完璧主義をやめれば自動化に近づく 「ツールド・ベストエフォート」

ITのメリットであり、DXの肝もである自動化が進まないのは、完璧主義すぎるからです。完璧に仕上げたいがゆえに「機械じゃダメだ」「人手で修正しなければ」と手作業を入れてしまうのです。


ベストエフォートを変える必要性

完璧主義は良くない、100%はありえない、程々で良い――

このような妥協の必要性は知られているようで、意外と知られていません。「目安はあるけど、保証はしない」「可能な限り努力するだけ」という塩梅をベストエフォートと呼びますが、その前提は人手となっています。

人手によるベストエフォートです。ゆえに、「それは完璧主義じゃないのか……」と言えるほど病的に品質にこだわりしまうことがよくあります。そしてそれをビジネスだから、顧客のためだから、などと正当化します。

この価値観がネックですので、ここを変えねばなりません。


ツールド・ベストエフォート

ツールド・ベストエフォート(Tooled Best Effort)とは、人手ではなくツールを用いてベストエフォートすることを指します。



例1: 海外発のサービスやアプリ

日本語版の日本語訳が拙いことがあります。あれは「機械翻訳したものをそのまま出している」くらいの品質であり、ツールド・ベストエフォートです

翻訳品質は微妙ですが、サービスとしては成立しますし、中の人は余計な苦労を負っていません。翻訳だけなので、上手く自動化できれば手間はほぼゼロになります。


例2: 海外製の社内システム

国内におけるITシステムは、顧客の複雑な要件をそのままシステムに落とし込もうとします。オーダーメイド的であり、私たちが主、ITが従です。当然ながら自動化はできないか、できても相当なコストがかかります(ので普通はできません)。

一方、海外では、標準的な画面やワークフローを先に確立して、利用者がそれに合わせます。標準的です。ITが主であり、私たちが従です。標準の分をつくりさえすればいいですし、DXがまさにそうであるように「自動化しやすい形で標準をつくればいい」ので、自動化しやすいのです。

後者はツールド・ベストエフォートとも言えます。「システム上そうなってるので要求には答えられません」「システムにカスタマイズの余地があるので、それを使って各自対応してください」と突っぱねられるからです。

一方、国内の価値観だと、オーダーメイドなので「わかりました!つくります!」となってしまいます。上手く契約できないと「ここが微妙なのでやり直してください」「前回ああ言いましたが、やっぱりこういう感じでつくってください」などと二転三転します。


例3: SBOM

SBOMについて軽く説明しておきます。

  • SBOMとはソフトウェア部品表を指す

    • あるソフトウェアがどんなソフトウェアから使われているかをちゃんとリストアップしましょうというもの

  • 食品における栄養成分表示のようなもの

    • 成分の表示を義務化することで、健全性を上げたい

    • 昨今はサイバー犯罪が多く、犯罪の大部分は「不具合のあるソフトウェアを使っているせいでそこを突かれる」こと

    • なので「そういうの使ってないよね?」を見える化していきたい

このSBOM、手作業でつくるのは大変で、専用ツールを使います。ツールによる出力で妥協するとも言え、これはツールド・ベストエフォートです。多少出力の品質が甘くても、何もないよりははるかにマシですから、それでいいのです。海外の各種勧告やガイドラインも、品質面にはさほど言及していません。

ところが国内では、これをスルーします。「ツールの出力に加えて、人手によるチェックや修正が必要である」としているのです。総務省など権威的な情報源からしてそうですから、この価値観に抗うのは容易ではありません。

もちろん品質は完璧な方が良いですが、だからといってせっかくツールド・ベストエフォートで済むところを、さらに人手をかけて完璧に仕上げようとしているわけです。

ひどいところだと、最初から完全に手作業でつくろうと舵を切るケースさえあります。もしツールがなければ、つくればいいだけです。それを手作業で泥臭くカバーしようというのは、完璧主義以外の何者でもありません。



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