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「忘れられない日」と「忘れてしまった日」 ポール・サイモン、ラストツアー(@Londonハイドパーク、2018年)
誰にでも、「忘れられない日」がある。
他の誰でもない、自分が一番よくわかっている大切な日がある。
赤毛のチコさんが、「本棚とポール・サイモン 」という記事を読んで、自分にとっての「忘れられない日」を思い出した。
私にとって、それは2018年のポール・サイモンのコンサートだった。
場所はロンドン、ハイドパーク。
青空に太陽、行き交う人の笑顔を見るたびに、たくさんの人がこの日を待っていたことがよくわかった。
当時はドイツで働いて、ここぞとばかりに、好きなミュージシャンのコンサートに行っていた。
というのも、好きなミュージシャンの多くが、60年代なので、年齢を考慮すると、今を逃すと2度とないという可能性があったからだ。
ドイツで働けていることに感謝しながら、この機会を最大限に活用しようと思っていたのだ。
そんな時、ポール・サイモンが今後はツアーを行わない、ラストツアーを行うというニュースが飛び込んできた。それが、2018年3月のことだった。
ツアー日程を見てみると、最終日がロンドンハイドパーク。
名曲「Homeward Bound」を書いたイギリスで、ポールの最後のツアーコンサートが幕を閉じる。
人生に後悔はしたくない。
そう思った次の瞬間には、チケットを予約し、飛行機の手配を済ませた。7月15日の3ヶ月くらい前には予約を済ませたと記憶している。
会場は、エリアごとに区切られているだけで、特に指定席はなかった。
なので、出来る限り前の方でポール・サイモンを見るように、人々をかき分けてステージの方へ向かっていった。
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夕陽に照らされたステージに、「Paul Simon HOMEWARD BOUND THE FAREWELL TOUR」(ポール・サイモン HOMEWARD BOUND お別れツアー)のスクリーンが映し出される。
本当に最後なのだろうか?そんな気持ちでポールの登場を待った。
待ちに待って、ポールが演奏した曲は、名曲「アメリカ」。丁寧な演奏でしっかりと歌い上げるポール。会場は大合唱。最初から感動で胸が震えた。
一番感動したのは、1970年グラミー賞受賞アルバムの「明日に架ける橋」。
ポールが2018年の新しいアレンジで演奏する楽曲は、これまたコンサート会場全体の合唱と重なり感動的なシーンだった。
初めてこの楽曲を聴いたときは、高校生だった。近くの図書館で借りたアルバムをMDに録音し、何度も何度も聴いていた。
その時に、人生でポール・サイモンが見られるとは思っていなかった。
いろいろな辛いことや悲しいことがあった時、この曲にはいつも励まされてきた。この会場にいる人たちの人生にも、この楽曲があったと思うと、音楽の力の大きさを感じた。
コンサートは、あっという間に終わった。
ポールは何度も、「今日まで音楽をやれて、自分は幸せです。どうもありがとう」と言っていた。
そんな言葉の後に、手を合わせて、お辞儀するポールの姿が印象的だった。
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終演後は、周りで満足そうな顔をして、コンサートの感想を伝え合う人たちであふれていた。
夕陽に照らされてたステージは、すっかり夜空の中に溶け込んでいた。
「忘れられない日」は、「忘れられないほど大切な日」だ。
けれども、「忘れられない日」が重要で、それ以外の「忘れてしまう日常の日々」が重要ではないわけではない。
「忘れてしまった日常の日々」があるからこそ、「忘れられない日」に出会えるのだ。
「忘れられない日」と「忘れてしまった日」は、どちらも大切なのだ。
人生で、あと何日心から忘れられない日に出会うのか。
それは、毎日をどう生きてゆくのか、過ごしてゆくのかにかかっていると思う。
なぜなら、「忘れられない日」と「忘れてしまう日」は繋がってるから。どちらも自分の人生なのだ。
だから、できることは先延ばしにせずに、ありふれた毎日の何気ない愛おしさに感謝したい。そして、今日はポールの音楽に浸りたいと思う。
おまけ
この日は、BRITISH SUMMER TIMEというフェスがあり、その中にポールのラストツアーが組み込まれていた。ポールの前はJAMES TAYLORで、少しだったけれど、生で見られた。
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おまけ2
夜はイギリスで食べる定番のフィッシュアンドチップス。
ビールと一緒に、ポールの余韻に浸って、食べたことも良い思い出です。
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