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「亡き人と暮らす―位牌・仏壇・手元供養の歴史と民俗―」レビュー
企画展「亡き人と暮らす―位牌・仏壇・手元供養の歴史と民俗―」(2022年3月15日~ 9月25日)を訪ねた。会場は日本の歴史学、民俗学、考古学にまつわる資料を30万件以上収蔵する国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)。
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企画展は「第4展示室(民族)」の一角。第4展示室をくまなく見るだけで3時間強かかり、他の展示室は見ることができなかった。膨大な展示量だ。
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本展の開催趣旨は以下。
近年、少子高齢化の進展や家族観の変容によって、仏壇じまいや手元供養の出現など、大きな変容も生じています。
そこで本展示では、仏壇や位牌、仏具などのさまざまな祭具に注目し、仏壇祭祀の展開やその地域的多様性、現代の変化など、家のなかでおこなわれる死者の祭祀の多様な歴史と民俗について考えていきたいとおもいます。
企画展ではまず仏壇の成立やかたちを見せ(以下の写真向かって左)、多様な位牌のかたちや仏具を見せ(中央奥)、手元供養の誕生と、現代的な試行錯誤を見せる(右と中央手前)という構成。
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「仏壇」が江戸時代に普及したこと、中国の儒教で使用されていた「位牌」が日本にも中世に流入してきたこと。そして昨今ライフスタイルや家族構成の変化で仏壇離れが生じ、故人の遺灰をペンダントなどに保管する「手元供養」の誕生が紹介されている。
筆者はこの企画展示に赴いた日の午前中、都内の霊園で、樹木葬の納骨と位牌開眼の法要を行った。その際に開眼(魂入れ)した位牌も従来式ではなく、透明なアクリルをダイヤのようにかたどった扁平な形だった。従来型の位牌がどこか厳かさや神妙な気持ちを抱かせるのに対し、こうした現代形は、どこかポップな雰囲気を伴う。死との関わり方や考え方が変容してきているのだ。仏壇や位牌の役割も変化してきていると顕著に感じる。
また展示では、最新の動向として
故人を偲ばせるデジタルデータも祭祀の対象になるなど、追悼の時空間は大きく変化しているのである
として、「デジタル鏡」が紹介されていた。鏡の前でじっとしていると故人の姿が浮かび上がってくるという驚きの装置だ。意図しない時に不意に死者の肖像が浮かび上がり、感情が揺さぶられる、など改善の声もあるようだが、こうしたテクノロジーがわれわれの死生観も変えていくのだろう。
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国立歴史民俗博物館は、2020年にも性差・ジェンダーに関した企画を行うなど(※その際のレポートはコチラ)、時宣に適った展示があり、考えさせられることが多い。本展は会期末まで残りわずかだが、ご関心の方にはぜひ足を運んでいただきたい。
Text by 中島光信(僧侶・ファシリテーター)