#10 「おもしろい!」を言い合えるチームが良いチーム
ワークショップデザイナーの相内洋輔です。先日、縁のある大学から非常勤講師のご依頼をいただきました! 「いつかここで教えたい」と20年間思い続けてきた大学からのオファーだったので、とても嬉しい気持ちで一杯です。
講義は演習形式で、チームでの協働や合意形成などについて体験していただきます。良い講義になるよう、しっかり準備したいと思います! ご依頼に感謝です!
こうした経緯で、今日はうまく協働が進むチーム、アイデア発想が素晴らしいチームの特徴について書いてみたくなりました。
「おもしろい!」 は対話を盛り上げる魔法の言葉
私は2018年に独立して以来、これまで300件近くのワークショップをご提供してきました。伴って、数多くのチームを見てきました。
ワークショップ中に生まれた即席チームもあれば、長年一緒に仕事をされてきたチームもありましたが、結成期間の短長を問わず、アイデア発想が盛り上がるチームには共通点があります。
ズバリ、誰かが意見を言った時に「おもしろいね!」というポジティブなコメントや、ボディランゲージが顕著なチームは、総じてアウトプットのクオリティも高いです。
「おもしろい!」「いいね!」などの相槌は、対話に良いリズムと躍動感を生み出し、アイデアが雪だるま式に大きくなったり、ユニークな新結合を誘発します。
肯定的なリアクションが多いチームは、何かが生まれそうな気配をまとい始めるのです。
否定的なチームは発展の芽を得られない
対して、否定から入るチームは必ずどこかで行き詰まります。心理的安全性が損なわれ、自由に意見を言えない空気が蔓延してしまうことで、アイデアを膨らますための材料が揃わないのです。
その結果、最終的なアウトプットは、否定の中心人物か、責任感の強い人が提案した、つじつま合わせの意見になりがちです。
「共創(コ・クリエーション)」という、お互いの価値観や知見を持ち寄り、新しい価値を共に創りあげる営みを指す言葉がありますが、否定的なチームはその正反対の状況に陥るんですね。
これが「独創的」で面白ければまだいいですが…、たいていの場合そうはなりませんし、こうしたチームが会場中を興奮させるようなアイデアを出す確率は、経験上ほぼありませんでした。
田中安人さんは『答えのない世界を突き進むための最強仕事術 妄想力』の中で
と言い切っておられるのですが、まさにその通りだと思います。
Yes,Andのマインドが新しいアイデアを生み出す
これらを言い換えると、Yes, Andのコミュニケーションが上手なチームは対話が盛り上がる、とも表現することができます。
Yes,Andは私が2021年から非常勤講師を務めている東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科でも特に大切にしているお作法の一つで、これがあるとないとでは、対話の成果が大きく変わります。
この点の説明についてはとてもいい記事を見つけたので引用させていただきます。
何から何まで全肯定する必要はありませんが、少なくともアイデアの発散が重要なシーンでは、こうした姿勢を身につけられているチームが圧倒的に成果を出しやすいのは間違いありません。
だから私は、多くの人に、心理的安全性を高めるためのコミュニケーションを伝えていきたいと思っているんですよね。
私は昔、否定的なコミュニケーションが中心だった…
ただ、恥ずかしい話ですが、私は若い頃、これとは真逆のNo Butコミュニケーションに終始していました。
共有されるアイデアのネガティブポイントを反射的に探してしまうタイプだったため、一体どれほどの損失を作ってきてしまったのだろうか…と、今となっては反省しかありません。
『ことばの焚き火 ダイアローグ・イン・デイリーライフ』という素敵な本がありまして、対話で何を意識するかという項はぜひたくさんの方に参照いただきたいのですが、私は昔、特に下記の2点が苦手でした。
私はよく若い頃の自分を「ジャイアン」と表現しているのですが、自分の経験や想定に固執し、自分のものの見方を押し付ける、エゴの塊のような人間でした。あの頃は周囲を何度も不快にさせてしまっていたと思いますし、正直に書けば、自分自身もとても生き辛かったですね。
ワークショップは他者理解や合意形成のトレーニング機会
少し話が飛びますが、青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム(WSD)では、ワークショップをこんな風に捉えています。
この定義に触れた時、アイデアと人間関係を潰すコミュニケーションを長くしてきてしまった私だからこそ、ワークショップを通じて、相互理解や、アイデアの共創をたくさんの人に楽しんでいただける機会をたくさん提供していきたいと思ったんですよね。
だから私は、講義室の片隅に昔の私のような学生を見かけると、可愛くて仕方がないと言うか、健全な変容を願わずにはいられないのです。
これまでの思考の枠組みや、コミュニケーションの悪癖を手放して、新しい地平から世界と向かい合ってみよう! と決意するためには、そうせざるを得なくなってしまうような、パラダイムシフトの瞬間が重要です。
これは学生だけではなく、大人もそうです。
こういう機会を、私の講義や研修、ワークショップを通じてご提供できたら、ワークショップデザイナー冥利に尽きるなあと日々思っています。
創る時代のお作法は「おもしろがる」
歴代のプレイステーションを開発されてきた茶谷公之さんは、最近『創造する人の時代』という本を書かれ、
と主張されていますが、私も本当にそう思います。私たちはこれからたくさんの解決策を創らなければならない時代を生きています。
深刻な社会課題は、対峙しているだけで暗い気持ちになりがちです。特に私が暮らす東北地方では、10年前と比べて子どもの出生数が半減している地域があったり、高齢化に歯止めがかからない地域があったりと、これまで誰も対応したことのない世界が、既に顔を覗かせています。
知の巨人とも評される松岡正剛さんは、2000年に出された『知の編集術 発想・思考を生み出す技法』の中で、
と書かれています。おっしゃる通り、世の中をおもしろくするのは、特に下り坂の最中にある世の中をおもしろくするのは、一筋縄ではいかないと思います。
先におもしろがるから、本当におもしろくなる
こうした社会と向き合う際、どうしたって気持ちは沈んでしまいますが、その重さのままアイデア出しをしたところで、きっと浮かぶ案はたかが知れているでしょう。
だからこそ、上述したYes,Andのマインドセットに加えて、せめてアイデアを共創する時間だけは、「おもしろいね!」と言い合うコミュニケーションが必要だと思うのです。
脳科学の世界では、「ヤル気」なんてものは存在しなくて、何かを始めたら意欲が湧いてくる、ということが最近よく言われています。先に行動があって、その後に感情が芽生えるという順番です。
ということは、先におもしろがったら、結果もおもしろくなるはずだと思いませんか? これまで私がワークショップで見てきた何百ものチームからも、そう言って差し支えないと思うのですよね。
だから私は、良いチームとは「おもしろい!」を言い合えるチームだと、声を大にして届けていきたいと思っております。
そして、そもそもアイデア共創って、めっちゃおもしろいんですから。
ワークショップデザイナー
相内 洋輔
■ワークショップのご依頼などはこちらから
■関連記事
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?