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【開催報告】ボードフェロープログラム・ギャザリング2024
2024年4月某日。
私たち一般社団法人World in Youが、2021年から3年にわたって実施してきたボードフェロープログラム(Board Fellow Program)参加者が集うギャザリングが開催されました。
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ボードフェロープログラム(Board Fellow Program)とは、ビジネスリーダーと非営利組織の経営陣が、社会課題解決事業の経営について本質的な議論・協働を通じて、社会にインパクトをもたらすリーダーシップを磨く、約6か月間の実践・体験型プログラムです。
2021年度に第1期、2022年度に第2期、2023年度に第3期と、期を重ねるごとにブラッシュアップされてきたボードフェロープログラム。本プログラムにおけるボード(board)とは理事会、取締役会といった組織における意思決定機関を指します。
本プログラムはこれまで、NPO法人や非営利型株式会社といった非営利組織のボードメンバー・経営陣と、企業の経営者、大手企業サステナビリティ/CSR部長、次期役員候補、新規事業企画者、弁護士、会計士、議員、大学教授、非営利団体の代表、大学院生といった多様なセクターの人々が共に経営やガバナンスについて学び、セクターを越えて協働・創発を生み出す土壌を育んできました。
一方で、これまでに期を跨いだ参加者同士のリアルでの交流の場は、コロナ禍などの制約もあり、実施することができずにいました。
そこで今回、第1期、第2期、第3期の参加者の皆さんを招待し、新たな関係構築や協働が生まれる場を準備するべく、ギャザリングを開催する運びとなりました。
今回の開催報告では、私たちWorld in Youがボードフェロープログラムを実施するに至った背景にも触れながら、ギャザリングの模様をまとめていきたいと思います。
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World in Youについて
『世界の誰でも どこからでも より良い社会づくりに力を発揮しあえる世界』をビジョンとして掲げるWorld in Youは、2011年の東日本大震災を機にWorld in Asia(WiA)として設立されました。
設立当初は、被災地で復興や新しい社会づくりに取り組む社会起業家に対する経営支援や日米のビジネスリーダーおよび多様なバックグラウンドの人々と共創していけるネットワークの構築、人材育成や組織基盤の構築などを通じて、中長期で持続可能なインパクトのある活動推進に貢献できるよう取り組んできました。
その後、2013年7月に前代表から山本未生への代表理事交代を経て2014年にWorld in Tohoku(WIT)へ、2022年にWorld in You(WIY)へと改称しながら活動を続け、現在に至ります。
World in Youとは「あなたの中に広がる世界」を意味します。同時に、あなたの周りにはまだ気づいていない・意識していないだけで、様々な人々の中にある、様々な世界が広がっています。
団体の設立以来、私たちは活動地域や内容を変遷させながらも、社会的ミッションを持って活動する組織・個人に共鳴して活動を共にすること、様々なバウンダリー(境界)を越えて多様な経験や専門性を持った人々が関わる機会を生むことに、一貫して取り組んできました。
様々な境界を越えて人と出会うことは、私たち一人ひとりの内面に広がる世界(思考の枠組み・価値観・世界観)を広げてくれます。
そして、互いの世界を共有する機会は、初めのうちは違和感を感じるものの、それを乗り越えることで異なる立場・環境・視点に対する尊重の姿勢と、これまでになかった新たな未来の可能性を生み出します。
ボードフェロープログラムもまた、このような想いを背景に生まれてきており、以下の3つの観点を実現する事業として実施してきました。
NPOの強化
経営・意思決定レベルの底上げと、異なるセクターとの関係強化を促進
企業の進化
持続的な経営のために、多様なセクターや専門性・経験を持つ人々との協働を促進
個人の主体性の発揮
社会課題を自分ごととして捉え、多様な価値観や立場の人との協働を促進
ボード&ガバナンスの重要性とは?
ボードフェロープログラムが生まれるきっかけについては、山本が以前のnote記事で以下のように述懐しています。
熱い想いを持ち活動に取り組む社会起業家に多く出会ってきたのですが、代表一人やコア数名の限られた人で物事を決めて実行していく団体が特に設立初期は大半で、バーンアウトしたり色々な問題が生じるのもみてきました。
団体の経営者が団体にとってより良い意思決定をしていくためにも、団体や代表のことをよく理解した上で、多様な視点を団体のミッションのために掛け合わせられる、そんな「意思決定のパートナー」がもっといたらいいのに、と思ったんです。
そんな折に団体創立メンバーの仲間である井上英之さんに紹介されたのが、『Governance as Leadership』でした。
本書にはボードが果たす多様な役割……それは、ボードメンバーは組織が成長していく上で必要になる有形・無形のリソースを提供する、組織の成長段階に応じて注力すべきモードが変わる、マルチステークホルダーの視点を反映・配慮しながら組織の意思決定に関わり、組織の持続性や価値の創造に貢献するといった多様な役割が紹介されていました。
山本自身もまた、前代表から組織を引き継ぎ、その際にボードメンバーを刷新するなど、組織の成長段階の違いにおけるボードの役割・あり方の違いについて重要性を実感していました。
2014年にボードフェロープログラムの構想が描かれ始めて以降、ボード&ガバナンスに関する探求を深めつつ、2020年1月にWIT(当時)は『Governance as Leadership』を邦訳した『非営利組織のガバナンス』を英治出版より出版します。
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本書をベースに据えつつ、ボードフェロープログラムが生まれました。
これまでのボードフェロープログラム
ボードフェロープログラムに参加した非営利組織は、以下の10団体です。
第1期テーマ
「こどもを産んだ後も女性が本来の力を発揮し続けられる社会の実現」
・NPO法人きずなメール・プロジェクト
・認定NPO法人ノーベル
・NPO法人マドレボニータ
第2期テーマ
「多様な生き方やライフステージに合わせて、一人ひとりが社会で活躍し続けられる女性の働き方」
・NPO法人 Arrow Arrow
・非営利型株式会社 Polaris
・NPO法人ママワーク研究所・Work Step株式会社(グループ会社として参加)
第3期テーマ
「多様なバックグラウンドや状況の若者が選択肢を広げ、本来䛾力を発揮できる社会づくり」
・NPO法人 サンカクシャ
・NPO法人Waffle
・NPO法人WELgee
本開催報告の執筆時点で、第1期開催レポート及び第1期〜第2期開催レポートがまとめられています。
また、ボードフェロープログラムは期を重ねる毎に少しずつ実施方法を更新してきており、以下のようなアップデートを加えてきました。
プログラム中に実施する模擬ボードミーティング(模擬BM)の準備プロセスを取り入れた
参加者の事前の自主学習をもとに、セッション当日に発展的な議論や対話を行う反転学習の方法論を取り入れた
参加いただいた非営利団体それぞれにプログラムの期間中、専属で伴走するファシリテーターを配置することとした
ギャザリング当日のプログラム
チェックインとアイスブレイク
オープニングを終えて初めのプログラムは、第1期、第2期、第3期の期ごとの参加者同士で円座となり、近況報告や今の気分を共有するチェックインを行いました。
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当日は各期ごとに約10名弱ほどが集まり、オンライン上でしか会っていなかったお互いが初めて対面で話せることを喜び合う場面や、数年ぶりに再会する同窓会のような雰囲気、既に別の場での協働が始まっている方々同士の情報交換している様子などが伺えました。
また、当日は会場となった東京近郊だけではなく、九州、大阪、愛知など全国からボードフェロープログラム参加者が期を超えて50名弱に集まっていただくことができ、World in Youとしても嬉しい驚きを感じていました。
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チェックインが終わった後は、この会場に集った皆さんと交流するアイスブレイクの時間です。
それまで円座になって座っていた皆さんが椅子を壁際に避けて立ち上がり、数分間で可能な限り多くの方と「初めまして」の自己紹介を行なっていく時間を設けました。
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各団体の紹介と振り返り
自己紹介が一段落した後は、各団体の紹介とボードフェロープログラムを経ての振り返りを共有いただきました。
NPO法人きずなメール・プロジェクトからは大島由起雄さん、NPO法人 Arrow Arrowからは海野千尋さん、非営利型株式会社Polarisからは大槻昌美さん、NPO法人ママワーク研究所/Work Step株式会社からは田中彩さん、NPO法人WELgeeからは渡部カンコロンゴ清花さん、NPO法人 サンカクシャからは荒井佑介さんに登壇いただきました。
また、遠方等で参加が叶わなかった認定NPO法人ノーベル、NPO法人マドレボニータ、NPO法人Waffleの3団体は準備いただいた資料を山本が代読しました。
各団体の振り返りからは、組織としての転換期に参加することになった、模擬BMの参加者の皆さんから忌憚のない・率直な意見をいただくことができた、実は最後まで参加するかどうかも悩んでいたが、参加して組織が大きく変化した、といったお話も聞くことができました。
研究の視点から見たBFP
ボードフェロープログラムには関⻄学院大学の石田祐さん、東北大学の岡田彩さんのお二人に第1期から参加いただいており、現在、World in Youと共同での研究に取り組んでいます。
お二人からもボードフェロープログラムに関する社会的意義、継続的な研究によって浮かび上がってきたことについてお話しいただきました。
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本プログラムは経営、NPO、ソーシャルイノベーション、リーダーシップ開発、ガバナンスなど多様な切り口から研究することが可能であり、本プログラムを研究対象とすること自体が学際研究になりうる、というお話も伺うことができました。
また、ボードフェロープログラムの参加団体へのインタビュー調査などからは以下のような共通項も見えてきている、とのことでした。
経営やボードに関して相談できる存在や協働相手がいることのありがたさ。抱え込まなくても良い安心感を得ることができた。
外部の人を模擬理事として迎えることで、当たり前化していた団体独自の価値観や認識を自覚すること、言語化すること、他者に伝えることが促進された。
分科会形式の対話の時間
ギャザリング最後のプログラムは、分科会形式の対話の時間でした。
オープン・スペース・テクノロジー(Open Space Technology)という生成的な分科会の方法を模して、一人ひとりが話したいテーマを掲げることからグループを作り、対話していく時間を設けました。
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話し合いたい人同士がじわじわと磁石のように引き寄せられ、グループが作られていく様子からマグネットテーブルとも称される対話手法ですが、こちらでマニュアル配布も行われています。
時間を区切って2ラウンド行う予定でしたが、話の熱が冷めやらず対話が継続されるグループ、新たに生まれるグループなども見受けられました。
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ギャザリングを終えて
今回のギャザリングは、World in Youとして2019年夏以来のリアルイベントとなりました。
この5年近くの間にコロナ禍によって対面でのイベント実施の難しい状況が生まれ、その間に完全オンライン形式で第1期〜第3期のボードフェロープログラムが実施されました。
第3期を経て今回、全国から多くの仲間たちが集い、期を超えて交流する機会をつくれたことをとても嬉しく思います。
当日参加いただいた皆さん、会場をご提供いただいたBIRTH LABの皆さん、そして、当日スタッフとして駆けつけてくれた仲間たちに感謝申し上げます。
また、今回のギャザリングの中でのチャレンジであり、やろうとしてよかったと感じたのは、参加者の皆さんの子どもたちに対してもインクルーシブな場をつくろうと試みたことです。
当日はシッターさんにも来ていただき、また、参加者の皆さんと子どもたちがコミュニケーションする様子が会場各所で見えました。
私たちの一人ひとりの日々の活動は、今回、会場に来てくれた子どもたちが生きていく社会の未来に繋がっています。
また、社会課題の解決に取り組む私たち自身の生活や人生が豊かなものであることの大切さも、活動を継続する中で日々実感しています。
今回、ご参加いただいた皆さんにもそのようなあり方を少しでも感じていただけたなら幸いです。
第3期を経たボードフェロープログラムは今後、石田さん・岡田さんとの共同研究も継続しつつ、第4期以降にどのような形で実施していくのかは今まさに検討を進めています。
当日参加いただいた皆さんや、本記事をご覧いただいた皆さんと共に次へと繋いでいければと考えておりますので、ご関心のある方はぜひメッセージしてください。ご一緒できる機会を楽しみにしております。
BIRTH LAB鈴木さんからのメッセージ
今回の会場であるBIRTH LABは、第3期ボードフェロープログラム参加者である鈴木修さんが運営チームとして関わるコミュニティスペースです。当日は全国から50名近くの方が集い、活気の溢れる場が生まれました。
以下、今回のギャザリングを終え、鈴木さんから頂いたメッセージです。
半年間のボードフェロープログラム本当にありがとうございました。 World In Youさんの開催したかった場、そこに集まった方々の表情の両方が最高で、 みなさん本当に楽しそうにされていたのが印象的でした。
私も3期目に参加させていただき、リアルでご挨拶したかった方に会えて話せるってこんなに楽しいことなんだと思いながら、 会場スタッフとしてその場づくりに関われてすごく良かったなと思っています。
私は当日の会場を"想いを実現する場"として日々運営しているのですが、 それが実現した瞬間は毎回楽しくてしかたがありません。
ここから生まれる何かがありそうな雰囲気だったので、 それが生まれた場所としてこれからも場を運営し続けたいなと思います。 これからも引き続きよろしくお願いします。
World in You山本からのメッセージ
World in Youとして実に5年ぶりの対面でのイベント、とても感慨深い時となりました。ちょうど私自身が15年住んだ米国から日本へ引っ越してきたタイミングでもあり、これからさらにリアルとオンラインの力を組み合わせていきたいと思います。
ボードフェロープログラムはとてもチャレンジングな試みであり、これに3年間ご一緒し、今もこうしてつながっていただいている皆さまに心から感謝と嬉しい気持ちで一杯です。
お越しいただいた皆さんも今回難しかった方も、そして、チームの皆さんも、ありがとうございます! 人々の想いや携えていることや世界(world)同士がつながり、社会をよくする力となっていくよう、今日のこの場からも種がまかれ、木々が育っていきますよう、願っています。
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