DEIBよりもRAISE
多様性の潮流は Diversity → D&I → DE&I → DEIB となっています。多様性、公平性、包括性、帰属意識の略です。
一方で、行き過ぎた多様性を疑問視する声もあります。今月もトランプ大統領による大統領令や政策の撤回が話題となっています。
一つの解として、多様性つまりは「多様である度合い」の高さを望ましい状態とした上で、この状態を目指すための実践的な活動にフォーカスを当てます。RAISEを紹介します。
RAISE
RAISE は以下の略です。
R: Representation
代表多様性
組織の「代表者」の顔ぶれがどれだけ多様か
A: Access
アクセス
情報格差がなく、いつでも誰でも可能な限りあらゆる情報にアクセスできる
I: Inclusion
包摂性
スタンダーフ(後述)とみなす範囲が広い
S: Support
サポート
スタンダーフを段階的に拡張していける
E: Equity
公平性
平等主義や画一主義の発揮がないか、薄い
以下、従来の概念と何が違うかという形で解説します。
「代表の」多様性を見る(R)
代表の定義は様々ですが、たとえば経営層だったり、社外向けの発信に顔を出すメンバーだったりを指します。
Representation は、代表のあり方がどれだけ多様かを見ます。いくら口先で多様性と言っていても、経営層が男性ばかりとか、採用サイトがスーツばかりでは説得力がないわけです。
多様性の実態を推し量るには、代表の多様性を見るのが端的です。
情報の透明性を重視する(A)
情報格差は政治を生みます。
政治とは好き嫌いに基づくゲームであり、勝敗があります。政治がはびこる組織では、問題と向き合うことよりも勝ち負けを気にしてしまうため、成長もしづらいですし(ゲームが好きで勝てもする一部の人以外は)居心地も悪いです。
この構造から脱却するには、情報を公開していつでも誰でも見れるようにするのが鉄板です。透明性を高めると表現します。
たとえばサイボウズ株式会社では、
経営会議の議事録や経費の情報もプライバシーやインサイダーに関わるもの以外は公開しています。
とあり、これは経営の透明化と言えます。
他にも業務の透明化――つまり業務に関する情報を社員全員が見えるように公開する、などもあります。こちらはプロジェクト外秘や機密情報の形で阻害されがちだったり、顧客との契約で公開ができなかったりして難易度が高いです(たぶんサイボウズもそこまではできてなくて、それで「経営会議の」と書いているのだと思います)。
RAISE では、この透明性の取り組みを Access にて表現しています。
スタンダーフを広げる(I、S)
スタンダーフとはスタンダード・スタッフ(Standard Staff)の略であり、標準的な社員を意味します。「社員」という人権を表現した単位だと考えてください。
さて、インクルージョン(Inclusion)とは何でしょうか。
多様性の文脈で古くから語られており、日本語では包摂とか包括性と訳されます。本記事では包括性と書いています。包括性とはスタンダーフの広さを指します。
仮に就業規則のレベルで「毎日出社するのが義務である」旨を定めている会社があるとします。この会社のスタンダーフは狭いです。なぜなら、毎日出社できる人しか社員になれないからです。
身体障害、その他何らかの事情で出社できない人は社員になれません。会社内において人権が無いようなものです。包括性というなら、このような「あぶれ者」も社員として扱えねばなりません。就業規則の定義を緩和する、事情があれば例外にする旨を追加する等はすでによく見られます。
次にサポート(Support)ですが、これもスタンダーフの概念で説明できます。サポートとは、スタンダーフを広げる能力を持っていることです。
さっきの例を出すと、現時点でフル出社できる人しか人権がない状態で、これを緩和できるかということです。そのためには、
実際にスタンダーフからあぶれている者への配慮を実行する
その配慮を、会社として正式に採用する
あるいは少なくとも、必要に応じて使えるようにはしておく(Accessですね)
の両方が必要です。一度、配慮を実行しておしまいではないことに注意してください。再現性がないとダメなのです。そこまでできてサポートと言えます。これはつまり、スタンダーフを拡張できるということです。
平等や画一に抗う(E)
会社では、社員全員に一律的な制約を課しがちです。
たとえば全員に対して同じハイブリッドワークスタイルを課します。「社員全員、原則週に一度は出社せよ」などですね。
本当は、
「週一でいい人」
「もっとやりたい人」
「週一でも厳しい人」
「月一くらいならできる人」
「月一でも厳しい人」
など様々なのに、これらを無視して単一の基準を強行するのです。もっともらしい理由がつくことも多いですが、所詮は強行です。やり方や考え方が未熟であるがゆえに、単一にすることしかできていないだけです。
※当サイトでは以前「働き方の多様性」と表現しました。「働き方」が同時に一つしか存在できず、複数共存できていないのです。
さて、公平性(Equity)ですが、これは単一の基準を強行しない度合いを指します。
単一よりも二つ、二つよりも三つ、あるいは最初は一つだが増やしていける方が公平性が高いと言えます。
働き方に限った話ではありません。よくあるのは報酬です。
競争に勝つために給与水準を上げるとして、現年収が400万円の社員🐶さんを、550万円にまで上げたとしましょう。一方で、その他、600万の🐱さんや950万の🐷さんは一円も上がりませんでした。
これを見て、どう思うでしょうか。
不公平だ。平等にするべきだ。たとえば全員一律で +30万 にするべきだ、でしょうか。これは公平的ではありません。
(給与水準引き上げの目的にもよるのですが)この場合はベースラインの向上として引き上げたいとします。であれば、ベース未満の低い人をベースに来るまで引き上げるのは当然です。
単純ですが、ベースが 550 万だとしたら、550 万に至ってない人は 550 万になるまで上げるのです。仮に 300 万円の人がいたとしたら、+250 万と激増になります。一方で、すでにベースを超えている人は一円も上がらず、これも当然と言えます。
このような考え方をして、実際に反映していけるのが公平性という指標です。