアし合うような関係性にもなり、また僕も僕で自身が成長し続けられている実感があったからこそ、彼がどんどん成長して活躍している姿を本気で喜べるようになりました。マネジメントとして成長し続けることには、自身の成長ももちろんですが、大事なメンバーの成長も全力で喜べるようになるという効用があります。これも、僕が見つけた大切な考え方です。

事業責任者への近道はない

事業責任者という仕事は「まずは営業をやって成長してから事業責任者へ」などという順番で成長していくというよりは、「事業責任者を始めたときからやっと事業責任者としての成長が始まる」という性質のものです。上述した著書:「V字回復の経営」の著者であり「プロ経営者」と呼ばれる三枝さんも「経営は1つの切り離された職種であり、営業などその他職種の延長線上にはない」と言っています。それくらい他の職種とは全く異なる要件を求められると思った方が良いです。「追加要件」ではなく「全く別の要件」です。
なので、事業責任者なり経営経験は、早く始めれば始めるほど習熟度も上がりますしその分早く経営人材になれるんだと思います。
今回のnoteで列挙したような学びを新卒4年目の年齢で得られたことは一生分のかけがえのない財産ですし、それが最高の今につながっているので、是非早く濃い事業責任者としてのキャリアを求めて頂きつつ、たまに今回のnoteの内容を活かしていただけるのであれば、こんなに喜ばしいことはありません。

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