社内エバンジェリスト
エバンジェリストというと社外向けの啓蒙者をイメージしますが、社内向けもあります。
社内エバンジェリスト
社内エバンジェリストとは、社員全員への情報発信を担当する専任者です。
以下を行います。
記事、音声、動画を投稿する
コメント欄、社内SNS、その他フォームなどで意見を受け付ける
以下は行っても良いですが、メインではありません。
勉強会や講演会
書籍やドキュメントやウェブサイト(特設サイト)の作成
以下は行いません。
典型的な仕事(プロジェクトワークやクライアントワーク)
会社がプッシュしたい製品やサービスの宣伝
メリット
3Eを推進できます。
Edification(啓発)
社員全員に対する啓発を広く行えること
Education(教育)は全員一律に同じ水準に引き上げますが、啓発は「個人が各々好き勝手に成長する」ことを支援するものです
社員各々は、社内エバンジェリストのアウトプットを好き勝手に使います
Encourage(促進)
社員達の議論や着想や行動を促せること
社内エバンジェリストは様々なアイデア、提案、提起も行います
社員各々は、社内エバンジェリストのアウトプットを見て好き勝手に批評や検討を行います
Emanation(感化)
社員達に新しいやり方や考え方をインストールすること
社内エバンジェリストは社内にはないやり方や考え方を持ち込んだり、つくったりもします
社員各々は、社員エバンジェリストのアウトプットを見て、新しいやり方や考え方を知ります
社内エバンジェリストがしないこと
社内エバンジェリストがしないこと、あるいはさせないことを整理します。
プロジェクトワークやクライアントワークはしない
20%ルールなど「次のための活動」「課外活動」はよくありますが、社内エバンジェリストはこれが100%になったようなものです。
別の言い方をすると、案件と呼ばれるような仕事は一切抱えません。締切という概念とも縁がないはずです。
身も蓋もない言い方をすれば、好き勝手にアウトプットして遊ぶだけです。
もちろん、社員全員にヒントと影響を与え続けないといけないので、それなりに大変です。継続的なアウトプットはもちろんのこと、勉強や思考もたくさんやります。社員全員からのフィードバックも受け付けるので、その咀嚼や選択も要ります。
このようなことを息するように行える人物でないと、社内エバンジェリストは務まりません。
ビジネスはしない
社内エバンジェリストは直接的に利益を出す存在ではありません。
ですので、何らかのビジネスを正式に行うことはありません。ただしアイデアを出すことはやります。ゼロイチでいうイチの部分ですね。出したイチをどうするかは、社員全員に任せます。
よくあるのが、新規事業におけるプロデューサーのような立ち回り――言い出しっぺが最後まで責任を持って走れ、とするあり方ですが、社内エバンジェリストは責任は負いません。むしろ、無責任に色々と発信します。そうした発信に 100% 振り切っているのが社内エバンジェリストです。
社内政治はしない
社内エバンジェリストは、自身のテーマを自身で発信します。会社からの要請、特に会社としてプッシュしたいものを過剰に押し出したり、プロパガンダを進めたりといったことはしません。
しかし、あまり好き勝手すぎても社員がついてこないので、社員達の興味やニーズに応える努力はもちろん必要です。可能ならテーマ選定の段階で、ある程度それが叶うものを選びたいところです。
上司はつかないか、ついても管理しない
社内エバンジェリストは、自身の裁量で活動できることが絶対的に必要です。アウトプットの度に上司から承認をもらうといったことはあってはなりません。
社内エバンジェリストの広域性や独創性を、他者が管理するのは不可能です。たとえば毎日ブログを更新するとして、その査閲と毎日行えるかというと、ノーでしょう。
そもそもどんな情報が誰の役に立つか、いつ役に立つかなんてわかりません。だからこそ、社内エバンジェリストは社員全員に発信してしまうことで、何かが起こる率を上げています。承認はこの戦略を阻むハードルでしかありません。
野放しが厳しい場合は、ティール組織の助言プロセスを使いましょう。つまり、権限はないが助言はする、という形を取ります。もちろん助言を待っていてはオーバーヘッドになるので、社内エバンジェリストが好き勝手にアウトプットしているように、上司役も好き勝手にフィードバックを送ります。
そういう意味では、上司というよりオブザーバーという表現が適しています。組織的な上司、という位置づけだと、利害関係が発生してしまって上司側のコントロールがどうしても発生してしまうので、組織構造的に切り離した上で、必要ならオブザーブするくらいが望ましいです。
質で勝負しない
すでに述べたとおり、何が誰の役に立つかなんてわからないので、質にこだわりすぎるというよりも量で勝負します。
たとえばブログを毎日更新する程度は当たり前ですし、何なら1日複数件でも良いでしょう。そもそも「1日1件ずつ出す」のような出し惜しみをする意味はありません。
一方で、あまりたくさん出しても社員がついてこれないので、見てもらうための工夫は色々と必要です。社内SNSやチャットでもアピールしたり、あちこちのイベントに馳せ参じたり、ブログだけでなくポッドキャストや動画も投稿したり、など活動は多岐に渡るかもしれません。
エンタメはしない
最も誤解されやすいポイントですが、社内エバンジェリストはファンを増やして評価を稼ぐ活動ではありません。
社員全員に向けて広く発信することで、社員達の何かを変えることが本懐です。エンタメのコンテンツとして消費されることは、これには含みません。
社員の気を引くためにエンタメやファンビジネス的な活動に頼る必要はあると思いますが、それ自体が目的ではないことに注意してください。
あくまでも、エバンジェリストとして日々発信する情報で勝負します。それを社員に見てもらって、各々思考や行動につなげてもらいます。
遠慮はしない・させない
大胆に言うと、社内エバンジェリストは人間ではありません。
社員全員にアウトプットをし続ける怪物です。また、社員からの意見を遠慮なく受け付けるサンドバッグ(またはアイドル)でもあります。
アイドルというと、わかりづらいかもしれませんが、アイドルとは「推す」という暴力的な行為が許された存在です。
※推すとは、理想を一方的に押し付けて消費する行為です。
社内エバンジェリストもそうあるべきで、だからこそアウトプットを続けられるのですし、社員達からも意見が集まります。
社内エバンジェリストを実現する
0: 前提条件
1000人以上の社員がいること
社員全員に読んでもらえるアウトプット手段があること
「社内エバンジェリスト」というポジションを用意できること
まずはそれなりの人数が必要です。大企業的――1000人以上は欲しいです。社内エバンジェリストは社員全員に広く発信するため、社員の数がいないと機能しません。
次に社員全員に読んでもらえるアウトプット手段が必要です。最も端的なのは社内ブログです。Teams や Slack などチャットだけでは厳しいです。まとまった文章を書ける手段が絶対に必要です。
※音声や動画をメインにしても良いですが、社内エバンジェリストは量が肝心であり、毎日更新くらいは当たり前なので、更新頻度の観点からは厳しいかもしれません。また、非言語的なコンテンツはエンタメになりがちという罠もあります。この記事ではブログなどテキストメインを想定します。
最後に「社内エバンジェリスト」というポジションをちゃんと用意することです。上記の「社内エバンジェリストがしないこと」はすべて満たしたいです。
また、給料もそれなりに確保してください。社内エバンジェリストはワークインライフ的に公私問わず活動を続けることになるので、仕事にフルコミットできるだけの給料が欲しいのです。給与水準の高い企業でなければ、平社員よりも一つ以上上のグレード水準になるでしょう。
要するに、何の仕事も負わず、ひたすらアウトプットばかりする遊び人に社員ひとり分の金(それも平社員以上)を払えるか、という話です。払わねばなりません。
1: 立ち上げ
社内エバンジェリストとなる人材の登用
社内エバンジェリストとしてのコンセプト固め
整備
デビューとアナウンス
※社内エバンジェリストはいったんひとりを想定します。また、細かい社内の調整は扱いません。
立ち上げを行います。
まずは社内から務まりそうな人物を選定します。
アウトプットや自己主張が強そうな、尖った人材をおすすめします。以下記事でも解説しているように、変人的な人材を登用するのがポイントです。社内エバンジェリストは、一般社員に務まるものではないからです。
選定ができたら、コンセプトをざっくりと固めましょう。といっても、どう動くは始まってから変えていけばいいので、ここでは実質テーマ決めです。
テーマは色々考えられます。当サイトのような仕事術(仕事のやり方と啓蒙)の開発と啓蒙は、わかりやすいと思いますが、他にも例を挙げます。
配信
プライベートで登録者万人以上の配信者をしている人がいたとして、そのノウハウやアイデアをお伝えする
社内でも配信や動画の扱いはそれなりにするはずで、ニーズもあると思われる
マインクラフト
マインクラフトにはバーチャルオフィスやメタバースのポテンシャルがあり、働き方やコミュニケーションの仕方を練る上で大きなヒントになる
コミュニティやイベントも多く、日本国内でマインクラフトネタのみで100万人以上のチャンネル登録者が出るほどの市場もある
社内でマイクラを推進すれば、社員の士気やつながりが活性化するかもしれない etc
ダンス、体操、エクササイズ
社員の運動不足は深刻な問題と思われる、特に昨今はテレワークにより加速している
運動や健康に詳しくて、本格的な資格も持つほど取り組んでいる人がいたとして、この人がエバンジェリストとなって運動不足解消を啓蒙するのはどうか
方針としては、以下の3つに分かれると思います。
1: 仕事術(仕事のやり方や考え方)の開拓・改善に繋がるもの
2: 社員の気分転換、生活改善、つながりを促すもの
3: ビジネスアイデアの発生や発展を促すもの
配信ネタは 1:、マイクラネタは 1: と 2:、エクササイズネタは 2: にあたります。また、配信ネタであっても、自身が配信者として活動する場合は 2: の要素が強くなります。
3: の例はここでは挙げていませんが、たとえばアイデアを出すことだけは人一倍できるが仕事はポンコツという人、あるいは作家として活動していて想像力や妄想力が凄まじい人などを登用することが考えられます。
テーマも決まったら、整備します。
ブログやその他アウトプットするためのアカウント、ページ、初期設定などを行います。
整備もできたら、最後に全社的にアナウンスします。
社内エバンジェリストの存在が知られていないと意味がないですし、知られても相手にされないと意味がないので、全社的に正式にアナウンスすることで、いわば泊をつけた状態で知ってもらいます。
ここは全社員に伝えるレベルでちゃんと行ってください。社長レベルのトップが行うのが良いでしょう。
また、できれば、「遠慮はしない・させない」の部分で述べた、アイドルの側面も強調してください。遠慮なく触れていいのだ、何なら殴ってもいいのだという点を知ってもらわないと、中々意見が来ません。
2: 活動
立ち上げが終わったら、あとは日々活動(≒アウトプット)するだけです。
社内エバンジェリストであれば、自発的に活動できるはずです。管理しないと活動できないような人材は、そもそも向いていません。
放っておいても年単位でアウトプットを続けるような、また社員全員からの意見も答えていくようなバイタリティはあって当たり前です。
とはいえ、孤独だと折れる可能性があるので、余力があるなら助言者や相談者を設けるといいでしょう。1on1もおすすめします。
ただし、あくまで実際に動くのは社内エバンジェリスト本人であって、助言や相談を行う側ではない(管理してはいけない)ことに注意してください。